15 小倉駅前ダンジョン その1
翌日の朝7時。なけなしの食費を削って博多発の始発の新幹線に乗り、小倉駅まで到着した。博多駅では昨日の『博多ダンジョン』攻略発表のせいか、朝早くなのに多くの人で賑わっていた。それを横目に人混みを掻き分け、何とか小倉駅までたどり着いたのだった。
「あのフィーバー具合、ニールセン様のダンジョン完全攻略の時と同じくらいじゃないか。気持ちは分からんでもないけど」
昨夜18時から行われたJPDCの『博多ダンジョン』攻略会見もテレビに張り付いて聞いたが、攻略作戦自体はダンジョン専用チャンネルで報じていた内容とほとんど同じものだった。しかし、罠ギミックに対応する方法など基本的には対罠用のスクロースの物量作戦以外ないのだからそう驚くこともないだろう。
それよりも博多ダンジョン攻略が4月1日から始まるということの方が驚きだった。また、発表と同時に国内有数の10のクランからそれぞれ博多ダンジョンに挑戦する精鋭パーティの発表があったり、最新鋭の機器を用いた攻略状況の生放送が予定されていたりなど、かなりの根回しや準備がされているのを感じた。
「まあ、ダンジョンレベル30の壁を突破した国に仲間入りできることに比べたら大した出費じゃないか。あれが手に入るようになるんだし」
ともかく、博多ダンジョンの攻略が始まれば嫌でも情報は手に入るので、それまではいったん自分のダンジョン攻略に精を出すとしよう。
小倉駅前ダンジョンを内包する施設に入り、いつも通り受付と生存報告デバイスを受け取る。今回はまだダンジョンが開場されていなかったため、案内があるまでは待ちの列に並んでその時を待つ。少し、周りを窺うと複数人パーティが多く、緊張するであったり小倉駅前ダンジョンの基本情報について話し合ったりしている。一人だとこういう時に少しだけ、本当に少しだけいたたまれない気持ちになる。
「はい、それでは小倉駅前ダンジョンを開場いたします。係員の案内に従って入られますようお願い致しまーす」
そうこうしているうちに開場時間になったようだ。とは言っても自分の前には数パーティしかいないので数分もすれば進入できるだろう。
ただ、今後挑むダンジョンのレベルが上がると同時に、攻略者のボリュームゾーンに当たってしまう可能性があるので、その場合は注意がいるなと思い直す。
「まだレベルが低いからこの程度で済むけど、1パーティ28秒だから1時間で120パーティがどうしても限界だよな。まあまた今度深く考えるか」
「次はお兄さん1人だけでしょうか」
「はい、1人でお願いします」
順番が来たようなので、ダンジョンの入り口前で待つ。前のパーティの入場から約30秒が経ち、係員からゴーサインが出る。
ゆっくりと門をくぐり抜け、暗闇から明点すると、いつもの洞窟の風景が広がってた。
「それじゃあサクッと攻略するか」
『あじやすとうぉーく』の恩恵を活かすため、小走りでダンジョンを進んでいく。そして数分も経たず、最初の魔物と遭遇した。
「ギャギャッ」
ゴブリンだ。1メートルほどの身長と緑色の肌を持つ全裸の人型魔物。短めの棍棒を持つ醜悪なその存在は、こちらを見て短く笑い声を上げた。獲物が来たと勘違いしているのだろう。
こちらもすぐに大金槌を構えて臨戦体制を整える。
「ギャギャギャ、ギャッ!?」
ゴブリンが棍棒を大きく振りかぶりながら向かってくる。しかしその短い棍棒と俺の大金槌ではリーチが違う。あちらの攻撃が届く前、すでに振り放った大金槌はゴブリンの顎を砕き、地面へ這いつくばらせる。
その時のゴブリンの表情は何が起きたか全くわかっていないようだった。
「とどめだ!」
棍棒を杖代わりに立とうとするゴブリンの頭に大金槌を振り下ろし、小倉駅前ダンジョン最初戦闘はあっさりと終わった。
「荷物背負ったままでも楽勝か。じゃあもっとスピード上げていくか」
ダンジョンレベル3の魔物相手でも余裕がありそうだ。出会い頭に魔物にやられることはないだろうという判断で、もう少し駆ける速度を上げてダンジョン攻略を再開する。
そして1時間ほどが過ぎ、2階層に続く階段とセーフゾーンが遠くに見えたところで再び魔物と遭遇した。
「ゴブリン1匹とマッチラット2匹か」
複数種類の魔物の群れだ。ダンジョンレベルが上がれば上がるほど、こういった会敵も増えていく。中にはシナジーのある魔物同士の群れと遭遇することもあるので、適切な判断と対応が求められる。
「とはいえダンジョンレベル3だからな。流石にまだ簡単に倒せるし。……そうだ、どうせならあの検証もやろう、ステータスオープン」
相手はゴブリンを先頭にラッチマットがその後ろに横並びになっている。すぐに攻めてはこないようなので未検証だった事柄について検証させてもらう。
呼び出したステータスカードを素早く指で挟み、地面と平行に射出する。自分の感覚ではいつもと同じように、ただまっすぐとカードを放っただけだ。しかし、ステータスカードは普段の速度の倍近くはありそうな速さで片方のラッチマットの頭に刺さる。
「ギャギャギャ!」
「チュウ!」
そのラッチマットが光の粒子になるのと同時に残ったゴブリンとラッチマットがこちらに向かってくる。
「なるほどな!『すとろんぐあーむ』は思った以上に融通が効くようだ!」
片手で大金槌を掬い上げるように振り抜き、ゴブリンの顎下からかちあげて即座に光の粒子に変える。そしてそのまま振り上げた大金槌を空中で切り返し、ちょうど槌の真下に来たラッチマットを叩き潰す。
ステータスだけでなく『すとろんぐあーむ』の効果も相まって、わずか3撃で魔物の群れを倒し切ってしまった。最後に倒したラッチマットから魔石がドロップしていたので、それだけささっと拾ってから先のセーフゾーンまで進む。
湧き水でのどを潤し、拾った魔石で手遊びしながら、少しばかり『すとろんぐあーむ』の考察に耽る。
「『すとろんぐあーむ』の効果は、おそらく自分の手での攻撃・防御のすべてに効果がある感じだよな。しかも投擲物の速度も想定以上だったし、勝手に加速も乗る感じだろうか」
ここで考察をするのは、やはりステータスカードを投げた時の違和感のせいだ。
先ほどもそうだが、長年投擲の練習をしていると、自分が放った投擲物の様々な情報は手に取るようにわかるのだ。投擲だけに。
例えば、野球ではピッチャーがボールを投げるとき、どのくらいの速さが、どのくらいの変化をするか、どこに向かって進むのか、というのは直感的に理解できるだろう。俺も同じように、どんな物体であっても投擲物として放てば、そういった情報を瞬時に理解できる。
なのに、九重大学跡地ダンジョンで『すとろんぐあーむ』を取得した直後のマッドニュート戦やさっきのラッチマットに対してのステータスカードの投擲は、俺が想定していた軌道や速度を逸脱した動きをした。その時の腕の振り方や速度では物理的にもあり得ない動きなのだ。
「だから、『すとろんぐあーむ』は手のみならず手で持っている物にも力を与える、という効果だと俺は思うんだ」
誰に言うでもなく、独り言を重ね、自分なりの理解を得る。すでに一般に知られている普通のスキルであれば、大勢の人間に取得され、研究され、だれでもその効果を簡単に知ることができる。しかし、特殊スキルではそういったことは出来ない。俺が一から調べ、十まで理解しなければ、百の活用など夢のまた夢ということだ。
「昨日燃え尽き症候群になりかけていたけど、危なかったな。やっぱりこうして未知に触れるのは楽しすぎる」
大きくは間違っていない理解を得られたと思うので、いったんここからはダンジョン攻略を再開する。さらなる力と未知を求めて俺は歩き出した。




