Φ 1章 Φ
Φ Ⅰ Φ
胎児が産み落とされた。
手に抱ける程の小さな身体。微かな産声を上げる、新しき生命。
彼等は息を呑んでその産児を見つめた。
傍目から分かる異常。彼等の種族と異なる様相。有る筈の器官はなく、ない筈の部分が有る。その不完全を超越した姿は、最早違う生命体と言っても相応しい程であった。少し歪とはいえ、同じ種族の胎内から産まれたにも関わらず。
だが、彼等はおぞましさや恐怖を感じなかった。陰影がある顔形は何処か神秘さが漂い、深い畏敬の念を起こさせた。異形の姿は彼等にとって、転機の前触れを思わせた。
我が子の濡れた前髪を、彼は優しく撫でた。
「この子が、私達の未来を変えてくれるかもしれない」
彼女は疲弊しながらも強く頷いた。苦しみの果てに創造された命。奇跡の誕生。死の恐怖に打ち勝って、彼女は一つの可能性を産んだのだ。傍で見守っていた仲間達も驚きを持続させたまま、嬉しさに顔を合わせた。彼等には希望が必要だった。長い排斥の時代に光明が照らされるかもしれないという期待が。
彼等は産児に然るべき処置を行い、準備されていた容器に入れて安静にさせた。
しかし、事態は急変した。
その者は苦しそうに身動ぎをして、小刻みに震え出した。呼吸が浅くなり、心拍が低下する。徐々に色味がなくなってくる。彼等は直ぐさま考えうる生命維持の処置を行った。身体を温め、投薬し、容器内の気体を調節しても回復する様子はない。逆に震えは増し、呼吸が弱々しくなっていく。遂に産児は意識を失った。灯の消えそうな、なけなしの心音と脈が生存の証拠となった。
苦心して模索しても、彼等はどう処置をして良いかが分からなかった。辛うじて繋がる命。救おうにも原因が掴めない。
種族と掛け離れた矮小な姿を眺め、誰かがぽつりと言った。
「この地に順応出来ないのだろうか」
死という単語が誰もの頭を掠めた。茫然と彼は我が子の白い顔を見る。それは今にも動きを止めてしまいそうだった。隣で彼女がか細い声を上げた。
「死なないで……」
残酷な現実に彼の胸に悲哀が込み上げる。苦しませる為に生を授けたのではない。共に生きて、輝く未来を歩ませる為に生んだのだ。
祈りを呟くかのように、彼は低い声を出した。
「生き延びろ。お前は不完全ではない。世界に負けるな。押し潰されるな。お前は私達と一緒に、新しい世界を見るんだ」
器内に横たわる弱き希望。欠けた真円の輝き。
彼は一度白い天井を仰ぎ、瞳を閉じた。脳裏に刻まれている鮮明な理想。仲間達との大いなる望み。錠の降ろされた扉と、広大なる宇宙の煌き。知らず、彼女の手を強く握り締める。彼は掛け替えのない我が子にそっと囁いた。
「聞こえるか。お前の名はもう決まっている。早く目を覚ますんだ」
その者は慈しみに溢れた声で、名を呼んだ。
「バドル」




