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交錯する生者 7

(前ページより)


     *


 ソミアが案内した図書館は、街の大部分を眺められるほど街から距離を取った郊外に建立されていた。

 階層は十階にまで連なる建築物で、高さは階数相応に高い。一般的に知られる図書館と比較すると多少横に長い。屋根付きの出入り口まで含めると、上空から見ると、円に小さな四角を繋げた形で、昔広く使われていた金属製の鍵で開ける鍵穴を思わせる。コンクリートで造られた外壁はほぼ白で塗られ、西の空を染めつつある茜色を映している。汚れが少ないのはまだ建立されてから年を積んでいないからだろうか。

 外の道路から出入り口を繋ぐ道と駐車場、屋根付きの駐輪場は地面用のコンクリートで舗装され、それ以外の所は綺麗に整えられた芝生が敷かれ、適当な間隔を空けながら木も植えられている。

 図書館の内装は、大まかに捉えればどの階も同じような造りになっている。円の中心から半径のところまで占めているのが『読書ホール』、残りの半径分を棚を使ってびっしり占めるのが『書物スペース』と区別されている。

 一階から四階は各国の歴史や文化などの文学を中心とした書物、五階から七階は数学定理の論文や生物学などの理学を中心とした書物、八階から十階は小説やエッセイ、社会学や心理学などに加えてインターネットを設置してある。

 さらに各階に、小規模ながらも、休憩と飲食用の場所まである。内部にはエレベーターを備え付けられてある。各階の入り口には書庫検索用一覧表が組み込まれたタッチパネルが設けられており、作品別・著者別に本を検索できる。同所にカウンターも運営されているので、気に入った本をその階ですぐに借債して、最大二週間持ち帰ることも可能だ。汗牛充棟であり、用意周到な図書館だ。

 本の扱いは機械技術が発達した現在にとって難しい問題でもある。書籍は、紙を媒体にして製本化する。しかし、それは機械がなかった時代において便利だった方法だ。機械技術が向上した現在では、本はチップ化され、それを閲覧用のハードに差し込めば同じように本の内容を読むことができる。

 本自体をチップという小型化に成功した今、紙を重ねるだけのかさばる製本化では効率が悪いとして、多くの場所で書籍の機械化が進んでいる。特に、インターネットを介しての閲覧は需要が高い。手元にある端末に取り込めば、手荷物を増やさずに読みたい本を読めるからだ。

 しかし、「本は紙でできているからこそ本と呼べるのだ」と世界中の読者から書籍の機械化を反対されたことがあった。その反対意見はあまりにも多く、過去には各国でデモが頻発したらしい。そのため、民意を汲んだこの国の政府は、図書館などの公共機関では書籍の機械化をしないことを決定した。

 この図書館は、人のそんな勝手な出来事に振り回されたものの一つなのだ。

 私は書籍の機械化をしなかった当時の政府に感謝している。なぜなら、私も紙でできた本のほうが好きだからだ。学校の教科書はすべて機械化されているが、それはなんだか違和感を覚えてしまう。紙を重ねるだけでできた重みのある本のほうが「本」のように思うのだ。

 だから、こういう図書館がこれからもずっと建っていてほしいと思う。

「大きいとは思うけど、けっこう地味な建物だね」

 ローレンスが外見のみの判断で感想を言った。

「見た目はね。中は意外に広い所が多いし、ここを利用する人に悪い人はいないよ。少なくとも指名手配されてるような人はいないと思う」

 本当かどうかは分からないが、私はそうであってほしいと密かに望んでいた。

「でも、本当にここ知らなかったの? けっこう有名な建物なんだけど」

「私達はこんなトコとは無縁だからね。名前は知ってたとしても場所がわからないし、探す気もなかったよ」

「商店街からけっこう離れてるしねぇ」

 私はジャスミンの台詞を聞いた直後、普段の授業ですぐにおやすみする三人は本当に活字アレルギーなんだなぁと確信した。

 そして、ローレンスの意見ももっともだった。この図書館はかなり遠い場所にあるのだ。商店街を抜けてある程度進むと、まるで別世界に侵入してしまったかのように田舎道が続いている。そこを三十分以上も進むとようやく図書館に到着する。町から出ようとしないか街の近郊に興味がない者には見つけられない建造物だった。

「よっしゃー! さっそく入ろーか」

 アナリアがはしゃぎながら入館しようとした時、

「ちょっと待って!」

 私は思わず制止した。

「何度も言うけど、入ったら静かにしててよ。中は本っっっ当に静かで、針の落ちた音も聞き取れるくらいなんだから。お願いだから騒がないでね」

 ソミアはここへ到着するまでに自分が知っている範囲で図書館の説明をしていた。そして中の様子を説明した時に忠告していたのだった。

「わかってるわよ。私たちを信じなさいって」

 三人は図書館の正面玄関へ向かって行った。

 三人の背中を見ながらソミアは、

「あなた達だから心配なのよ…」

 自分にしか聞こえない声で呟いた。



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