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交錯する生者 8

(前ページより)


     *


 少年は本を半分まで読み終えていた。

 その本は中間あたりになると写真がずらりと載せられていた。そこだけは、毎度のように少し見ただけですぐに捲るのではなく、時間を掛けて、見ていた。


 写真に写っていたのは、カメラマンが命懸けで撮影した当時の様子・風景だった。

 砂色の地面と空に目を凝らしている兵士。

 全身汚れた姿でカメラを見上げている子供。

 品粗な食料で空腹を満たしている女性。

 徴兵され、突然の別れに涙する親子。

 薄暗くて狭い地下室の隅で固い毛布に身をくるませて眠る子供。

 車に寄り掛かって携帯食料を食べる兵士。

 空爆によって跡形もなく破壊された民家。

 声を上げて泣く元気もない、母親に抱かれている赤ん坊。

 絶望感に満たされ、瓦礫に座って呆けている住民。

 空に立ち上る黒い煙の中を、他人事のように通り過ぎる飛行機。

 

 現在となっては用途が失われ、使用されることが無くなった、白黒の写真の数々。

 どの写真も、当時の情景を真正面から撮影されてあった。

 写真は“真実を写す”と書く。だが、たとえその風景が本当だとしても、全ての真実を写しているわけではない。

 一枚の写真は無数にあるコマの一つに過ぎない。

 一コマを撮るまでにどんな過程があったか、推定は出来ない。

 写真の画像はレンズに映った方向しか撮れない。

 レンズの反対にはどんな景色が広がっていたか、想像では決められない。

 色は写せても、音までは写せない。

 当時の思いまでは、伝えられない。

 真実を伝えるにはその場に直接居合わせた、嫌でも体験させられた者に伝えさせるしかない。

 過去の資料などの情報を元にした、人から人への伝聞では意味が無い。

(その為に俺達を使うつもりなのか…。いや、それも課せられた運命の一つ、か…)

 伝えたところで、どれほど重要なのか、理解してくれるか分からないのに。

 この世には沢山の人間が居るのに、理解出来る者が殆ど存在しないのだから。

(悲しい物だ。無駄だと判断できるのに、俺達はこれからも続行しようとしているのだから。全く以て愚かだ)

 続けようとしているのはどうしてだろう。

 それが自分の運命だからか。

 単純に、無知な者達に教えてやりたいだけか。

 理解出来る者などいない事を、諦めたくないからか。

 少年は自分なりに納得のいく答えを出そうと、暫く考え込んだ。

 暫く考え、読書することも忘れ、考察に時間を投資し、結局導き出せた答えは、無かった。




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