選ばれた臆病者 1
第二章 選ばれた臆病者
現在、二三世紀前半。
人間の人口は約八〇億人ほどとなった。
幾多の社会問題や他国との国際問題を経て、人間の生活はかなり高度に発展した。
特に、科学技術に関しては、過去三百年に遡ってしまえば比べようのないほど向上している。たびたび勃発した国際紛争が懸念され、どの国も時刻を迎撃・出撃できるよう、軍事力を上げていった。死者が出ることにより、人体実験が秘密裏に進められ、既存の手術方法や薬物療法に改革が行われていった。一方で、便利になりすぎたネットワーク技術は情報の取得や連絡手段といったような代表的な機能を高度に向上させることにより、世界中のユーザーを依存させていった。
医療、戦争、情報ネットワーク。
一見無関係に思えるこの三分野は、それぞれを阻害し合うことなく確実に人間の科学技術の進歩に貢献した。
だが、良いことばかりではない。
食糧問題、環境問題、外交情勢が深刻化していた。
日進月歩に豊穣してゆく人類の技術をもってしても、国際的に問題視されている難題を解決させるに至っていない。
昔から続いてきた領土に不満を訴えたり、今日も信仰者の精神の糧となり続けている宗教による見解の違いに立腹したりして、時々国同士で戦争が勃発した。それらの中には関係のない隣国まで巻き込んだものもあり、その際にいくつかの民族を絶滅寸前まで陥れたものもある。
また、技術の進歩は軍事兵器にも影響し、戦争が勃発するごとに大勢の犠牲者を出した。時には飛行機で空爆したり、敵国のコンピュータに侵入して社会規模で混乱を招かせたり、毒薬を散布して空気や浄土を汚染して食物を枯れさせ大飢饉を起こさせたりした。
世界の各国で起きたニュースを誰もが気軽に閲覧できるようになった情報化社会は、発信源となるマスメディアが強大な権力を持つようになった。また、そのメディアによって報道される情報の解釈が変化し、他国との外交を悪化させた例が目立った。
他にも、出生率の低下も見られた国もあった。特に、先進国は出生率の低下が目立った。
その結果、世界人口は想像していた以上の数には増加しなかった。
治安が安定しているかどうかは国ごとで差異が著しく、紛争や内乱は絶えない。
だが、市民は平和である以上、それ以外の余計な内情には関心がよらなかった。
しかし、『世界環境保護機関』の調査員達にはどうしても腑に落ちないことがあった。
あれだけ戦争を起こしたにも関わらず、オゾン層の欠落拡大、二酸化炭素の増加、戦地付近の海域汚染、土壌汚染、森林破壊、特定有毒ガスの漏出散布された大気汚染、酸性雨のpH増量といった、戦後に予想された数々の環境問題が最小限に抑制されていたのだ。さらに付け加えると、二世紀以上前から問題視されていた『地球温暖化現象』が、なぜか予測よりも遙かに食い止められているのだ。
自然現象とは考えられず、それを実行している活動団体がいるはずだと世界規模で探し回っているが、一向に見つからず、ただただ環境を維持し続けている偉大な星に感謝するしかなかった。
それらが現状となっている、今ソミア達が住んでいるのが、この時代の地球である。