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鴉の子  作者: 詠城カンナ
最終章 鴉の子
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運命



【運命】



***


うっすらと目をあける。

さっきまで闇のなかだったのに、白い世界に飛び出した。


ハッとして己の手を見つめる。

そして首を傾げる。

どう見ても、若々しい手だ。


これはおかしなことである。

先ほどまで、自分の手はしわしわの老人の手であった。

年月を重ねて生きてきた証であるから、決して煩わしいわけではなかったが、それにしてもおかしな話だ。

そうして、ふと視界に映った自分の真っ黒な髪に再度驚く。

どういうことだ。

自分はもう、髪も真っ白になってしまったはずではなかったのか……?


うーん、と再度首を捻る。

けれどどこか、心は晴れやかだった。


『鴉姫』


ふと、自分を呼ぶ声がする。

振り向けば、とても見知ったなつかしい顔。

にっこり笑って近づけば、その背後にもたくさんのなつかしい顔ぶれがいた。


ああ、なんてなつかしい。

ああ、なんて嬉しいのだろう。


みんなそれぞれ、最期に見たときとはちがう姿。

若かったり、それなりに年を重ねていたり、いろいろだ。


『姫、おいき。みんなと一緒だ』


引き寄せられ、次いで背中をぽん、と押される。

ふわりと足が浮き、なつかしい顔ぶれのそばに近づいた。


「喜助は、いかないの」


背を押した張本人に頬をふくらませる。

すると、彼は大好きないつものニカッとした笑みを見せた。


『俺様はもういったさ。姫だって知っているだろう?』

「じゃあ、なぜまだココにいるの?」

『そりゃあ、永い時を生きていたからなァ。次の運命の路をいくには、しばらく、順番待ちらしい』


肩をすくめ、ほら、と背後を示す喜助。

視線で追えば、柔らかな笑みを浮かべて待っている夜呂がいる。


腕をのばし、彼と手を繋ぐ。

そうして最後に、もう一度だけ喜助に目を向けた。


「じゃあ、それまで退屈しのぎ?」

『ああ。姫の孫も頃合いだ。護身術も叩きこんでやるよ』


ちょうど俺様の依り代も頃合いだしな、と喜助は言った。


「それは助かる」


にっこりと、わたしも負けじと笑みを浮かべる。



『ああ、姫――笑顔が見れてよかった』



鴉は悪戯っぽく口端を引き上げた。



『しばしの別れだ。またいずれ逢おう』







***


羽を広げて空仰ぎ、

遠く高く鳴いて飛ぶ。


果ての世界まで自由にどこまでも。



姫は闇にて絆を結び、

娘は毒もち動かして、

使者は地を駆け走り、

王は永き終焉に君臨、

覇者は破壊で見出し、

少年は鎮めを全うし、

末裔は運命を紡いで、


そうして


屋敷の主に触れし者はみな、運命を謳歌する……


――鴉の子。






***



『姫、姫!紫姫!』

一羽の烏が唸る。

『姫、人間がきたよ!』


鴉の告げる来訪に、少女はため息をこぼした。


「ああ、それはきっと志季だわ」

『――殺す?』

「だめよ、それ、紅蓮の真似ね?――なにを笑っているのよ、佐助」

『フフ、だって。姫が僕の言葉を理解してくれるようになったから』


嬉しそうに一鳴きし、頬にすり寄ってくる鴉を撫でて、紫姫は微笑した。


「これも喜助兄の特訓のおかげね」


――それでも従兄殿は「俺のおかげだろ」と、彼そっくりの笑顔で言うんだろうけれど。






終わりとはじまりをリンクさせてみたり。


鴉の子、これにて完結になります。

五年と二カ月とちょっとの、とても長い間、しかも途中不定期更新になったなかお付き合いくださり、まことにありがとうございました。

読んで下さる方がいたから、ここまでたどり着けました。


はじめてなろう様で公開したのがこのお話で、ある意味わたしの「はじまり」のようなお話になります。

今読み返すと直したいところも多々ありますが、そういうところも含めていい思い出だなぁ、なんて思えてしまったり……

まさか孫世代まで描写するとは……!でもなぜか、親世代でめでたしよりも、子世代でめでたしよりも、孫世代で終わるのがしっくりきたし、なによりこれからも受け継がれていくような描写をしたかったので……


生き物の数だけ物語があって、ここで書ききれないけれども、それぞれの登場人物にもそれぞれの物語があります。…いろいろ妄想してくだされば嬉しいです^^


あと!喜助が思いの外人気があってびっくりしました。

このお話は喜助に支えられたといっても過言ではない……!笑


長くなりました。

物語のお時間を、一緒に過ごせた気分になっていただければ幸いです><


最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。


2013.06.01(06.09) 詠城カンナ


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