第30話 黒雷尾たち
黒雷尾たちと一緒に鈴は歩み寄ると、目の前で足を止めてにこりと笑った。
「嵐から全部聞いた?」
「うん」
「黙っててごめんね」
「ううん。皆を連れてきてくれたの?」
「思羅様たちが謝りたいって」
わらわらと足元をうろつく黒雷尾たちに目を向ける鈴に、ふとルカはもしかしてと鈴を見た。
「もしかして……、鈴も、黒雷尾なの?」
「正解。思羅様に言われて、二人のことを監視していたの。気を悪くしないでね」
「じゃあ、あなたも妃の一人?」
「違うわ。私は単なる一族の者よ。一番人に化けるのが上手いからって抜擢されたの」
なんだか誰が人なのか黒雷尾なのか分からなくて、皆疑わしく思えてくる。鈴もそうだが、魁も思羅も何も変なところはなかった。今だって目の前の鈴が黒雷尾になるなんて想像できない。
だがそう思っている目の前で、白い毛並みの黒雷尾の姿がゆらぎ、あっという間に人に変化した。
「思羅皇后様……」
目の前に立ったのは思羅で、それまでの服とは違い、透けるような美しい薄衣を纏った姿は、確かに人ならざる者という雰囲気だった。
「思羅と呼んで。皆で謝りに来たの」
「謝る?」
「ずっと騙していてごめんなさい。櫂様は謹慎中だから、櫂様の分も謝るわ」
「そんな」
「華露、あなたも謝りなさい。意地悪したでしょ」
思羅がそう言うと、赤毛の小さな体の黒雷尾が、キューンと鳴いて項垂れた。
「今までごめんなさい、ルカ。たくさん意地悪して」
黒雷尾の姿のままでしゃべったことにルカは驚いたが、それより華露がとても素直な様子なのにも驚いた。
「私たちも意地悪してごめんなさい」
玲と才も反省している様子で項垂れる。しょんぼりしている皆を見て、ルカは笑顔を見せるとその場に膝を突いた。
「もういいわ。あなたたちにはあなたたちの思いがあってやっていたんだし、そんなに謝らないで」
「ルカ……」
「華露がすごく意地悪だったでしょ? 華露ったら、魁様が本当に人と婚姻してしまうんじゃないかと疑って嫉妬していたのよ」
「思羅様!」
「馬鹿ね。本当にそんなことになる訳ないでしょ。ルカは嵐の妻になるんだから」
思羅の不意打ちの発言に、ルカは一瞬で真っ赤になった。その顔を見て思羅は微笑む。
「私たちはあなたを応援するわ」
「思羅様……」
「あなたならきっと良い王妃になる。嵐の気持ちはあなたにある。自信を持って」
思羅に優しく言われ、とても心強く感じる。華露も玲も才も、皆うんうんと頷いていて、ルカは華露の頭を優しく撫でた。
「嵐のことは好き?」
華露に問われて、ルカは素直に頷く。
「それなら大丈夫よ。嵐もあなたのことが大好きよ。あんなに女の子に夢中になる嵐を初めて見たもの」
「そうよ。嵐は私たちを可愛がり過ぎて、人間の女の子のこと、好きにならないんじゃないかと心配していたの」
「ルカはきっと特別な女の子よ」
3人の言葉にルカは笑ってしまう。秀も同じようなことを言っていたことを思い出す。
「あなたが来てくれて嬉しいわ。これで晶国は安泰ね」
「思羅様……」
「ね、卵はあなたが持ってる?」
「あ、はい」
懐から卵を取り出すと、思羅はそれを確認して卵にそっと触れる。
「やっぱりあなたが温めていたのね。うん……。このまま持っていて。きっと応えてくれるはずよ」
「思羅様、これは何の卵なのですか?」
「孵化すれば分かるわ。あなたならやれるはずよ」
思羅の答えのない言葉に戸惑いながらも、ルカはまたそっと懐に卵をしまう。
「頑張ってね」
華露が最後にそう言うと、4人は黒雷尾の姿で去って行った。
その場に残った鈴は、思羅たちが見えなくなると、にこりとルカに笑いかける。
「鈴は行かないの?」
「私、ルカのそばにいたい。一緒にいていい?」
「え? でも」
「監視とかじゃないのよ。一緒にいると楽しいし、ルカのお世話をしたいの。だめ?」
「全然だめじゃない! とっても嬉しいわ!」
晶国に来て一番最初に仲良くなった鈴がそばにいてくれれば、嬉しいしこんなに心強いものはない。
ルカが鈴の手を握り締めてそう言うと、鈴は嬉しそうに笑ってその手を握り返した。




