好奇心は猫をも殺す
[ Epilogus ]
Procedenti ab utroque compar sit laudatio.
あの魔法少女の正体はともかく、底辺作家の不人気作品『絶望こそが蜜の味』があったから、この世界に生を受け天野カンロとして顕現することができたのだと、別れ際に語っていた。
結果のためには手段を選ばないダークヒーロー。
そんなキャラクターは定番で、選択肢は数多い。
魔法少女にしても、アニメや漫画はあるだろう。
おそらく受肉するには条件があった。
それにオレの素人小説がマッチした。
さほど読者のいない作品、それが条件のひとつ?
【カルペ・ディエム】の使用は、偶然だろうか。
AIはキーワードで画像を生成する。
より明確な人物を描くには、膨大なテキストが必要と想像できる。
行方さんが3Dプリントのボタンを押す可能性……ん?
AI画像生成プログラムのメッセージも、行方さんだ。
いつものオッチョコチョイかもなぁ。
「お、考え事してるね~、ねこみさんの攻略法?」
「猫昆布茶さん、AI画像生成は使ってますか?」
「あはは、ぃゃぁ...絵が死んでるってPタンが...」
「あの人、イラストも描けるから」
「そういうことじゃなくてね、今は武者修行に出てるみたいだし、向上心かなぁ。きっと凄い必殺技とか引っ提げて帰ってくるよ~?」
喫茶店の隅にいた常連客がガタッ!と立ち上がる。
猫昆布茶さんが無言で頷き、珈琲を落としだした。
なにか言いたそうにしていた常連さんが、諦めたように座った。
からん ころ~ん♪
「ごめん、遅れちゃったよ」
「ちょっと前に来たところ――――
ガタン!
「カンロちゃん?!」
「どう、似合う?」
「行方さんか……その恰好どうしたの?」
「服が無いって言うから、交換したのよ」
どういうことだ?
そうか、衣装チェンジは含まれない。
変身を解いた時も服装は同じだった。
「使える魔法に、早着替えが無かった」
「みたいよ」
「その恰好で、天下の往来を歩いて?」
「まぁね」
「なんでまた。無茶するなぁ」
「ぇ? ゃ、本人が消えちゃったから」
「本人?」
「自作品のキャラって、誰だって特別な思い入れがあるでしょ。いなくなったら、寂しがってるかな……そう思っただけよ」
行方さんがスッっと顔を背けた。
耳だけが真っ赤に染まっている。
伏し目がちな睫毛の向こう、こちらを窺っている。
綺麗な、黒い瞳だ。
「あの娘は印刷物、行方さんが本人だけど?」
「な?! ……ぁ、特別に、盗撮してもいいよ」
「人聞き悪すぎる。 ……否定できないけど」
「ほら、やるの?やらないの?好きにしてよ」
「いや、盗撮ってこんな感じ?自由度皆無?!」
「ねこみさぁ~ん、ご注文はなんですか~?」
「な、なによ、ねこんぶちゃん、そのジト目」
「これリア充を爆発させる魔眼ですけど~?」
「アイスコーヒー!」
猫昆布茶さんが珈琲を落としだす。
ついで、地を這うような声が聞こえてきた。
「それが先日、『蜜の味』の更新で、魔物にドッロドロに溶かされていたお召し物ですか~。溶けて無くなれ、今ここでぇ」
「喫茶店の娘がなんてこと言うのよ!女児向けカボチャパンツ姿で憧れのPタンに迫ればいいでしょ。ったく、変態カップルめ」
「どっちが~!」
ガタ!
ん?
隅にいた常連客が立ち上がった。
おかわりが届いたばかりだけど。
それにしても。
謎に包まれた、魔法少女☆天野カンロちゃん。
数時間の邂逅、鮮烈な印象を残す少女だった。
「AIが思索し、あれほど濃密な人物像を描く」
「小説の描写をなぞっただけで?」
「簡単な人格を作ることなら……」
「人間をプリントアウトできる?」
「今の技術では、まだ難しいかな」
AIが小説を読み込んでキャラクターを想像。
相手に合わせて会話する、その役割を演じる。
「いいや」
人に難しいことを可能にするのが技術だとしても、基準が存在しない善悪を判断するためのプログラムを作り、無限とも思える手段から冷徹に1つだけ選択させ、結果的に良いことをさせるのは不可能だ。
あの時、最後の会話で感じた違和感。あの少女が自分自身を出力させ、許容量を越える負荷をかけて3Dプリンター工場を吹き飛ばした。人の手に余る技術を消去したと考えるのが妥当だろう。
なんにせよ。
「それは、もう少ぉしだけ、未来の話になった」
からん ころ~ん♪
「ごめん、待った? 遅れちゃったよ」
「えぇ~?! ……二人目の、行方さん?」
店の入り口、制服を着ている行方さん。
「違うな……帰宅中に消えた、そう聞いた。服の交換はできない」
隣に座る行方さんを見る。
ヒョイと顔を出しペコリとお辞儀したモモンガ。
その頭をくすぐる指先、満面の笑み、虚ろな瞳。
僅かに俯いて「想定よりも早かった」と呟いた。
「寂しがってるかな? ……そう思っただけなんです」
「 「 天野カンロ?! 」 」
「杞憂だったようです。私はこれでおいとまします」
「待って、カンロちゃん!」
「……ねこみうろんさん?」
「また、顔を見せに来てよ」
「ですが」
「私が天野カンロを3Dプリントしたのよ。まだ知りたいことだって沢山あるの。勝手に逃げ出して、正体不明で、スッキリしないのよ!」
「知りたいこと、ですか。それ自体が危険なことだとしても?」
行方さんは左端の天井を見上げ「ん~?」と唸った。
特に思い当たらないらしく、結構長い時間がかかる。
そう、この少女の存在は危険すぎる。
AI画像生成サービス【 カルペ・ディエム 】に比肩する存在。
ヒトを途中まで出力した高性能3Dプリンターは、どうなった?
これほど最先端技術の情報が、何故インターネットで探せない?
どう考えても不自然、リスクに釣り合わない。
「行方さん、それ以上の詮索は」
「そう、アレよ!」
「はい?」
「パンティの色?」
「パンティですか」
「別に違ってもいいの。スッキリしない、それだけ」
「違っても良いのですか」
満面の笑み、潤んだ瞳。
指先で掬って、自身の涕涙に驚いた表情。
「純白、ですが……正解ですか?」
「なんかスッキリしたわ」
「それはなによりでした」
「また質問、考えておくから、また。会いに来てよ」
「はい、かしこまりました……ねこみうろんさん?」
「なによ」
「お心遣いに、感謝いたします」
「へ? や、元気でね……うん」
「ぷ、くふふっ」
「な、なによ!」
この笑顔をAIが画像生成するのは、もう少しだけ未来の話。
たくさんの経験を積んだ先で起きる、精神の情動なのだろう。
オレは今までどおり平々凡々とした生活に戻った。
個性的なクラスメイトと、魔法少女のいる日常だ。
きっと退屈することはない。
怜悧な顔立ちを狡猾に歪め、凄絶な笑みを浮かべた魔法少女を眺めて、ぼんやりと、そんなことを感じた――――
【 AI画像生成でキャラメイクして3Dプリントしたんですけど…? 】
これにて終幕です。
最後までご清覧いただき、本当にありがとうございます。





