四話「運命の傷跡、夢という名の記憶」
遅れまして、本当に申し訳ありません!
色々と調整に悩んでいたらこうなってしまいました……面目ない。
来週こそはがんばるので、ゆっくり待っていてください!
◇璃々◇
開かずの部屋に隠された真実。当然と言うべきか、あれを見てしまった夢川さんの顔色は酷いものだ。自分と瓜二つの人形、まるで生き写しにも見えるそれは、非日常に慣れていない彼女にとって、簡単に受けられる事実ではない。
勿論、私だって動揺している。
人形があるかもしれない、その予想はあったが、それがまさか夢川さんそっくりだったなんて。
──ただまぁ、見たからこそ浮かぶ新たな疑問もある。夢川糸依、彼女が一体何者なのか。普通の子だと思っていたが、人形との関係性を考えるに、こっち側だ。
恐らく、彼女にもなにか隠し事がある。普通じゃない秘密。早急にそれを知る必要がある。事と次第によっては、奴らに見つかった時庇えなくなってしまうから。
「夢川さん、少しは落ち着いたかしら? 話すのは平気?」
「あっ、うん……大丈夫。ごめんね、気を遣わせちゃって」
「構わないわ。それより教えて。あなた、なにか隠してるわよね? おいそれと人には言えない秘密が一つか二つ、あるでしょう?」
「…………言わなくちゃ、ダメかな?」
「あなたが長生きしたいなら」
短く返す私に、夢川さんは押し黙る。理不尽なことをしてる自覚はあるが、脅しと言われたって痛くも痒くもない。これは、私と彼女がこれからやっていくのに必要な情報。それによる精神的被害はコラテラル・ダメージだ。最悪の結末よりよっぽどマシだろう。
人間にとって死以外の傷は、致命傷でも時間をかければ治せる。だが、命の終わりは戻せない。どうにもならない。
「後ろだけでもいい?」
「……わからないけど、それで秘密がわかるなら好きにして」
「わかった」
心をより落ち着かせるためか、大きく深呼吸をする夢川さんを見守りながら、私は待った。チクタクと時計の針が進み、時間をかけて後ろに振り返った彼女は、震える手を首元に伸ばし、次の瞬間、ひらりと制服の赤いリボンが床に舞い落ちた。
夢川さんの行動を理解できない私は、ただそれを見詰めるだけで、少しずつ彼女の肌が外気に晒されていく。
紺のブレザーも、白いワイシャツやインナーシャツすらも脱ぎさり、上は下着だけとなった夢川さんの背中には──酷い火傷の跡が広がっていた。事故による大怪我にしても限度を越しているそれは、とても今を健康に過ごせるものとは言えず、異常の一言に尽きる。
「あんまり、見てて気持ちのいいものじゃないでしょ? だから、ずっと隠してたの。凄いんだよ、この痣。背中だけじゃなくて、前にもあるし、足の方からずっと続いてるんだもん」
「……痣、なの?」
「生まれつきのね。だから、事故にあったから〜、とかじゃないんだよ。お医者さんもびっくりしてたって、お母さん言ってたなぁ」
先天的な痣は聞いたことがあるけど、それにしてもこれは──本当にただの痣なんだろうか。火傷跡の痣なんて、聞いたことがない。近いものはあるだろうが、ここまで大きなものがあるなんて、偶然と言えるのか?
わからない、わからないけど、警戒するに越したことはない。何かあってからじゃ遅い。先手先手を打ち続けるのが有利状況を守る条件だ。
「……もう、服を着ても大丈夫よ。無理を言ってごめんなさい」
「わたしは全然平気だよ。気にしないで」
「なら、もう一つ聞いていい? 私以外で、その痣を見た人は他に何人いるの?」
「お医者さんを含めるとわかんないけど、それ以外なら、えーっと……三人かな。お父さんとお母さん──あと、鈴ちゃん」
「……鈴。あぁ、美波鈴さんね。わかったわ、ありがとう」
医者はなにか事件がない限り個人情報に該当するものは外に流さないし、本人やその家族から許可がなければ簡単には外に持ち出せないことを考えると、厄介なのは美波さんだけ、かしら。
幼馴染みとは言っていたけれど、ピンポイントで奴らじゃない限り、私との関係がバレたとしても誤魔化せる範囲内。
けど、どうしてだろう。
彼女の名前を聞くと背筋に寒気が走る。本能的な恐怖を感じてるとでも言うのだろうか。
「……どうかしたの、空金さん?」
制服を着直している夢川さんの表情は、先程より良くなっている。ここで余計な負荷をかけたくはないが、仕方ない。きっと、もしもが起こるよりかは良いはずだ。
「いえ、そろそろいい時間だし、最後に少し話したら帰そうと考えてただけ」
「まだ、何かあるの?」
「本当なら、話さなくても良かったんだけど、予定が変わったの。異端審問官に気を付けなさい」
「異端審問官……? 魔女狩りの?」
「そう。今では鳴りを潜めてるけど、滅んではいない。私のような魔女を未だに狙ってるわ。関わったら最後、ただでは帰れない。……知り合いの魔女が殺られたこともあるし、私の一族の何人かも彼らに消されたわ。──もし、私が捕まったらこの家を燃やしなさい。研究結果も、人形も、庭も全部」
「いいの? そしたら、もし逃げられても帰れる場所が……」
「一度捕まったら、逃げられることなんて稀よ。だから、消しなさい。あなたのことは死んでも喋らない。それに、紋章も私が死ねば自動的に消える。夢川さんは被害者、もしもが起きたらなにもかも忘れて、あなたの日常に帰ればいい」
いつか終わる関係だ。さっぱりしていた方が気が楽だろう。彼女はまだ戻れる人間で、私はそうじゃない、それだけの違い。
普通になんて戻れない。戻ることも望まない。お祖母様がずっとそう在ったように、私もそう在るべきなんだろう。魔女は魔女らしく、強かに狡賢く生きる。
もっとも、私はその域まで程遠いけれど。
◇糸依◇
帰り道は少し怖かったが、なんとか、結界の中を出て外への一歩を踏み出せた。行きに出たあの花畑の奥に進むだけで戻れたから良かったが、本当にどういう仕組みなんだろう。まるでわからないが、それも空金さんと一緒に居れば理解できるようになるのかな。
「でも、一番わからないのは空金さんのことだよなぁ……」
優しさと冷たさがどっちもあって、わたしのことを気にかけてるようで、そうでもなくて。かと思えば、もしもの時はわたしを守るとも言う。生きる理由とも言った研究すら捨てても良いと、そう言う。
人を簡単にわかった気になってはいけない、そんなの知ってるけど、知れば知るほどわからなくなるなんて、少しズルい。なんて、自室のベッドの上で思っていた。
「これがなかったら、この先もずっと他人だったんだよね」
歪な絆を繋げたのは、一つの呪い。
約束でもなんでもない、紋章の縛り。
淡い光を放つそれは、美しく、それでいて不気味。眺めていると、段々と瞼が重くなって、自然と眠くなっていく。体から力が抜ける感覚は不思議で、ふわふわと溶けていく意識の中で、声が聞こえた気がした。
知らない人の声。その筈なのに、凄く耳に残るもので。気のせいかもしれないけど、間違いかもしれないけど、自分の声のように聞こえた。
◇
夢を見た。
救いのない、夢を見た。夢の中で、わたしは火刑に処される直前の魔女で、観衆が石を投げる中、処刑場に向かっていた。たった一人の味方は、処刑を執り行う人間に必死に謝っていて、「代わりに私が!」とまで言っていた。
不思議なことに、その人の容姿は空金さんにそっくりで、処刑を執り行う人は鈴ちゃんに似ている。巡り合わせなのか、はたまた夢の都合でそうなってるのかわからないまま、時間は流れ、わたしは火刑台に上る。
じわじわと火の勢いは増して、熱く熱く身を焦がしていく。痛いとか、苦しいとかは感じなくて、ただ泣き叫ぶ一人の味方と、苦い顔をする執行人を見ていた。
「何故私じゃないの! どうして! あの子は■■は関係ないの! お願いよ、私を!!」
そう叫ぶ彼女にとって、わたしは大切な人だったんだろう。命にかえても守りたいと思う人だったんだろう。けど、きっとそれは、執行人からしても同じで、無言で見送っている。
鮮明な記憶を見るような夢。夢だとわかっていても、魂に刻まれたなにかが訴えかけるような感覚が胸に響く。
一体、このあと何があったのか。
死んでしまったわたしは知らない。だから、夢の続きもありはしない。燃え盛る炎が視界を隠し全てが終わった瞬間、紋章が発する熱と痛みで目が覚めた。
最悪の寝覚めだった。
次回もお楽しみに!
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