外伝ルート 瞳と宴と 幕間7
「今日はもうお開きにしよう」
此方は刀を鞘に収める。
「そうだね。私も疲れたよ。天、帰るよ」
「え、だけど先輩と会ってない!」
「諦めなよ。これ以上、オロチの気分を害したくない。それに夏休みが明ければ会えるだろう?」
ゲンムが歩き出すと、天も黙って彼女についていく。
「君ももう帰りなさい」
此方も場を去ろうとする。
だけど、動かないジングウを訝しむ。
「どうした、ジングウ?」
「どうしたって酷ーい」
もう一人のジングウがジングウを慰めるように胸に抱いて頭を撫でる。
「この子のプライドを散々ぐちゃぐちゃにしておいてポイ捨ては良くないな〜」
「君はその子に甘いよ。もう一人の彼女だか知らないが、その子は傲慢過ぎる」
「仕方ないと思うな〜。この子の性格を曲げたのはこの子じゃなくて、周りのーー」
「止めて」
ジングウによって、もう一人のジングウは口を閉ざす。
「分かったよ。私は君の味方。君が嫌なことはしない」
「……いつもありがとう」
震えるジングウをもう一人のジングウは優しく抱き締める。
「お開きなら私たちも帰って良いんだよね?」
「ああ。だが、道中気をつけなさい。君たちは、この山の妖怪に喧嘩を売ったんだから」
「ご忠告ありがとう! なんだかんだで優しいよね、オロチって」
もう一人のジングウはジングウの頬に軽く口づけをする。
「また何かあったら呼んでね」
「そばに居てよ」
「そばに居るよ。ずっと君のそばに」
そう言い残して、ジングウは黒い霧のように霧散して消えた。
「ジングウ」
「……何?」
睨みつける気力もないジングウは俯いたまま返す。
「もう一人の君をすぐに出すのは止めた方が良いと思うよ。彼女は切り札なんだろう?」
「違うわ。私の家族よ。とやかく言わないで」
「……そうか。失礼した」
「じゃあ、また会いましょう。ゲンムの道具が願いを叶えた後で」
肩を落としたジングウも立ち去る。
神域には此方だけが残る。
「ふう。なんとかなったか」
予想外のことが二つ。
クロハの乱入と、ゲンムが連れて来た二階堂 天。
前者は見張られていたから嫌な予感はしていた。
だから冷静ではいられた。
だが、後者は此方に動揺を生んだ。
「明らかに相島の邪魔をするというのに、願いを勧めてしまうとは、ね」
願いを叶えたいというものを拒めなかった。
本当は神だからどうかではない。
自分が幸せを掴んだら、誰かの幸せも望んでしまったからだった。
「女の子を救う、か」
死ぬ気で、いや死んでもなお喰らいついて来た相島の顔を此方は思い浮かべる。
「まったく、君は凄いよ」
苦笑すると、此方も神域を立ち去った。




