銃のドラゴンと結界士
馬車を降りると砂と土と岩で構成された褐色の大地に足を付けた。
見晴らしのいい場所を求めて丘に登ると、隆起した峡谷が視界に広がる。
重なり合うように隆起した地層によって、地形はかなり入り組んでいるように見えた。
迷路状に道が走っていて、ごつごつとした岩が周囲に転がっている。
「ここからは確認できないな」
「出来たら撃たれてるよ」
「たしかに」
景色を見下ろすのを止めて丘を降りた。
「銃龍か」
その名の通り、銃の特徴を持つドラゴン。
親父と同じく戦場で生まれ育ち、よく斬龍と争いになる種らしい。
剣と銃だ。
互いにいがみ合うのも無理はない。
「目撃された地点はまだ先だけど、射線が通ると危ないよ」
「あぁ、わかってる」
相手がドラゴンとあって図体が大きい分、先に見つけられるかと思ったけれど。
明希の言う通り、危ないことは止めておこう。
「そうなるとこの地形はありがたいな」
隆起した断層が銃龍の射線を切ってくれる。
「代わりに上を取られやすいけどね」
「あぁ、気をつけよう」
周囲に警戒の意図を張り巡らせながら、渓谷の入り組んだ地形を歩く。
なるべく断層の上に行くことは避け、迷路状の道をしばらく進む。
そうして狭い道を抜けると、ちょっとした空間に出る。
四方を断層に囲まれ、その中心には一匹の魔物が横たわっていた。
「あれは……」
近づきはせずに眺めてみると、その魔物は死後間もないようだった。
流れて出た血が固まっておらず、腐敗もしていない。
そして致命傷と思われる傷は小さくて丸く、まるで弾痕のようだった。
「罠だな」
「うん」
俺達を狙ったもの、とは考えにくい。
恐らく、あの亡骸を食いにきた魔物を仕留めるためだろう。
釣りと同じだ、餌で釣って大物を狙っている。
「近くに銃龍がいるはずだけど。見つけるには断層の上にいかないとか」
当然、この場所が見下ろせる高い位置に銃龍はいるはず。
断層の上に立てば狙撃のリスクが高くなるだろう。
自らの存在を知らせることにも繋がる。
「私にいい考えがある。付いてきて」
そう言って明希は餌と思われる魔物に近づいた。
意図が読めないが、なにか考えがあるのだろう。
俺もその後に続いて、亡骸の側に立つ。
「撃たれるぞ」
「撃たせるの」
瞬間、銃声が鳴り響く。
飛来した弾丸は、しかし迫り上げられた透明の防壁に衝突する。
「私のスキル、万能結界って言うんだ」
透明の防壁――結界はゴムのように柔らかく、優秀な伸縮性を持っていた。
弾道がはっきりとわかるほどに伸びてて弾丸の勢いを削ぐ。
それが完全にゼロになると、軌道をなぞるかのようにように跳ね返した。
弾丸は引き金を引いた張本人に返っていく。
「オォオオォオオォオオオオッ!?」
銃龍のものと思しき声が響き、続けて巨体が落下した音が響く。
どうやら命中したようだった。
「これで居場所が割れた」
「いいスキルだな」
俺も負けていられない。
「行こう」
「うん」
地に落ちた銃龍の元へと急行した。
§
狭い道を抜けて駆けつけるとまた別の空間に出る。
その中心に銃龍はいた。
翼を持たないそのドラゴンは姿勢を低く、こちらを睨んでいる。
その眼光の鋭さよりも目を引くのは、背中の銃身だ。
骨で組み上げられ、皮膚と鱗で覆われた生物的な銃。
それを背負う姿は生きた自走砲と言っても過言ではない。
銃はそれだけでなく各部位に備わっており、全方位に大小様々な銃口が向けられていた。
「オォオオォオオォオオオオオッ!」
咆哮と共に全身から生えた銃が火を吹く。
けたたましく鳴り響く銃声と、夥しい数の弾丸が撒き散らされる。
浴びせられる弾幕を前に、俺達はそれぞれ防壁を張った。
明希は結界を、俺は氷壁を、それぞれ迫り上がらせて弾丸の雨を防ぐ。
「危ないな」
弾丸が次々に氷壁にめり込み、結界に弾かれていく。
明希のスキルは普通の結界も張れるらしかった。
「向こうは元気いっぱいみたいだ」
跳ね返った弾丸による負傷も浅いようで、すでに血も止まっている様子。
高所から落としはしたものの、ダメージとしてはないも等しい。
「どうしよっか?」
「どうって弾切れを待つしかないだろ? それで銃声が鳴り止んだら――」
ちょうど銃声が止む。
「突撃だ」
氷壁を掻き消し、銃龍へと突っ込んだ。
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