1355:目標踏破
ドローンから覗いた景色は、わりと小西ダンジョンの四十層に近いような形になっていた。北側に林があり、南側には比較的何もない雪原が広がっており、いくつものモンスターが見られる。狩場には絶好の場所、と言った感じ。草原マップの何もない所にも似た景色が広がっている模様だ。
あまりモンスターに近づくとスノーマンが反応して【水魔法】を撃ちこんでくるだろう。ドローンなら一発でお釈迦になってしまうのは目に見えているので、ドローンで把握できる天井ギリギリの範囲で索敵をするにとどめる。
ドローンを回収して足元の雪道の進む先を見る。どうやら轍は林のほうへ続いているらしい。これは轍に沿って北周りに林を迂回しながら進むほうが正解に近いらしい。
ここも南北にループしているなら、南へ行ったほうが早くたどり着けるかもしれないという予感はあるが、どうも足跡をたどる限りその可能性は低そうだ。多くの足跡がここから北へ向かうルートを示しており、一番新しいであろうそれも轍と共に北へ向かっている。
北へ行こうらんららんその二ということで、真っ直ぐ北へ向かう。道中には数匹のスノーマンが固まってリポップしていたので倒しながら進む。前を進む探索者パーティーとはかなり距離が離れてしまっているのだろうな。もしかしたら帰りを急ぎで向かっているのかもしれない。
ここのモンスターに苦戦せず倒していっているということは、新熊本第二ダンジョンでも指折りの実力者なのかもしれない。もしくはよほどブドウが必要で集めているのかもしれない。
九州は焼酎に限らず蔵元が結構ある。ダンジョン産のワインを仕込むためにブドウを定期的に収穫して樽に詰めて寝かせて、ダンジョンワインとして売り出す方向性かもしれない。俺が蔵元ならそれを狙って探索者に声をかけて集めてもらうってのも考えるだろう。
一本いくらのワインになるかまでは解らないが、これだけ美味しそうなブドウだ、きっといい値段で販売されていくに違いない。流石に今年来年とすぐに販売されるわけにはならないだろうが、年月をかけてしっかりと熟成されたワインは美味しいものになってくれるのだろうな。
さて、スノーマンを倒しながらしばらく進むと、スノーマンではないモンスターが現れた。アイスゴーレムと呼ばれるゴーレムの氷版だ。相変わらず目の位置に核があるので、多分そこが弱点なんだろうが……ちょっと気になる所があるので【火魔法】で迎撃を試みてみる。
三重化された【火魔法】でどこまで効力のある攻撃が出来るのか。火魔法でファイアボールを打ち出す。アイスゴーレムほどの大きさはないものの、その下半身をしっかりと火に包んだファイアボールはアイスゴーレムの下半身を溶かしにかかった。だが、時間がかかる。雪を火炎放射器で融雪しても中々効果がないように、氷で出来ているアイスゴーレムにとっては徐々に溶かされていくという形になるのだろう。
うーん、効力はあるがやはりもっと火力が必要か。上半身にもファイアボールを撃ちこんでみる。上半身も溶けにかかり、全身を炎で覆われたアイスゴーレムはある一定のところまで炎に耐えた後、黒い粒子に還っていった。どうやら核も氷で出来ていたらしい。
「火魔法は時間がかかりすぎてダメだな。やはり物理でごり押しするほうが早いか」
「足止め程度になら使えるでしょうが、決定打にはなりませんでしたか」
「三重化でもこれなら、普通の火魔法はより効果は薄いんだろうな。もしかしたら雷切で目を狙った方が楽かもしれない。芽生さんはどうする? 戦う場合は」
「そうですねえ。近寄って核破壊が一番手っ取り早いでしょうねえ」
芽生さんも同意見らしい。ここの階層での戦闘行動ならこっちが一方的に先手を取れる。以前小西ダンジョンの砂岩マップで戦ったように、ゴーレムの攻撃を待ってから反撃に転じるような必要はなく、こっちから一方的に攻撃を仕掛けられるように俺も芽生さんも成長したということだろう。
人の通った後を参考にしながら、時々安全な時はドローンを飛ばして周りの視界を確保する。ついでにちょちょっとメモ帳にメモ書きして行っているが、自分たちで地図を完成させてギルドに納品するという指示を受けているわけでもないので、行き道が分かればいい、程度のものを入力してある。
また、二十層マップメモ知識にも北へ行った後林を大きく東へ迂回と書いてあるので、目的地は本来なら北東方向にあるのだろう。よーく見れば、直接北東へ向かっているような足跡もあるが、我々はここでは初踏破の場所だ、やんちゃをして迷子になる可能性だってある。素直に指示に従っておこう。
しばらく戦ってみてわかったのだが、アイスゴーレムは魔結晶以外に何も落とさなかった。ここも魔結晶を集めて金にするにはちょうど良い環境なのかもしれない。
ブドウが直接欲しいなら十九層で、魔結晶も込みになるけど収入として確実なものが欲しいなら二十層で、という区分けかな。魔結晶もアイスゴーレムは緑のものになっている。おそらく二十二層より先は確実に緑の魔結晶になるんだろう。
食品ダンジョンと賑わせてはいるものの、既存のダンジョンに比べるとちょっとだけ収入に劣る所があるような気がしないでもないが、あんまり混雑しすぎてドロップに難があるでは困り者ではある。ちゃんと収入を確保して帰れますよ、という点では悪くないんだろうな。
しばらく歩くと、アイスゴーレム二体が行く手をふさぐ。お互いに一体ずつ、それぞれを相手するが、どちらも物理でごり押し。近寄ってジャンプ切りして核を割って終わり。魔結晶が出たので受け取ってバッグに放り込み、そしてようやく林にたどり着いた。
「さて、ここから林を迂回するように東へ行くとまた何かあるらしいが、林の中にスノーマンが紛れ込んでいる可能性が高いから……と、やっぱりいるな。【索敵】にビンビンに反応している」
「ここから奇襲されるケースもあるんですかねえ」
「ないとは言い切れない。Cランクになって鬼ころしになって帰ってきて、それからずっと新熊本第二ダンジョンに潜ってる、というケースを考える場合、【索敵】を持ってなくても不思議じゃないからな」
「そういうルートもありってことですか。だとしたらなおさら厄介に感じるかもしれませんね。ここまでで【索敵】くれそうなモンスターいましたっけ? 」
「しいて言うならダストマンとノールかな。マップのガレキとダストマンを区別するために【索敵】をくれるかもしれない、という程度だ。ノールのほうは何となくイメージで索敵が得意そうなところがある。でも、それぞれ二階層で二種類しかいないから争奪戦に参加するのは分が悪そうだ」
「ノールの持ってる武器で区別したらもうちょっと種類は多いかもしれませんが、出にくさは相変わらずなんでしょうかね」
このマップで索敵をくれそうなモンスター……もしかしたらこの更に下に存在するのかもしれないが、今のところ思い浮かぶようなモンスターは居ないし、ガンテツが自力で作り上げたモンスターならなおさら判断がつけにくい。
カメレオンダンジョンリザードのようにわかりやすいモンスターというのは出てこなかったからな。【索敵】は新熊本第二ダンジョンにおいても重要な役割を果たすんだろう。
林の中から飛び出してくるスノーマンを相手にしながら林を迂回する。ブドウは二十房ほどにもなった。これだけの量があればワイン用の小さい一樽ぐらいは満たせるかもしれないな。そこまで考えついて運んできたわけではないが、きっといい値段で売れてくれるんだろう。そう信じることにした。
ポーションのほうは相変わらずヒールポーションのランク4が出てきている。倒してきたモンスターの数から逆算すると三%ほどなので、そこそこの数を落としてくれている計算になる。査定での儲けは充分とはいかないがそれなりにあるだろう。
しかし、この階層でヒールポーションのランク4が落ちるとなれば、相当の儲けが出ることになるな。小西ダンジョンでは高山マップレベルの収入となる。見た目を考えればそれほど儲かるというイメージではないが、ここまで潜ってくる探索者の数がまだ少ないことを考えても、稼ぎ場としては充分であると言えるだろう。
アイスゴーレムもヒールポーションのランク4を落とすので、次のカニうまマップ……カニが出ないだろうからカニうまマップではないか、孤島マップではおそらくリザードマンが何種類かでることになるんだろうが、そいつらがキュアポーションを落としてこれも中々の収入になってくれるんだろうな。
食べ物は何を落とすかが見当がつかないが、おそらくは高級か希少な食物を落とし始めるんだろう。残りで出てきていない紹介した食べ物を考えると何が出てくるのかな、と考えながら林を迂回。林を抜け終わったところで周辺を掃除して、安全になったところでドローン。
ドローンからは大岩が見えていたのでそれを目標物にして動く。方向は北東の離れた位置にある。轍跡ともそっちに向かっているので合っていることは確からしい。
ドローンで見る限り道中のモンスターはしっかりと湧きなおしていて、戦いながら行くことは必須の様子だ。アイスゴーレムとスノーマンがそこそこの間隔で湧いているので暇つぶしを考える余裕はあるにしろ、歩くだけで手足が暇になるという事態は避けられそうだな。
芽生さんにも確認させた後ドローンを仕舞う。残り後二十分か三十分というところかな。ようやく一息つけると思うと、ちょっと小腹が空いてきた。二十一層に着いたらテントをこっそり張って、中で休憩しつつガンテツを呼び出すことにしよう。
一撃で倒せる相手をひたすら倒し続ける、という意味ではもう小西ダンジョンの最深層とそう変わりなく、次々に出てくる傍から吹き飛ばしているため乱獲も良い所ではあるが、リヤカーを持って潜っていてもどうせ同じことにはなっただろうという予測は付く。
ただ移動がこっちのほうが楽なため保管庫を使わせてもらっている、というのが今のところの真実だ。もしこんな夜ではなく昼間に活動する場合は他の探索者の目線もあるだろうから目隠しのリヤカーは必須だっただろう。
誰も見てないというのがこんなに素晴らしいことだとは、というのは常に最先端を走ってきた自分達だから言えることで、普通の探索者からしたら保管庫なんてレアスキルを持ち歩いていること自体が問題なのだろうから、もし使っているのがばれたら一悶着あるのだろう。
階段まで歩き抜け、階段を下りる。二十一層も変わらない向き、変わらない空気、そして同じ位置のエレベーターによって構成されていた。どこかに二十一層だと書かれていないとやはりセーフエリアが同じ構造で出来てる都合上、解らなくなって自分を見失うかもしれない。
ともかく、こちらの目標としている階層まではたどり着くことが出来た。周りを見回すが、テントは確かに少ない。ここまで潜れるならエレベーターで真っ直ぐ帰って毎日通勤するほうがお得だと考えられているらしく、ここでビバークを試みる探索者が非常に少ないんだなということが分かる。十五層とはかなり違った風情を見せてくれているな。
セーフエリアの隅っこのほうで、誰も見てないと明らかにわかる場所に大き目のテントを保管庫から出そうと思うが……他に誰も見てないよな? というのを充分に確認し、索敵で動きのある探索者が居ないことを確認してからテントを出す。これは以前回収してきたテントなので保管庫に立てたまま放置されていたものだ。一世代前のテントになるが、テントの中で軽く会話するぐらいのスペースは作ることができる。
まずはエアマットを敷いて、小さめの机を出し、足の疲れを取るべくドライフルーツを食べてウォッシュして、くつろぐ。芽生さんも靴を脱いでエアマットに軽く寝そべり、流石にお疲れの雰囲気を出している。
「さて、流石にそろそろ出てきてくれるだろうな? ガンテツよ。しっかりここまで楽しませてもらったぞ。今出てこないというなら追加物資と酒を置かずにそのまま帰っていくがどうする? 」
何もない虚空に向かって呟く。机の上にはあえて何も出さず、酒だけ受け取ってシュッと消されるような真似をさせないためだ。ミルコならいつものこの手段でもいいだろうが、今回は芽生さんも大分お疲れの様子だし、こちらも門限こそないもののホテルを空けっぱなしでこっちに来ている。
「おう、楽しんでくれたようで何よりだ」
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