世は並べて事も無し
「よし、予告どおり投稿完了。今回は攻めた、攻めすぎた。なにとぞ運営様へ通報されませんように……っと? 行方さんからメッセージが」
「枝折ちゃん? なんだって?」
「母さんは見なくていいから!」
あれからオレを取り巻く環境は激変していた。
パソコンを壊したと謝罪しに来た彼女を両親はいたく気に入り、母のヘソクリが最新型のパソコンになって今朝方到着。OSや執筆に必要なソフトの初期設定を、ひととおり終えた。
小説投稿サイトで活動し続ける目処が立った。
両親が行方さんに興味津々すぎて、鬱陶しい。
そんな些細な課題が残った程度。
「部屋に引っ込むか」
絶望的と思っていたSSDも、奇跡的に認識。
あの日、彼女が触れていたマウスを接続する。
コロコロコロとホイールを転がして、スクロールしていく。
「……あった」
一応、確認しておこうかな?
カチチッ
良かった――――
2年前の行方さん、ご無沙汰してました。
撮影して転送、デジカメの本体から削除を繰り返していた。
このデータが唯一無二、しっかりコピーを作成しておこう。
あまりにもセキュリティ意識が低かった。
さすがに……時間がかかりそう。
「さて、っと」
スマホを取り出して表示、スクロールしていく。
最も顕著に変わったのは、ここ。
メッセージの最終行、隙間時間が記されている。
『……はい、枝折です』
「メッセージ、どうも」
『こっちこそ、こんな遅い時間に』
行方さんは盗撮画像を眺める対象から、無料通話アプリで気兼ねなく連絡して、創作談義をする間柄になった。
ねこみうろん氏の連載作品『スキル・言靈』は、勢い任せの御都合主義で古典的「俺TUEEEE系」だと思っていたが、緻密な世界観とキャラクター設定、各章ごと精緻に組み上げたプロットに沿って伏線回収する展開だと知ってからは、『高評価には理由がある』と、目の覚める思いだった。
むらむらと妄想だけで書き連ねているオレと、行方さんは違う。
この新しい環境で結果を出したい。
漠然と、そう考えるようになった。
『で、どう?』
「え、なに?」
『んっ、もー』
「な、なに?」
『2つ目のURLは見てくれた?』
「2つ目、あぁこれ? ……え?!」
『そう、イラストを描いてみたのよ。学校で配布されたタブレットに社外品だけどペンを用意して、アプリを入れたら描けるって、猫昆布茶さんに教えてもらって。まだ練習中だから下手くそだけど』
「これ、魔法少女☆天野カンロ!」
凄い。
小説を書いてイラストも描ける。
勉強もできて、かわいい。
行方さんは、完璧なのか?
「天才っているんだな……」
『それは大袈裟すぎるよ~』
「だって、こんなに」
『下書きの大部分は写真のトレースなのよ』
「トレース?」
『カンロなら見本がいるでしょ?』
「そうか、一緒に家に行ったから」
『あ、や、一緒に歩いてたら消えちゃって』
消えた――?
その後、こちらの部屋に現れたのが最後。
でも行方さんのところに見本がいるのか。
じゃあ、このイラストのモデルって、誰?
「これ、なにをトレースしたの?」
『簡単よ、カンロは私の色違いなんだから』
「つまり」
『スマホで自分を撮影してみたの』
…… な ん だ っ て ―― ぇ ?!
「それを、ください」
『なっ?! だ、駄目これ見せらんないよ!』
「それを、こちらへ」
『だって、本物には見劣りするし』
本物……果たしてそうだろうか?
AI画像が、華やかに彩っていく。
素人小説の世界は一変するだろう。
そうだとしても。
「オレ、行方さんのが欲しいんだ」
『イケボで魅了しないでよ~っ!』
オレは日常、今までどおりの学生生活に戻った。
少し個性的すぎるクラスメイトと距離が縮んだ。
その程度の、些細で、劇的な変化が残っただけ。
最先端技術は使えなくても退屈ではなくなった。
世界から消えたAI画像生成プログラム【 カルペ・ディエム 】と、爆発事故で消失した3Dプリンター。それらを使って出力された、ホンモノの魔法少女がいたとしても。
真相は闇に葬られた。そんな記録はどこにも無い。この世界の歴史は、そうした虚構の積み重ねなのかもしれない。
もし、そうだとしても。
消せない記憶は、ある。
「オレは、そのデータが欲しい」
『2回言った……もしかして大事なことなの?!』
天野カンロの行方を、オレ達は知らない――――





