ジングウルート あのときへ12
右手はスマホ。
左手は秋山 幸の手を握る。
「出てよ〜。優子先輩出て〜」
私は秋山 幸の手を引いて歩いていた。
向かう先は優子先輩。
だけど何処に行ったか分からない。
「ううっ。また繋がらない」
すでに三度目のトライ。
何かあったのではないかと不安になる。
今度は優子先輩が殺されるなんてオチは絶対に嫌だ。
「ねえ」
秋山 幸に話しかけられたが、それどころじゃない。
急がないと。
「ねえってば」
掴んでいる腕を引っ張られる。
身体が後ろに持ってかれる。
「もう! 何ですか!?」
「アイツは何?」
「アイツって?」
「私の身代わりになった人」
身代わり。
やはり秋山姉妹の母親はーー
「毒親ってやつだったんですね」
「……直球ね」
秋山 幸は苦笑する。
肯定も否定もしない。
「世間ではそう言うんでしょうね。でも、分からない」
繋いでない方の掌を見る。
秋山 幸のその手は震えていた。
「苦しい。辛い。だけど美味しいものを食べさせてもらって、良い学校に行かせてもらって、お小遣いも他人よりもらって。私はそれを受け入れてしまってる。ううん。依存してる。だって怖いの。お母さんに逆らったら、優子のみたいな扱いをされるんじゃないかって」
見せしめだ。
優子先輩は秋山 幸が逆らわないようにするための見せしめなんだ。
それに摘蕾という言葉が浮かんだ。
秋山 幸という自分の思い通りの花を咲かせるために、優子先輩という蕾を切り捨て養分にした。
それが毒親じゃなくてなんて言うんだ。
「あなたを助けたのはジングウっていう神様」
「神様?」
「はい。あなたを助けるために三年後から来てくれたんですよ。とんだ過保護な神様です」
「……そっか」
秋山 幸の頬が濡れる。
「神様って本当に居たのね。毎日のように助けてって言っても来てくれなかったくせに。見捨ててはくれないだなんて。本当に神様って傲慢」
手をぎゅっと握られる。
「そんな風に優しくされたら、縋ってしまうじゃないの……」
秋山 幸が小さく見えた。
さっきまでこんなクズなんてって思ってたけど。
私と一緒なんだ。
神様がもっと早く来てくれれば、幸せに生きられたかもしれないんだ。
「ほら。行きますよ。優子先輩が待ってます」
「そんなわけないでしょ? あんなことをしたのに、優子が私のことなんてーー」
「お姉、ちゃん?」
声。
私たちは振り返る。
「優、子?」
秋山姉妹は互いに目を丸くしている。
「え、えと。じゃあはい。仲直り」
私は秋山 幸の背中を無理やり押す。
「ほら。秋山さんから」
「あ、うう」
「ファイト!」
困惑している秋山 幸の背中を叩く。
「いったいわね!?」
睨まれたが、涙目の秋山 幸なんて怖くない。
「お、お姉ちゃん。あ、あのね!」
「待ちなさい」
「もごほごご」
優子先輩の口が秋山 幸の手で防がれる。
「私から言うわよ。せめてお姉ちゃんさせて」
一歩下がり、秋山 幸は深々と頭を下げる。
「ごめんなさい、優子。ずっと、ずっと。私はあなたを傷つけてきた。本当に、ごめんなさい」
静まる世界。
そんな世界でクスッと笑い。
「お姉ちゃん、顔、あげて」
「っ!」
ハグ。
優子先輩からの強いハグ。
「お姉、ちゃん。だい、好き」
「なん、で?」
「ずっと、ずっと私を、守ってくれた、よね。一人で、ずっと、ずっと」
「っ!?」
優子先輩には分かっていたのかもしれない。
自分が暴言や暴行を受けているときに、自分の姉は極度の信頼と支配の圧に潰されていたことを。
だから、血の繋がった姉に蔑まれ、嫌われたとしてもーー愛せたんだ。
「ありがとう……ありがとう、優子……」
これで私の役目は終わりかな。
スマホを見る。
日付を確認する。
「今日、だったんだ」




