1333:ダンジョン庁会見 1
日を追うごとに寒くなり、寝間着も分厚くした。暖かい格好で潜る布団は最高だ。もうしばらくここにいてやってもいいと思わんばかりだが、俺の睡眠欲はそれを許さず、アラームの音で自然に目が覚めてくれるほど快適な睡眠を提供してくれている。もうそれ以上寝なくても充分だと布団が教えてくれる。
布団が眠りは充分だと教えてくれると、次は腹が減ってくる。腹が減っていては惰眠も気軽にむさぼれない。睡眠欲の次は食欲だ。仕方なくベッドから這い出て食事を作るためにキッチンへ向かう。
いつもの朝食を作り、リビングでニュースを見ながらボーっと食事をしていると、ダンジョン庁の会見があるというニュースが入ってきた。おそらく先日オープンした聖蹟桜ヶ丘ダンジョン(仮称)についての説明会みたいなものだろう。
これはちょっと耳に入れておいたほうがいい情報だな。どういう言い訳と説明を用意してダンジョン庁が会見に臨むのか、ちょっと気になってきた。今日の探索は遅らせるか中止するかして、会見の様子を注視することにしよう。
時間まで暇なのでちょっとお料理。昼飯を持ち出して午後からダンジョンに臨むことも考えて、炊飯器のスイッチを押して屋外食事モードにチェンジ。屋内でも米を炊いておけば食事はできるし、後はメインディッシュを何にするかを考える時間だ。
うーん……そろそろグリフォン肉も本格的じゃなくても色々使いまわしのきく食材として何か探してみないといけない所だな。何がいいだろう……基本に戻ってチキンソテーと行くか。シンプルイズベストかもしれないが、ただ焼くだけという工程が少ない分だけ技量が要求される。ただのチキンソテーを作るのは案外難しい。
ここはタンドリーグリフォンと行こう。タンドリー肉は探索当初から散々お世話になったシンプルレシピの始まりだ。ここはいっちょタンドリー味にして普通の鶏肉やウルフ肉とはどの辺が違うかを味わってみることにしよう。
いつものようにグリフォン肉を一口大にして、分量にあった分のスパイスシーズニングを開けてお肉と共に袋に入れてフリフリモミモミ。一通り味がなじんだところで一気に焼き始める。家の中にスパイシーな香りが漂い始め、香りだけでお腹が空いてきそうなぐらいだ。
フライパンからいい匂いをさせつつ、少し弱火で焼いておいてしっかり肉に火を通し、その間に付け合わせのサラダの用意。キャベツの千切りと、人参をピーラーで薄くしてそのまま細長く、キャベツの千切りに合わせるような大きさで切る。シンプルだが今日はこれで充分だ。サラダには謎ドレッシング。
後はご飯ではなくナンとカレーがあれば立派なインドネパール料理の出来上がりだが、流石にナンはない。その気になれば一から作れるが、ナンはともかくカレーの準備はできないだろう。今回はそこそこの物を作った、ということにしておこう。
食事の準備を終わらせて会見が始まるのを待つ。せっかくなので芽生さんにもメール。「真中長官の会見があるそうだから今日のお仕事はそっちにしようと思う」送信。
しばらくして返事。「なんか面白そうなこと言ってたら教えてください、参考にします」面白そうなことか。俺の知らない情報を何か知っているかもしれない。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの一層の隅っこでこっそり会ってたりしたら俺の知らないダンジョンマスター情報を入手していることにもなるからな。
そういうのも含めて知識として仕入れておく必要があるだろう。料理を作り終えて米が炊けたところで料理は保管庫へ、炊飯器は保温のままそのまま放置。会見が始まる前にチャンネルをチェック。弦間さんが出ている番組を探して、見つけてそこにチャンネルを固定する。
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「では間もなく会見が始まる様子です。カメラを現場のほうへ移したいと思います。現場の高橋さん」
「はい、現場の高橋です。まもなく会見が始まる模様です。本日の会見内容ですが、先日発見されたダンジョンに関する情報が開示されるものだと思われております。あ、長官が姿を現しました。間もなく会見が始まる模様です」
現地のアナウンサーが軽く現状を伝え、カメラを壇上に向ける。壇上には真中長官と多田野さん。ダンジョン庁は広報とかそういう見せびらかし要員は今のところ参加させるつもりはないらしい。もしくは、全て長官の頭の中に入っているから余計な口出しは無用、というところだろうか。
「それでは会見を始めさせていただきます。本日の会見はズバリ、先日聖蹟桜ヶ丘に出来た新ダンジョンについてです。あの場所に出来た経緯とダンジョンマスターとの会談以後のやり取り等を含めてお話することになると思いますが、まずは前情報として少々お時間を取らせていただきたいと思います。まず、ダンジョン名ですが、シンプルに聖蹟桜ヶ丘ダンジョンと命名させていただきます。これについては駅からほど近く、交通の要所であることも含めて実際の地名を取って名付けるより最寄りの駅名から名づけることとしました。また当初は舌を噛まずに済むことを考えて桜ヶ丘のみとする案もありましたが桜ヶ丘という地名が全国各地にあることから、聖蹟の名を冠して聖蹟桜ヶ丘ダンジョンとさせていただきます。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンに比べれば名前も短くて済むのが売りの一つですね」
軽く笑いが起きる。やはり高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンが長いというのは誰もが思っていることなんだろうということがここでも共有された。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの名前が長くてうんざりする、という持ちネタはここでも健在らしい。
「また、本ダンジョンですが、ダンジョンマスターとの交流によって、探索者側にもダンジョンマスター側にも双方に利益が見込まれるダンジョンであることを念頭に置いて計画されたダンジョンになります。現在ダンジョン作戦群の部隊が二部隊ダンジョン内を探索し七層までの地図作りを行っていますが、解っている情報としてはまず、このダンジョンには一定の確率で宝箱が出現することが判明しております」
シーンと会場が静まる。それを確認した後、真中長官は言葉を続ける。
「この宝箱のギミックは、ダンジョン庁からダンジョンマスターに対してこのようなダンジョンはどうだろうか? と持ち掛けた話題の一つであり、探し物をするという楽しみがダンジョンにプラスされたことになります。ダンジョン内の形については一層から五層まで探索した結果、旧来のダンジョンとほぼ同じで各四層ごとにマップが切り替わり、七層おきにセーフエリアが存在する可能性が高いと思われます。どこまで既存の物と同じような形で用意されているかまでは解りませんが、ある程度まで地図を作ったところで今回は早めの民間開放という形にしたいと思います。現在ダンジョン作戦群の緊急稼働部隊が七層までの地図を作っている途中ですので、それが終わり次第ダンジョンを開放する準備に入りたいと思います」
隣にいる多田野さんがマイクを取り、記者質問を受け付け出した。記者席からはいくつもの手が上がっている様が見える。この局はかなり後ろのほうに陣取ったらしく、各メディアの様子がよく見える。
「海東テレビの遠藤です。ダンジョンマスターとの会談ですが、どのような場所で行ったのでしょうか。また前回のように高にゃわゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの一層で行ったりしたのでしょうか」
多田野さんがマイクを外して真中長官に何か伝える。真中長官もマイクを抑えてそのまま話すと、マイクに向かって話し始める。
「どこでどのような会談を行ったかについては、ダンジョンマスターとの内緒ということでよろしくお願いします。少々お互いプライベートな話もしたのもありますし、今後話し合いをする時にメディアの皆さんを引き連れながら対話をする、という形になっては向こうにもプレッシャーをかけたりする可能性があり、場合によっては円滑な交渉や対話が出来なくなるかもしれません。お互いの歩調を合わせるためにも、今後もダンジョンマスターとどのような形や場所、誰が対話のキーになっているかなどは、私がやっていたとしてもそれでも内緒という形にさせていただきます」
俺がやってましたよーということをかばうための一言だろう。それ以上追求することはせず、海東テレビの記者は一旦質問から下がった。
「次の方……そこの雑誌社の方よろしくお願いします」
「月刊探索ライフの美作です。宝箱が出るとの話ですが、宝箱の中身は確認されているのでしょうか」
「宝箱は固定設置式、つまり非破壊オブジェクトのようであり、破壊や移動をすることは不可能であったことは確認済みであります。また、その場で宝箱を開けて中身を取り出すと宝箱が消滅してしまうことも確認されています。ダンジョン内は新熊本第二ダンジョンのように通信が可能になっていたため、こちらもリアルタイムで観察することが出来ました。今後利用するであろう民間の探索者が配信事業などを通じて宝箱を開けて中身について占う、といった楽しみが付加されるものだと思います」
「では、宝箱の中身については今ここで解ってる範囲だとしても、質問はしないほうが楽しみが増える、と言ったことになるのでしょうか? 」
「そうなるでしょうね。そもそも何処の階層でどんな宝箱が出て、その中身はどうなっているのか、ということについては積み重ねた情報が必要でしょうから、我々が今宝箱の中身について審議したり、私からわかる限りの回答をするよりも、実際にダンジョンに潜ってみてそこで確認する楽しみを残しておきたいと思います」
開けてみてのお楽しみ、ということか。中身は俺も気になるが、階層よりもちょっといいものが出る、という感じで間違いはないはずだ。二層で出るならヒールポーションや魔結晶あたりが出るものとしては考えられるだろうが、もしかしたらキュアポーションあたりが出ても面白いだろうな。
「次の方お願いします」
「探索・オブ・ザ・イヤーの橋本です。ダンジョンマスターとの話し合いがあったのは一名だけですか、それとも現在手空きになっている二人両方との話し合いを行った結果片方が作った、という形になるのですか。また、他にもダンジョン候補地があるのならあらかじめ我々が知っておくことはできるのでしょうか」
続けて、お世話になっている雑誌社の質問。他にダンジョンを立てる予定は今のところあるのか、立てるなら事前に場所を教えてもらうことは出来るか、という質問だ。
「まず、最初にお断りしておきたいのは、我々は土地インサイダーを目的とした用地の買い占めに反対する立場であるということです。事前にそれを知らせることによる混乱や業者による土地の買い占めや立ち退き、それらにかかわる犯罪行為スレスレの事象について、発生する可能性を防ぐためにあえてクローズドとさせていただきます。その上で、候補地はまだある。それだけはお伝えしておきます。それ以上のことは今の段階では申し上げることはできません」
うむ、立派に言い切った。確かに、ダンジョンが出来るならと探索者用のアパートやウィークリーマンションなどが建ち始めるだろうし、事実いくつかのダンジョンの周りではそうなりつつもある。昔ながらの銭湯の形での営業を始めたところもあるそうなので一概にダンジョンによる景気向上の効果はあるとみていいだろう。
しかしその上で、それらの施設を無理矢理作るためにあの手この手を使いだす輩を可能な限り排除するために事前に情報を漏らすようなことはしない、と断言した。つまり、他にもダンジョンを立てる予定があるということをはっきり示したわけだな。
「月刊ダンジョンタイムスの小南です。これはダンジョンとは直接関係はないのですがあえて質問を。先日から徐々に運転式が行われている魔結晶発電ですが、現在のところ、魔結晶のギルド査定価格の値下げを考えてはいらっしゃいますでしょうか。魔結晶発電は魔結晶の価格で発電価格が決まると言っても過言ではありません。その為、魔結晶の価格を下げることで各家庭に供給される電気の価格を下げる効果も見込まれています。ダンジョン庁として、現在どのような考えを持たれているかお答えを頂きたい」
「魔結晶の価格については、現状では手を付ける段階にはまだ早すぎると考えています。現在、ギルドのレンタルしている倉庫には膨大な量の魔結晶が蓄積されています。それがどのくらいのペースで消費されていくのか、または消費される量以上に供給されていくのか。それらを見極めてからでも遅くはないと考えています。少なくとも次の二月に行われる価格改定において、魔結晶価格については変更がないことをここに確約いたします」
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