さくらルート32
「ふいー着いた~」
俺は目的の駅で伸びをする。
あの後から乗客がどんどん増えて終いには満員電車の中で俺たちはぎゅうぎゅうの缶詰状態になった。
そして俺たちを含めて乗客たちのほとんどはこの駅で降りた。
ここが目当ての大型ショッピングモールに直接繋がっている駅だからだ。
皆、ここで休日を過ごすのだろう。
「すごい人だったね……」
学生のときから電車通だった俺は平気だったが、満員電車に慣れていないのだろう。少し疲れ気味のさくらちゃん。
俺は彼女の胸を思わず見てしまう。
……どんぐらいあるんだろう。
電車に乗っている間、ずっとさくらちゃんの胸が俺に当たっていたから気が気ではなかった。
柔らかかったな~。
むにゅんとか、ぷにんっていう擬音が聞こえそうだったな~。
「な~に鼻の下伸ばしてるの?」
「え! の、伸ばしてないよ?」
「どうだか」
ふん! と麻衣が顔を逸らす。
俺、そんなに見てたか?
て、いうか今日の麻衣はずっと冷たい。
なついていた猫が毛を逆立てているみたいだ。
頭を撫でたら怒るかもしれない。
「さあ! 早く行こう!」
俺と麻衣の間の空気を察したのか、さくらちゃんが俺と麻衣の背を押してくれる。
俺たちはホームから人の波に身体を任せてショッピングモールへと入っていく。
「映画館はどの辺? 先にチケット取った方が良いよね?」
「大丈夫! ネットで席は予約しといたから。えーとね、十三時二十分からだね」
さくらちゃんはスマホで確認する。どうやら抜かりはないようだ
「いくらだった? 二人分払うよ」
「良いよ良いよ! 私の奢りで」
「いや、払わせてよ。さくらちゃんとは対等に居たいから」
「でも、私が誘ったんだし」
さくらちゃんが意外に渋る。
「じゃあさ、お昼は私が奢るよ。それじゃダメ?」
「……りっちゃんが良いなら」
「麻衣も良いだろう?」
「二人のデートの邪魔をしてるんだから私はどっちも払うよ」
麻衣も麻衣で頑なな態度だ。
麻衣には甘えてもらいたいんだが。
………………よし!
「お姉ちゃんに甘えてくれないの?」
「……ずるいよ」
麻衣が唇を尖らせる。
うん。やっぱり麻衣は相島 立花に弱いな。
ていうか麻衣も美少女なんだよな~。
デニムのズボンとキャップは男の子っぽい。だけどガスコート? とその中から見えるブラウスは女の子だ。普段は制服だから分からなかったが麻衣はスカートとかの女の子っぽい服よりこういうクールっぽい服が好きなのかもしれない。
「何、お姉ちゃん?」
「いや、麻衣の私服初めて見たから新鮮だなって」
「そ、そうだっけ。まあ、学校と部活以外出掛けないから」
照れたのか麻衣が顔を隠すように俯く。
そこも可愛い。
「りっちゃん、私も今日私服」
ねえねえ、と俺の袖を引っ張るさくらちゃん。
彼女は女の子らしいニットとスカートの組み合わせだ。
さくらちゃんのイメージに合うし、少し大人の女性っぽくて良い。
「うん、可愛いよ」
「えへへ」
頬を染めて笑うさくらちゃん。
「……私は?」
今度は反対の袖を麻衣に引っ張られる。
「麻衣のクールな感じも私は好きだよ」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
顔をあげた麻衣はにっこり笑う。
まさに両手に花。
幸せすぎないか。
俺、今日死ぬのかな。




