1334:ダンジョン庁会見 2
ダンジョン庁は魔結晶の価格を弄ることを今のところヨシとはしていない。それは伝わった。今までそれなりに高額で取引されていたこともあり、未来的資源としてかなりの量が溜めこまれていることは理解しているし、その倉庫代も馬鹿にならないことも解る。なのでまずは消費量と採掘量を把握し、どのレベルでつり合うのかを考え、もし足りないならば現状維持かつ魔結晶発電施設の建造のペースの低下や魔結晶価格の値上げ、または海外からの輸入などで賄う必要が出てくるだろう。
また逆に余ってくる場合は、魔結晶価格の低下……と言っても粒が大きく体積も場所も取るし魔素密度も低いが、それなりの量が産出される黒や赤の魔結晶は現状維持として、以前下げたように緑や青の魔結晶の買い取り価格を少し下げて調整する、という可能性は高い。
「帝都テレビの寺沢です。今後もダンジョンは新しく生まれるということは解りましたが、新しいダンジョンが生まれるにはダンジョンマスターの手が空く必要がある……つまり、既存ダンジョンの踏破も同時に行っていかなくてはならないと推察されます。現状はダンジョンマスターにお願いしてより深くダンジョンを作ってもらうという路線で進めたいと何かで聞いた覚えがありますが、その方針は確実なものなのでしょうか」
「たしかに、現状いくらかのダンジョンでは既に最下層であるダンジョンコアルームまで到達している探索者もおり、その点ではお察しの通りかと思われます。ただ、ダンジョンは踏破してもまた新しいものを立てるというダンジョンマスター側の方針もあり、現在はダンジョンマスター側に間接的に働きかけ、最下層をより深く作ってもらう方向性で調整しております。理由はいくつかありますが、新しく作ったダンジョンでもエレベーターが同じように動作する……つまり、旧来のダンジョンで潜った階層がそのまま記憶されてまた新しいダンジョンでも同じように潜れるのかどうかという点については新熊本第二ダンジョンを参考にいたしますと、ダンジョンの踏破記録は新しいダンジョンの仕組みになった時点で一旦リセットされるということが確認されています。そのため、踏破して新しく作り直すよりも現行ダンジョンをより深く作ってもらうほうが探索者の側からしても移動の面でメリットがあり、ダンジョンの奥でより濃密な魔結晶を搬出することが可能であります。いずれは新しい仕組みのダンジョン同士で連携し合ってエレベーターの階層を相互で共有し合う、と言ったような形の改良がくわえられるかもしれませんがそれまでは現状のまま保持、という形に持っていくつもりであります」
エレベーターの階層がリセットされるのは潜りなおすのが面倒だから現行のをそのまま利用した方が便利である、というのは納得が出来る話だ。地元の探索者もわざわざ潜りなおさずに済むのはありがたいところだろう。俺だって小西ダンジョンを踏破してもう一回作り直すからと、一層からまた順番に潜るのを許容できるかというとちょっと難しい所ではある。
「次で最後にいたします。何かありましたら挙手で主張をお願いします。すでに一度質問された方でも構いません」
すると、月刊ダンジョンタイムズの記者がまた手を上げる。複数質問があるのか。
「月刊ダンジョンタイムスの小南です。現在防衛省から借り受けている部隊によってのみ探索を行っている官用ダンジョンですが、民間開放についての進捗が分かれば教えていただきたいところです」
「官用ダンジョン、あえてこういう言い方をしていますが、ごく一部のダンジョンを除いて、交通環境に問題がない場所については順次開放していくことが決定されています。具体的なスケジュールは……まだはっきりしていませんが、引き続き開放に向けての手続きは進めていきます。今言えるのはこのぐらいで申し訳ない」
官用ダンジョンの民間開放は順次開放予定ということらしい。交通の要所でどこか官用になっているところはあったかな? と疑問が湧くが、俺はそもそも小西ダンジョン以外の地理的な各地のダンジョンについて知り尽くしている訳でもない。先日の松本ダンジョンも、松本にダンジョンがあることを知ったのが取引前日だったりする。そのぐらいダンジョンについての知識はない。
「ここで会見のほうを終了させておきたく思います。また、質問などがありましたらダンジョン庁のほうへ連絡していただければできるだけ明確な回答が行えると思いますのでその際は是非ご利用ください。本日はありがとうございました」
多田野さんが会見を締め、カメラがスタジオに戻ってきた。
「弦間さんどう思われますか? 新しいダンジョンについてはどのような期待ができるのでしょうか」
「先日とあるダンジョンで宝箱の出現するイベントが開催された……というのは前に何処かで話したと思いますが、今回のダンジョンのデモンストレーションであったと考えます。そこが何処のダンジョンだったかというのは各人で調べてもらうとして、他のダンジョンマスターにお願いしてダンジョンのシステムのバグチェックをしていたんじゃないか、という私の推測がある程度当たっていたんじゃないかと思いますね。何にせよ、こちらのお願いをある程度聞いてもらった範囲で新しいダンジョンが生まれていくということは、お互いの共存という意味でも非常に好ましいことになるでしょう。その内ダンジョン庁から、どんなダンジョンを作って欲しいか、なんて公募を募ることになるかもしれませんね」
公募のダンジョンか。ダンジョンがより面白く人を集めるような仕組みになるならそれもまたありだろうな。ただ、あくまでダンジョンの主目的である魔結晶の搬出を阻害するようなダンジョンはダンジョンマスター側にも好まれないだろう。そうなると、ダンジョンの面白さというのも余り範囲が広くないのかもしれないな。
「何にせよ、ダンジョンマスターとの仲が維持されていることは非常に良いことだと思われます。また、現在次の階層を作ってもらっているダンジョンマスターについても、例えばダンジョンマスター自身が今の階層を深く作るよりも新しいダンジョンにしてオープンし直す方に舵を切ることになるかもしれません。日本には百ほどあるダンジョンの内、少なくとも二つは新しいダンジョンが出来上がっていることから考えるに、このままの流れで徐々に新しいダンジョンは新しく、古いダンジョンは古いまま残していくことで、ダンジョンマスター側の目的である魔結晶の搬出による魔素の拡散が行われていくことにほとんどの人が納得していることからも悪くない話ではあると思いますね」
ダンジョン庁とダンジョンマスターによる初めての共同作業……という意味では熊本第二ダンジョンのほうが先になるのだろうが、お互いの場所や仕組みを完全に話し合ってのダンジョンという意味ではこれが初回になる。まだ四つも隠し玉がある、というのは俺と真中長官と、幾人かしか知らない事業ではある。
「なるほど、ではこの流れはもうしばらく続いて、もしかしたらもう一つのダンジョンも新しく作られる可能性が高い、ということでしょうか」
「そうなると思います。もうしばらくは新しいダンジョンへの期待が高まっていてもいいんじゃないですかね。後はどこにダンジョンが立つかでしょうが、それはおそらくダンジョン庁の言う通り、事前に土地を買い占めてダンジョン庁に土地を高く売りつけるようなことがないようにという懸念通りのことになると思いますね。出来れば我々の目の前でダンジョンが出来る瞬間というのを目にしたいところではありますが、ダンジョンマスターと対話ができるような環境がそうそうない以上、難しそうですね」
しかし、毎日散策させてダンジョンが現れるかチェックさせているということは、後四人は特命を受けてその場所をチェックさせられているということか。口の堅い職員が日々いつになったらダンジョンが立つのか待ち焦がれているんだろうな。
テレビを消して出かけることにする。これ以上は大体話の先が思いつく。長々とみているよりは今日の稼ぎをきっちり稼いで行く方向性で今日の仕事を進めていこう。
炊飯器をきちんと保管庫に入れて、飯の準備はよし。流石にこの時間の茂君は刈れないから行きは真っ直ぐ七十層だろうな。さあ、着替えてダンジョンへ行こう。
柄、ヨシ!
圧切、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
籠手、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
車、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は忘れずに。まあ飯さえ忘れなければいいだろう。後は普段から保管庫に放り込んであるし、取り出した覚えもない。指さし確認でタンドリーグリフォン肉が入っていること、炊飯器が入っていることを確認出来たらそれで全てよし。会見を待っていた分出遅れたが午後の作業には間に合うはずだ。
◇◆◇◆◇◆◇
丁度いいタイミングのバスがなかったので自転車でダンジョンまで向かう。風が少々冷たい時期になってきた。だが、ほどほどの温かさが内側から生み出されるので風がなければそこそこ体が温まってきた。準備運動だと思ってペダルをこぐ。
ダンジョン前に良い物件があれば購入もやぶさかではないんだな。このバスと電車での移動時間が短縮出来てその分の時間を短縮出来てより稼げるということにもなるのか。そう考えるとやはりダンジョンの近くに住む、というのも悪くないんだなと最近思い始めた。一日一時間通勤時間を削ればその分だけダンジョンで稼ぐ時間が増える。
今の階層で一時間稼げるならその辺の土地を買って家を建てて、事務所兼自宅として運用していくにも便利だ。やはりそろそろ一考するべきなんだろうな。
ただ、小西ダンジョンが踏破という形で新規に立て直すとなった場合、ここに家を建てる分だけの金が無駄になってしまうこともあり得る。踏破のタイミングがいつになるかを考えると悩むな。
しかし【雷魔法】二つ分ぐらいの金があれば家ぐらい建ててしまえるんだから、そんなに高い買い物でもないのか。真面目に物件を探して、まずは賃貸からでもいいから自分の体調がどう変化していくのかを観察していくのも悪くないかもしれない。
運動しながら色々と考え事を巡らせる。金の心配はしなくていい。場所と、距離と、環境。良い物件がまだ残っているんだろうか。前に帰ったら調べるか、と思って放置していた内容だ。新居か、それとも居抜きか。どちらにせよまずは広めの土地が欲しいな。
自分一人で試験運用するだけなら今の実家ほどの広さは必要ないが、芽生さんも結衣さんも頻繁に訪れる可能性もあるし、新浜パーティー揃ってごろ寝に来るかもしれないことを考えると、普通の一戸建ての広さでは少々手狭に感じることだろう。
そうなると真面目に新規物件の手配、ということになる。更地でもその辺にあればいいんだけどな。ただ、バスで数停留所分だけ離れているのもちょっとだけ不便ではある。出来ればもうちょっと近いところで探したいところだな。
流れる景色を目にしながら。良い物件はないか、古くて取り壊しそうな家はないか、それぞれ見ていく。流石にダンジョンに近づくにつれ新しい物件が少しずつ増えていく。この辺りにあればベターなんだけどな。
そうそううまいこと流し見しているだけで良いものが見つかるとは限らない。不動産屋に行って細かく調べてもらう必要があるだろうな。
よそ見運転をしながらダンジョンにたどり着き、駐輪場に自転車を停めると、保管庫へ自転車を収納。周りには見られてない。ここはいろんな意味で死角になっているので直接自転車で来ている探索者もいくらかいるが、タイミング的に一緒に来ている探索者は居なかったので安心して収納できるな。
さて、お仕事を開始するか。今日も元気にダンジョン通い、稼ぐだけ稼いで小西ダンジョンのいい場所にいい感じの家を建ててそこに住む。それも人生の目標の一つとして考えておこう。
入ダン手続きをする。受付嬢が珍しいと言った顔でこちらを見る。確かにこの時間に来るのは珍しいだろうな。
「今日は遅い入ダンですね。何かありましたか? 」
「長官の会見を見てから家を出てきたのでそのせいですね」
「なるほど、会見があったのですか。新しいダンジョンの話でしょうかね」
「内容は大体そんな感じでした。では、ご安全に」
「はい、本日もご安全に」
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