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17話

少しだけ書き方を変えました

 グウェン先生に案内され、リアベル家の長男で、次期当主のエヴァンスの元へと案内された、その隣には学園で臨時講師を務めているというゼノ教官も立っていた。

 父とエヴァの身を守りたい、そう言ったエヴァンスからは覚悟を感じた、途方もなく険しい道を行こうという覚悟が。


「断る理由はありませんが…私にできることはたかが知れています、もう少し詳細な説明を聞けますか?」


「もちろんだ、まず確認だが、数ヶ月後に開催される王立学校の学園祭については承知しているか?」


 その言葉と共に少し頭を動かす、確かデヴィット先生がホームルーム後の連絡事項としてそんなことを話していたのを思い出す。

 確か一年生がやることは少しの設営準備と、部活動や委員会に所属することにした生徒は出店などの手伝いに出ることがあるかも知れない、といった程度の話だったはず。

 ちなみに私とエヴァはどの部活や委員会にも所属しておらず、グレン兄様は弁論部、フレア姉様は陸上行動部へ、セレネは生徒会への参入を試みているのだとか。


「承知しています、と言ってもさわりだけといった感じですが…それがどうかしたのでしょうか」


「その協賛の大部分を我が家でやることになっていてね、今年は国王陛下も出席するということだから、父も出席する予定なんだ…そして、その裏で父の暗殺計画が動いている」


「それを防ぐのを、私に協力して欲しい…と?」


 これでも自分が優秀な自覚はある、少なくとも同年代であれば私と同じことをできる人物を探すのは骨が折れることだろう。

 しかし同年代に絞ることがなければ、多くなくとも、それなりの苦労をかければ見つかることだろう、私の実力というのはそれぐらい微妙な、そんな場所にいる。

 そうとなれば、私である必要があるのだろう、彼が欲しているのは、私のどこなのだろうか。


「その通り、今判明している限り、父の暗殺には私の母の生家、カイゼル家が関係している、そしてゼムフィス家の子息を利用して、父を暗殺し、その責をゼムフィス家に被せ、エヴァの名までも貶めようとしているのだろう、粗方私を当主の座に座らせて傀儡にでもしようとしているんだろうが……話を戻そう、このゼムフィス家の子息、彼を学園祭で行われるトーナメントにおいて足止めして欲しい、それが君に頼みたいことだ」


「なるほど…ん?もしかして、この役目はもともとエヴァにしてもらう予定でしたか?」


「あぁ、その通りだ、だが件のゼムフィス家の子息が急激に力をつけていると、ここのゼノから聞いたんだ、そこでどうしたものかと考えているときに、君の話を聞いた、君になら任せられるんじゃないかと」


 誰に聞いたのだろうか、順当に考えればここへ私を連れてきたグウェン先生だが、そうであれば、彼女から聞いたと正直に答えるだろう。

 本人がここにいるのだから、隠す必要もないはずだ。

 

 そういえば彼の年齢は10代後半から20代前半に見える、魔力を多く持っていることで、肉体が若く保たれていることもありえるが、少なくとも完治する範囲ではそこまでの魔力を保有しているとは考えにくい。

 だとするとちょっとした推測が立てられる、文鳥で聞いた内容が真実であれば、おそらく。


「……クリフ殿下ですね?彼も特別入学と言っていましたから、エヴァンス様も王立学校へ在籍していたのなら、推測するにご学友でしょう」


「正解だ、彼に聞いた、君のことを大層褒めていたよ、話は少し変わってしまうが、あの時は私の従姉妹が迷惑をかけた、謝罪しよう」


「いえ、あれは私の勝手でしたことですから、迷惑だとは思っていませんよ、知った時は少し驚きましたが、エレノアール様と、エヴァのお兄様が従兄弟というのは」


 世間は狭い、と『彼』がいつか言っていた言葉を思い出す。

 いつ聞いた言葉かは覚えていないが、覚えていないということは私の自意識が十分に発達する前か、どうでもいい話の流れだったのだろう。

 

 グレン兄様とセレネが話している時に偶然耳に入ってきたので、慌てて口を挟んでしまい、少し申し訳なく思ったほどだ。

 それからは興味があるなら、と少し違う意向に捉えられたものの、2人の話を聞いて勉強する、という形で色々な貴族家の事情や、世界情勢を聞くことができたので、結果オーライである。


「五大商会とはいえ、一応は商家への嫁入りだからな、無理もない、それで、この話は受けてくれるだろうか」


「受けましょう、少なくとも、今の私に断る理由は見つかりません」


「…そうか、ありがとう、それと、このことはどうかエヴァには内密にしておいてくれ」


「わかりました、あぁそれと、代わりと言ってはなんですが、父にはこのことを伝えてもいいでしょうか」


 その言葉に少し迷うような表情を浮かべるエヴァンス様。

 私個人への依頼という形であれば、礼も私個人へのもので済むが、父に話を通してしまえば、それはアルフレイブ家への恩となってしまうから。

 とは言えそれを考えていなかったわけではないだろう、

彼が考え込んだ時間も、ほんのわずかだった。


「君に聞くのは少しおかしな話だが、信頼できるか?」


「はい、とびきり」


「そうか、なら構わない、できる限りの協力を取り付けてもらっても大丈夫だ、ただし大規模なものはやめておいてくれ」


 その言葉と共に、堅苦しい政治と腹芸の話は終わった。

 それからはエヴァの学校での様子や、リアベル家周りの貴族絡みの話を、私に聞かせられる範囲ではあるが、聞かせてもらうことができ、とても有意義な時間を過ごせた。

 そろそろ用事があるというエヴァンス様に別れを告げ、後方で妙に静かに話を聞いていたグウェン先生に連れられ、学校へ戻る。

 保健室へ向かえば、どうやらエヴァが起きたようだ、養護教員に許可をもらい、話に行く。


「起きたんですね、エヴァ、体調はどうですか?」


「ダイン…!その、ありがとう、あの時助けてくれたんだよね、ヴィルヘルムから…」


「…助けたというほどでは、勝手なことだったかもしれませんし…でも、無事でよかった」


 そう言って笑えば、彼女も笑ってくれる。

 しかしその笑顔はどこか苦しそうで、やはり無理をしているのだろう。


「ダインに話すことじゃ、ないかもしれないんだけどさ」


「聞きますよ、エヴァの話なら」


 即答!? だなんて驚きつつ、少し言葉を選ぶように思案するエヴァ。

 風でカーテンが揺れ、落ちつつある日差しが横顔を照らす、明かりと黒髪はどこかアンバランスながらも、綺麗な色をしていて、少し見惚れてしまうほどだ。

 これだから私は母に叱られるのだろう、あまり人をジロジロと見るものではないだとか、仕方がないと思うのだけれど、サクラ母様も私や父様のことをよく見ているし。


「じゃあ、話すけど……私、なぜかお父様には可愛がられてて、もちろん母さんも大切にされてて、でも、多分何かの都合で第二夫人にはできなかったって言ってて……だからなのか、わからないけど、使用人の人とかは冷たくてね?お父様も忙しいから滅多に会えないし、で、味方になってくれる人もいなくて」


「……そうなんですね」


「うん、だから、ダインに助けてもらった時、すごく嬉しかった、さっきだって助けてもらって……でも、借りばっかりは嫌だから、絶対いつか返すよ!」


 そう言って、夕日に負けないぐらい眩しい笑顔を見せるエヴァ。

 彼女の境遇は私にとって理解しづらいものだ。

 私自身は正妻の子だし、第二夫人であるユリフィア母様とサクラ母様に差なんてものはない。

 それどころか領地経営の仕事に関してはからっきしな母様は、ユリフィア母様によく泣きついてることがあるぐらい、そこに優劣は存在していない。

 使用人に冷遇されることも同じく、我が家には古くからいる使用人しかいないし……おそらくそれを仕組んでいるのはエヴァンス様の母親、そしてそのバックにいるカイゼル公爵家だろう、エレノアール様の心労も頷けるというものだ。


 そんなふうに悩む彼女に、私がしてやれることは多くないだろう。

 まず私はまだ10そこらの歳しか重ねていない子供なのだ、エヴァンス様が君のことを想っている、なんて伝えることも口止めされている以上、伝えることはできない。

 ならば、私は自分のできる範囲、その全力を持って、エヴァと、エヴァのお父様の守護に協力する、そうこの瞬間に決めることができた。



「と、言うわけで、リアベル家当主暗殺を防ぐ作戦に参加、協力することになりました」


「わかった、もういい……これ以上俺に説明しないでくれダイン……」


 そう言って頭を抱えているのは我が父ガルガン、空中に浮かぶ彼の鏡像は、ほぼ同時刻に向こう、そしてこちらの現状を伝えてくれる。

 貴重な遠距離連絡用の魔道具だが、サクラ母様を心配した父様が持っていくようにと厳命していたらしい、それを許可をとって私が使っているわけだが……

 話を戻す、エヴァンス様に父様に話すことについては許可をもらったので、引き受けることになった理由と、周囲の状況含め、端的にまとめて伝えたところ、この反応になってしまったということだ、驚きのせいか胃痛のせいか若干素が出てしまっているが、聞かなかったことにしておこう。


「はぁ……私に伝えたということは、これを我が家の利にしていいということだな?」


「おそらく、エヴァンス様は失敗した時のことも計画に入れているのでしょう、その辺りも含め、我が家に協力を取り付けていた方がいいと思ったのでしょう」


 父様は家族愛が強い人である、愛妻家であり、子煩悩であり、今は亡き祖父母ともとても仲良くしていたと聞いている。

 そんな彼が、今回のような危険な、それもこの先の王国を少なからず左右するような事情に、私を関わらせるなんてことは通常しなかっただろう。

 

 だが今回は場合が違う、相手がリアベル家であることが一番の要因で、今のところリアベル家とはビジネスでの関係しかない。

 普通の貴族にとってはそれだけでも十分、むしろ五大商会と繋がれたというだけで大成功だが、私が『彼』を通して父様に教え、領地で活用している品種改良の方法、それが世間に絶対に漏れないとは言いきれない。

 世間にその情報がわたり、我が家よりも上手く事業や開発が成功すれば、リアベル家はそちらへと鞍替えするだろう。

 しかし今回のような、ビジネスとは関係のない借りを作ってしまえば、そうなる可能性が極端に低くなる。

 つまり今回の話は貴族としての父様にとって、無視ができない話なのだ。


 それをわかって、この話を父様にする許可を取り付け、わざわざ連絡した私の意地の悪さに少々嫌気がさす。


「わかった、お前に任せる、会場の警備には近衛騎士団、ラウドも駆り出されるだろう、詳細は省いて伝えておく、ダインはエレノアール嬢と連絡をとってくれ、文鳥を度々送っているんだろう?」


「事実確認ですね、探りを入れてみます、味方にできそうであれば、どうにか、そのあたりはエヴァンス様と調整します」


「十分だ……私は王家に、難しそうであればフェリアを通してクリフ殿下に話をつける。体裁は必要だ、エヴァンス殿にもその旨を伝える手紙を送る。仲介してくれ」


 そう言ってテキパキと書類をまとめ、書状を認め始める父様。

 その姿は様になっていて、やはりどこかエヴァンス様に似ていると思った。

 私は家族に似ている相手には自然と好感を抱いてしまうらしい、気をつけなければ。


「わかりました、今回は急な連絡すいませんでした」


「いいんだ、あー……そうだな、ダイン。お前がそうやって、誰かのために行動できることを、私は嬉しく思っている。気をつけてな」


「……?はい、ありがとうございます」


 私の言葉を聞くと、父様は魔道具のレバーを倒し、通話を切った。

 最後の言葉の真意はなんだったんだろうか?いまだに、いやおそらく私は、人の考えを読むことは一生不得意なのだろうなと、なんとなく思った。

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