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16 小倉駅前ダンジョン その2

 小倉駅前ダンジョンの2階層に到着して早々、新しい魔物と遭遇した。


「ガララララ……」


「出たな。初心者キラー」


 その魔物の名前は『ガラガラワニ』。全長1メートルほどのワニだ。ガラガラ鳴くことから日本名ではそう命名されている。ガラガラワニの特徴はとてもタフでとても好戦的あるということに尽きる。体の構造や機能は地球に存在するワニと何ら変わりはないが、気性が非常に荒く、見つけたほかの生物を迷わず襲う特性を持つ。ちなみにこのダンジョンではゴブリンやマッチラットも攻撃対象にしている。


「ガアア!!」


「あぶねっ!」


 早速襲い掛かってきたガラガラワニは俺の足を狙って咬みつこうとしてくる。幸い動きはそこまで早くないので後ろへ大きく引くことで容易に避けられたが、もし捕まったら最後、圧倒的な咬合力で足をへし折られるだろう。


「もし攻撃を食らえば……死まで一直線か」


 荷物を雑に投げ捨て身軽になり、大金槌を構えながらガラガラワニの一挙一動に注目する。


「ガア!」


 再び咬みつき攻撃をしてくるガラガラワニ。今度は右に避け、それと同時に上顎めがけて大金槌を振り下ろす。ゴシャっと硬い肉に阻まれつつも上顎が変形する程度のダメージを与える。


「グアアア!」


「なっ!?」


 しかしタフと言われるだけあり、上顎を破壊されたはずのガラガラワニは体をくねらせ、尾で俺の左足を刈ってくる。完全に不意を突かれたその攻撃に俺は体勢を崩しかけるが、咄嗟に大金槌を杖のように支えにし、不格好ながらも転倒を免れる。尾の攻撃にもう少し威力があれば、俺の防御力のステータスがもう少し低ければ、無様に転がされていただろう。


「なめんなあああ!」


 地面に突いた大金槌をばねにその場から勢いよく離れる。直後、俺の右足があった場所にガラガラワニの咬みつき攻撃が通る。


「ガラガラガラ……」


 攻撃を透かされたガラガラワニはこちらを鋭く見据えてくる。上顎を壊されてもまだ闘志は十分に残っているようだ。


「さすが初心者キラーだな。パーティだとしても平気で死人が出るぞ、これは」


 破れかぶれの尾の攻撃かと思ったが、当たった左足のくるぶし辺りがズキズキと痛む。骨までは影響はないだろうが、少なくともこの戦闘中はうまく動けなさそうだ。


「だったら投擲しかないな。ステータスオープン!」


 ガラガラワニがこちらに向かってくる前に、ステータスカードを召喚し、眼を狙って放つ。先ほど検証した通り、軌道は真っすぐ、ただし想定している倍近くの速度で飛んでいく。


「ガッ!」


「ステータスオープン!」


 ステータスカードが眼に命中すると同時に再びステータスカードを手元に呼び戻す。そして今度は反対側の目を狙って放つ。急に眼に攻撃を食らって硬直しているのか、2発目も眼に命中し、視界を奪うことに成功する。存外呆気なく両目を潰せられたので、これなら最初から視界を奪えばよかったと思いつつ、大金槌を握りなおす。


「ガララアア!」


「トドメだああ!」


 視覚を失ってなお、こちらへ突進してくるガラガラワニに、俺は迎え撃つように大金槌を振り下ろした。ガラガラワニはそれを避けることもできないまま、眉間を大金槌に砕かれそのまま光の粒子となった。


「はあ、はあ。ちょっと失敗したな」


 『すとろんぐあーむ』を以てしても初撃で仕留められなかったのは、ガラガラワニの防御力を見誤った結果だ。負けはしなかったものの、若干の苦戦を強いられてしまった。1人だとすぐに助けは求められない。そのことを胸に刻み、痛む左足をさすりながら回復を待つ。次からはもう油断はしないと自分に言い聞かせながら。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よし行くか」


 数分経ち、左足の痛みが大分引いたので2階層攻略に向けて動き出す。走るのは避け、歩きでゆっくりと進んでいく。

 せっかくの『あじやすとうぉーく』の効果を得られないのは残念だが、念には念を入れるべきだ。その代わりマッピングをよく見て階段がありそうな方へ進んでいく。

 走っている時は安全のためにマッピングは行き止まりに詰まった時だけ確認するようにしていたが、本来は分かれ道毎にマッピングを見ながら進む方向を考えるものだ。


「んー、何となくだけど左かな」


 T字路にあたった俺はマッピングを見つつ、ほとんど勘に頼って行く道を決める。階層攻略も終盤に入ればフロア構造から未探索領域に階段がありそうと予想できるが、フロアに入ったばかりだと山勘に頼るほかない。それこそ何らかの方向性を示してくれるようなアイテムがなければ。


「はあー、『階段感知のスクロース』とか手に入らないかなあ。……ん?ゴブリンか」


「ギャギャギャ!」


 少々夢を見ながらも探索を続けていると、ゴブリン1匹と遭遇した。こちらを見つけるとすぐに襲いかかってくるゴブリン。対してこちらはナイフを投げて対処する。ステータスカードを投げた時と同じように、速いスピードで飛んでいくナイフはゴブリンの首に刺さり、あっさりと光の粒子にした。


「なんか間違って『階段感知のスクロース』でも落としてくれねーかな。……ってまじ!?」


 そんな消えていくゴブリンを見ているとその場にドロップアイテムが落ちた。それはクルクルと巻かれた古い紙のようであり、どこかお宝のような雰囲気も感じる、スクロースと呼ばれる種類のドロップアイテムだった。


「うそうそうそ、まじか!もし『階段感知のスクロース』だったら言霊なんですけど!?」


 今日1番の上機嫌で、痛めた足のことなど知ったことかと言わんばかりに、落ちたスクロースの元に駆けつける。


「何のスクロース、だっ!……あー、『脱出のスクロース』かー。まあまあ、あるだけ有難いし、まあまあ」


 丸まったスクロースを開くとそこには『だっしゅつのすくろーす(れべる1)』と書かれていた。例によって読みにくいひらがなではあるが、破ると近くの仲間と共にダンジョンから脱出できる効果のあるスクロースだ。最初に買った初心者スターターセットの中にも入っている。

 直前に『階段感知のスクロース』出て欲しいなんて言ったため、スクロースがドロップした時はあり得ないくらい興奮したが、現実なんてこんなものだろう。偶然が起こしたハプニングだ。

 平然を装い、あくまで嬉しいですよのスタンスで脱出のスクロースをバッグへ入れる。


「あー、とりあえず走っても問題なさそうだし、もう走って攻略するか」


 若干不貞腐れた態度になりつつも、それからはいつもの攻略と同様、『あじゃすとうぉーく』の恩恵を感じながらハイペースで攻略を進めていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 小倉駅前ダンジョン攻略から5時間ほど経ち、丁度お昼過ぎという時間帯で4階層の攻略が完了した。目の前には湧水の水場とダンジョンボスの待ち構える5階層へ続く階段がある。ここに辿り着くまでに魔石は4つ、『脱出のスクロース』を1つと中々の成果を上げている。そんな俺は今、難しい顔でうんうん唸っていた。


「うーん、魔石どうしようかなあ」


 悩んでいる理由は単純で、魔石を食べるかどうかについてだ。今日の朝は食パンと牛乳を摂っている。つまり最後の食事から約6時間が経った今、魔石を食べて意味があるかどうか判断がつかないのだ。もし無意味だった場合は、特殊スキルを得られないどころか後々排便で大変な目に合ってしまう。


「午後にもう一回攻略するとしてその時に特殊能力ゲットチャレンジするか?そうするか」


 ということで、魔石摂取は次回に後回しして、今回はこのままダンジョンボスに挑むことにした。小倉駅前ダンジョンは九重大学跡地ダンジョンと同じく5階層目をダンジョンボスのフロアとしているが、ダンジョンボスの形式は強敵1体だけが待ち構える百道浜ダンジョンと同じパターンだ。


「よし、行くか」


 荷物を背負い、5階層へ続く階段を上る。ゆっくりと登りきるとそこには1匹の魔物が頻りに跳ねていた。すでに戦闘態勢はできていると言わんばかりにこちらを見据えている。

 コマンドラビット。それが小倉駅前ダンジョンのダンジョンボスの名前だ。常に跳ね続け、俊敏な動きで四方発表から攻撃する体長30センチメートルほどの白ウサギだ。正確無比な移動と的確な狙いの蹴りは、一度見失うと途端に劣勢になってしまうとのこと。


「フォウフォウフォオオウ!!」


「さあ、来いやああ!」


 荷物を投げ捨て、こちらも大金槌を構える。


 先に攻撃を仕掛けたのはコマンドラビットだ。20メートルはあったであろう距離を二跳びで一直線に駆けてくる。とっさに大金槌を横に振るうが、空中で一回転したコマンドラビットは見事な後ろ蹴りで相殺してくる。お互いに弾かれ、俺はよろめき、コマンドラビットは数メートル離れた場所に着地する。


「『すとろんぐあーむ』込みでも相打ちか。小さい体なのに力が強いな」


 本来ダンジョンボスのコマンドラビットはパーティで固まって死角を無くして相手をする。誰かを狙った攻撃の隙をほかの誰かが横から攻撃するのが一般的な攻略法だ。そうやってダメージを蓄積させ、動きが鈍ったところを全員で一斉攻撃する。

 ただ1人パーティの俺にはそんな高難度の戦略は取れない。真正面から打ち崩すしかない。


「フォウ!」


「来い!」


 気合を込めて叫び、コマンドラビットと相見える。戦いはまだ始まったばかりだ。

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