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67 三田洞東ダンジョン その1

 5/20の土曜日。


 はるばる岐阜にある三田洞東ダンジョンまでやってきた。山奥深くにポツンと点在するそのダンジョンはダンジョンレベル15の中でも最も難易度が高いと言われている。

 それこそ下手なダンジョンレベル16.17のものよりも、だ。


 その理由は主に2つある。


 まず、1つ目はとてもシンプルなものであり、ダンジョンボスが他とは一線を画す強さを持っているからだ。


 そのダンジョンボスの名は『レッサードラゴン』。


 名前の示す通り、一般的にドラゴンと呼ばれる種の下位の魔物である。まあ攻略者からすれば『レッサー』とは名ばかりで、空を自在に飛び回り、炎を撒き散らす存在に下位(レッサー)もへったくれもないが。実際に初めてレッサードラゴンと戦う攻略者の中には、ダメージを与えることすらできずにこの世を去る人もいるくらいだ。生半可な覚悟は逆に足を竦ませる。


「受付お願いします」


 だからと言ってここで俺が引くことはない。攻略者証明書を受付の人に渡し、深呼吸を1つする。


「はい、小野寺様ですね。こちら生存報告デバイスと『脱出のスクロース』です。身の危険を感じたり攻略継続が困難な場合にはすぐにお使いください」


 すると受付からデバイスともう1つ、『脱出のスクロース』が差し出される。

 高難易度かつ挑戦者も多くないためか、このダンジョンではこうして無料で『脱出のスクロース』が配られる。少しでも生きて帰ってこれるよう、ダンジョン管理施設として可能な限りのサポートを尽くそうとしているのだろう。受付の人からは、このダンジョンをソロ攻略は無謀ではないかという心模様がありありと読めるが、あまり干渉はしないよう業務に徹してくれている。


「ありがとうございます」


 体が震えるのは恐怖かそれとも武者震いか、受付の人に感謝の言葉を伝え、そのまま誰も並んでいないダンジョンの入り口へと向かう。


「……行くか」


 そして、いつものように暗闇広がるダンジョンへの扉をくぐり、ゆっくりと歩みを進めていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 話が途中になってしまったが、この三田洞東ダンジョンが高難易度と言われる所以のもう1つはダンジョン構造にある。


 ふつうはダンジョンレベル10ごとに追加されるギミック。それとは別に、ギミック相当のイレギュラーな事象を孕むダンジョンが時折現れることがある。この三田洞東ダンジョンはそんなイレギュラーダンジョンの1つである。

 このダンジョンで確認されているギミック相当の異常な事象とは、俺がダンジョンに進入することですぐあらわになる。


「おおおお、だだっ広いなあ」


『イレギュラー:区画消失(ワンルーム)


 すべてのフロアの外壁を除くすべての壁が消滅し、通路も小部屋も何もない、ただただ広い1つの空間になるイレギュラー。見通しが良くなり、距離的に近い階段ならばすぐに見つけられるようになる。俺の『すてあさーち』ならば方向もわかるので、今まで最も早く攻略が進められるだろう。


 しかし、もちろん攻略者だけにメリットがあるわけではない。


 こちらからの見通しが良いということは、当然魔物の視界に入る可能性も大きく上がる。となれば、戦闘を避けること自体が難しくなり、下手をすれば休む間もなく戦い続けなければならなくなる。セーフゾーンが無くなるわけではないので階層攻略のタイミングで十分な休憩をとることは可能だが、階段を上れば再び魔物の視線のど真ん中を進まなければならなくなる。

 また、常に魔物の視線を浴びせられ、精神もかなり削られるイレギュラーである。その緊張感は普通のダンジョンの何倍も大きくなるだろう。


 現に俺がダンジョンに入ると同時に、視界の隅に魔物の姿が小さく見え、遠くながらも魔物の咆哮が聞こえた。それすなわち戦闘開始の合図である。おそらく3か所から聞こえたその方角をちらりと見る。


「あっちとあっちとこっちだな。全部『ブルフォース』で、1分もしないうちに突っ込んでくるな」


「おー、やっぱり広いね。窮屈なダンジョンより何倍も好きだなぁ」


「ステアか。まあ確かに開放感があっていいけどな。ただ魔物も似たような攻撃してくる奴が多いから避けられがちだけど」


 そして更に悪いことに、このダンジョンでは出現する魔物が、揃いも揃って直進攻撃を繰り出すことにたけている。見通しの良い場所で突進が得意な魔物など、地の利を得られているどころではない。完全アウェーでの戦いを余儀なくされるのだ。


 そうして武器を構え、最初に近づいてくるブルフォースの方を向いていると空気を押しだすような圧迫音が後方から近づいてくる。


「ッぶねえ!ほとんど無音で飛んできやがって!」


「——」


 ブルフォースに意識が向いており、直前になるまで気が付かなかった『シルバーバルーン』の突進攻撃を間一髪でアイアンバンブージャベリオンの柄で受け流す。

 間違っても真正面から受けようとしてしまえば、障害物なく加速し続けたシルバーバルーンの純粋な質量攻撃にダメージは必至だ。ギリギリではあったが、ほとんど無傷で不意打ちを対応しきった。


「もたもた時間をかけるつもりはない、さっさと終わらせる!」


「——!」


 方向を変え、再び俺へとめがけて浮遊しながら飛んでくるシルバーバルーン。加速しているが、単調な動きを読み切り、狙った場所へ攻撃スキルを放つ。依然と比べ、ステータスの上がった今ならおそらく外殻諸共コアを破壊できるはずだ。


「『すらむだうん』!!」


 バギャっと重い破砕音とともに、シルバーバルーンが光の粒子となる。何かドロップをするも、それを確認するよりも早く俺は次の攻撃スキルを発動させる。


「『ふれいるすいんぐ』!!」


「ブモオオオ!!」


 シルバーバルーンを相手どっている間に近づいてきた1匹目のブルフォースへ横なぎの一閃を叩き込む。頭部への衝撃から横へ逸れて巨体が転びながら光の粒子となる姿を確認しつつ、振り切ったアイアンバンブージャベリオンを反動を生かして2匹目のブルフォースへ叩きつける。


「ブモッ!?」


「さすがに硬いな!」


 攻撃スキルなしでは体勢を崩し切れず、突進の勢いを殺しただけで停止するブルフォース。ただ3匹目はもうすぐそこまで迫っている。ここで優先順位を間違えてはならない。今一番脅威であるのは突進攻撃中の3匹目のブルフォースだ。アイアンバンブージャベリオンを素早く翻し、アイアンバンブージャベリオンの持ち手側の先を2匹目のブルフォースの額へ押し当てる。そのまま槍先は迫る3匹目のブルフォースへ向けておく。


「力比べでもしてろ!」


「モオオォォ!!」


「ブモオオオ!」


 次の瞬間3匹目のブルフォースがアイアンバンブージャベリオンに突っ込む。勢いが乗ったその身体は尖った槍の先を躱すことができず、深々とアイアンバンブージャベリオンを飲み込んでいく。そして同時に2匹目のブルフォースはとてつもない勢いでアイアンバンブージャベリオンを押し込まれ、仰け反るような形でひっくり返る。たった一撃で2匹のブルフォースの戦闘態勢を崩壊させることに成功した。


 3匹目が光の粒子となり、アイアンバンブージャベリオンがブルフォースの身体から解放されるとほぼ同時に2匹目のブルフォースへ襲い掛かる。


「『すらむだうん』!!」


「モオオォォ……」


 頭をやられ、ひっくり返って動くことすらままならないブルフォースは小さく断末魔を漏らしながら俺の攻撃スキルによって光の粒子に変わっていった。

 後には1つの魔石を残しながら。


「初っ端から激しすぎる……!」


「でもうまくやれたね。時間もそんなにかかってないし」


「ああ、そうだな。ただ早く動き出さないと第二第三の強襲が来るから急いで移動しないと」


 一息つく間もなく、俺は2つの魔石を拾い上げてステアの示す方向へと走り出す。シルバーバルーンとブルフォースの2匹分の魔石はいつものような美しさを纏っていたが、それを鑑賞する暇は今はない。

 1人で攻略する以上、魔物相手に大きく手こずるとそのままズルズルと戦いが連続してしまう。数は力なりとはよく言ったものだ。


 パーティ単位であれば魔物に囲まれても1人が『脱出のスクロース』を使えば戦闘中でも逃げ出せるが、俺の場合はそうはいかない。

 今後も即戦闘即勝利を鉄則とするべく気を引き締めながら駆けていくのだった。

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