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交錯する生者 9

(前ページより)


     *


 ソミアたち四人組は館内に設けられてある簡易カフェの席に座っていた。

 入館した直後に、

「何階に行く?」

 と訊き、各階の簡単な説明をしようとした直前に、

「どこでもいいんじゃない? べつに本読みに来たんじゃないんだし。それに、歩き疲れたから、どこでもいいから座りたいのよねー」

 という意見が挙がり、それに全員が賛成したので一階を利用することにした。各階に学習スペースが設けられているのだが、この時間は熱心な受験生で満員である可能性があったので、あえて言わなかった。

 そして、閑静なホールを横目に、カフェで運良く見つけた空席四人分を占拠したのだった。

 席まで移動するまでに「いやー、快適だねー」とか「窓ないんだぁ」とか「みんな、勉強熱心ねー」など、あれほど静かにしてと言ったにもかかわらず好き勝手に声を出すもんだから、休憩中の方々から強力な眼力ビームを浴びる羽目になったことは余談(ソミア以外の三人は特に気にしていなかったようだ)。

 話し合う前に、全員はジュースを買ってきた。喉が渇くだろうということへの対策だが、ローレンスはさらにハンバーガーも注文した。彼女はあまり太りにくい体質なので、食事制限については無頓着らしい。

「じゃあさっそく。何にしようか」

 ジャスミンが間髪入れずに本題へ移させた。

「変装系と購入系はイヤなんだよね?」

「うん。…それだけに限らないけど」

 一言本願を付け足しておいたが、果たして効果があるだろうか。

「考えてみれば、用意するのにお金必要になるよね。大金つぎこむのはイヤだな〜」

「室内のものならいいけど、屋外のものだったら時間がかからないものがいいな。外熱いし、日焼けしちゃうし」

 ジュースを飲みながら言うアナリアと、バーガーをナイフとフォークを使って切って食べているローレンスも、個人的な条件を出した。

 私は少し驚いた。前までのよりちゃんと問題点を挙げているし、後先を考えてもいるからだ。

「まとめると、今すぐにでもできるもので、しかも時間がかからないものっていうことだよね。…難しいわね」

 そして、相変わらずジャスミンはみんなを纏めるのが上手い。

「今すぐにでもできることかあ…」

 アナリアが何気なく首を回す。これだけ悩んで思い付かないものが、周りを見ただけで見つかるなんて都合の良いことがあるはずないのを承知の上で。

 だが、

「・・・・・・・・・・・・!」

 偶然にも都合が良かった。

「ねえねえ…」

 アナリアが嬉しそうな顔で言った。

「なに? なんかいいの思いついた?」

「うん、思いついたよ。今すぐできて、時間がかからない罰ゲーム」

 アナリアは四人で座っている場所の中心あたりまで身を乗り出した。

「なになに?」

 それと同様に三人も身を乗り出した。

 アナリアは声が余計なほうへ散るのを防ぐために手を口の横へ当て、小声で言った。

「あのね…ソミーが、あの人をナンパするの!」

 アナリアは自分から向かって二時方向にいる、硝子越しに見える人物へ指を指した。三人が指を指されたほうを向くと、『読書ホール』のそこには確かに人がいた。ただ見回しただけでは見落としてしまいそうな人だった。

 空席の中心にいる、片方だけのサングラスを掛けた、奇妙な少年が。

 ジャスミンとローレンスはアナリアと同じように歓喜の表情を浮かべ、ソミアは青ざめていた。

 私があの人にナンパ?

 あの、誰も近寄るのを避けているような人に?

 そんな…。

「だめ! ぜぇっっったいにだめ!!」

 私は猛抗議するため、やや大きな声を上げてしまった。『やや大きな』とは言っても、それは普通の人の声ほどだが。

 それでも、カフェにソミアの声が響いたのには違いなく、直後に周囲から視線の一斉掃射を受けてしまった。

 顔がかなり火照るが、今度は音量を抑えて、抗議した。

「なんでナンパなの!? 私そんなの一度もしたことないのに! しかもその相手が…あんな人なんて!」

「なんで? 今までの中で一番いいと思うけど」

「確かにすぐにできて、時間もかからないわね」

「もう二度とやりたくない、ってのにも当てはまるよ」

「だからって、ナンパはないでしょ…」

「ソミーの将来に役立たせるための練習よ。あんな適役は他にいないわ。ソミーって、確か人見知りするほうでしょ?」

 確かに。どちらも間違ってはいない。だが、

「ナンパって、私の将来に必要なの?」

「役に立つに決まってんじゃない! たぶん」

 最後の「たぶん」が気になるが、そう強く断言されるとなんとなく納得してしまう。

「でも…もし襲われそうになったらどうするの? 将来の心配より、今の心配してよ」

「だいじょーぶ。その時は私たちが助けるから。警察への通報も準備しとくし」

「でも…」

 何か言い訳を考えようとしたが、焦ると頭が上手く働かない。

「…」

「決まりね」

 ジャスミンが思考を強制終了させた。

「心配しないで。別に変なことを言うんじゃないわ。お茶でもどう?って誘えばいいだけよ。もしナンパに成功したらあとから私たちも合流するし、失敗したら、いい経験をしたってことでいいじゃない。どっちにしろ、声をかけ終わったら、みんなでなにか食べに行こ? ね?」

「うん…」

 席を立とうたした時、ジャスミンが「ちょっと待って」と止め、もし成功したら“右手でサムアップ”、失敗したら“左手で耳を触る”ように言った。「なんで耳なの?」と訊くと「それしか思いつかなかったのよ」と言われた。

「じゃ、がんばってね」




ハンバーガーの食べ方は国によって違います。

アメリカ文化では素手で持って直接かぶりつきますが、イギリス文化ではナイフとフォークを使って食べます。

さて、どちらがお行儀の良い食べ方でしょうか?(笑)


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