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第11話 皇帝の優しさとエレノアの怒り

「エレノア様!!」


 寝室に飛び込むと、エレノアは寝台に横になって眠っていた。


「何よ……、うるさいわね……」

「起きて下さい、エレノア様!!」

「もう夕食なの……?」

「違います! 皇帝陛下が来ているんです!!」

「え!?」


 目を開けようとしないエレノアを揺さぶりながら言うと、エレノアが目をカッと見開き起き上がる。


「どこにいるの!?」

「えっと、厨房に。鈴が相手をしています!」

「早く言いなさいよ! ほらさっさと身支度を整えて!!」


 寝台から飛び降りるように降りたエレノアは慌てて靴を履く。ルカは怒鳴られながらも急いでエレノアの乱れた髪と衣装を整えた。

 エレノアは鏡を覗き込むと、手早く口紅をひく。


「お呼びして」

「はい!」


 厨房に戻ると、皇帝は何か鈴と話している様子だった。


「陛下、お待たせ致しました。どうぞ中へお入り下さい」

「突然来てすまないな」

「いえ……」


 皇帝の優しい言葉にルカは慌てて首を振る。ふっと目を細めて笑う顔をまともに見てしまい目を伏せた。

 頬が熱い。なんだかやたら良い匂いもして、ドキドキしてしまう。

 戸惑いながらも扉を開けると、居室にエレノアが待ち構えていた。


「陛下、お待たせして申し訳ありません」

「いや、突然来てしまいすまない」

「いいえ。どうぞ、お掛けください」


 二人の言葉を間に入って通訳するルカ。エレノアの機嫌が見たこともないほど良い。二人の空気はなかなか良く、できるだけ邪魔をしないようにと、ルカは小声でエレノアに言葉を伝える。


「この部屋はどうだ? 住み良い部屋を用意したつもりだが、不便はないか?」

「いいえ。とても素敵な部屋を頂き、嬉しく思っております」


 皇帝の優しい言葉にエレノアは嬉しそうに答える。真っ直ぐに皇帝を見つめる瞳は、少女らしくキラキラとした輝きに満ちている。


「嵐が色々と世話をするだろうから、何でも申し出るがいい」

「お心遣い、ありがとうございます」

「ああ」


 皇帝の言葉を取りこぼさないようにと集中していたルカは、ふと皇帝と目が合って驚いた。


「そなた、侍女か?」

「あ、はい! 姫様のお供として付いて参りました」

「名前は?」

「ルカ・シュバルツでございます」


 皇帝がこちらに話し掛けてきて、戸惑いながらもルカは答える。


「ルカはこちらの言葉を流暢に話すのだな。学んだのか?」

「はい。エレノア様の助けになればと。まだ拙いので、鈴に教わっている最中です」

「十分に話せている。よく学んでいるな」

「あ、ありがとうございます!」


 思いがけず褒めてもらい、嬉しさに思わず笑顔で答えると、エレノアが肘を突いてきた。

 ハッとしてエレノアの顔を見ると、鬼のような形相で睨まれている。


「あ……」

「エレノア王女、今度、そなたのために宴を開こう」


 弁明しようとした時、皇帝がまたエレノアに話し掛けた。慌てて通訳すると、エレノアの顔がまた笑顔になる。


「本当ですか!?」

「ああ。楽しみにしておれ」


 それで話は終わりだった。部屋を出て行く皇帝をエレノアが見送る。その姿が廊下の角に消えると、一瞬でその表情が冷えた。


「ルカ」

「は、はい……」

「何様のつもり?」

「そんな……つもりは……」

「でしゃばらないで!!」


 エレノアの激しい声にビクリと身体を震わせる。


「単なる侍女のくせにベラベラと。図々しいにもほどがあるわ!」

「申し訳ありません……」

「いいと言うまでここに立って反省していなさい! 分かったわね!?」

「はい……」


 エレノアは怒りに任せてそう言うと、自分の部屋に戻って行った。

 冷えた風が吹く廊下に取り残されたルカは、仕方なく壁に寄りその場に立ち尽くす。


(失敗した……)


 自分の馬鹿さ加減に呆れて、ルカは項垂れるしかなかった。



◇◇◇



 それから2時間ほど経ち、日が暮れて廊下に明かりが灯った。

 さすがに足が痛くなってきて、あと何時間こうしていればいいのかと考えていると、そこに真ん丸の毛玉が転がってきた。

 真っ黒の毛玉は丁度ルカの両手で包み込めるくらいの大きさで、ころころと転がってくるとルカの足元で止まった。


「あら? あらあら?」


 ルカは噛み締めていた口を緩めて独り言を呟き、その場にしゃがみこむ。

 毛玉だと思ったそれは、真っ黒の小さな子犬だった。前に見た翼と角のある犬たちと同じように、小さな翼と棘のような小さな角がもこもこの毛に埋もれるようにある。


「キャン!」


 高い鳴き声を上げた子犬は短い手足をどうにか動かして、ころころと動き回っている。その愛くるしさにルカはすっかり沈んでしまっていた心を浮上させた。

 手を差し出してふわふわの頭を撫でても子犬は嫌がる素振りを見せない。ルカは笑みを深くして両手で子犬を撫でると膝の上に抱き上げた。


「あなた、あの大きな黒い子の子ども? 全然違うけど、あなたも大きくなったらあんなに格好良くなるのかしら」


 首の下をこちょこちょと撫でながら訊ねるが、もちろん子犬は答えない。


「あなた名前はあるのかしら。ここで飼われてるなら名前くらいあるだろうけど……。黒くて丸くて転がってるみたいで……。そうね、あなたは点転(てんてん)ね」


 晶国の魔物なので晶国の言葉で名前を付けてみる。響きも良くてルカは満足すると、「てんてんは、あったかいなぁ……」と呟いててんてんを抱き締めた。

 それから少しの時間てんてんと名付けた子犬と遊んでいると、嵐が廊下の角から現れた。

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