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覇道を進むは愚者の栄光  作者: 赤の虜
一章 千年王国脱出編
9/73

牛との追いかけっこ

これからは文章はこれくらいでいこうと考えています。


あと、これまでの話に関して、特性についての説明を「大望」に添え、「ボロ小屋で英雄に遭う」から特性の説明を削除しました。

ストーリー自体にはあまり影響がないので、気にならない方はこのままお読みください。

『猛牛』ゴードン。クワイエットさんが言うには剛剣傘下の英雄でこれまで数々の戦場で敵を吹き飛ばしてきた、力自慢らしい。

 そんな英雄に対して、私達がとった行動は逃げることだった。

 ちなみに、今は森の中を国境とは逆方向に逃走中。


「クワイエットさんっ、あなたはあのおっかない牛さんの仲間だったんですよね。どうにかしてください!」


「無理だよっ。あの状態の隊長は見境がないって言っただろう! 仲間内ですら距離をとって鎮まるまで待つことが最善だと言われてるんだ!」


「英雄のくせに全然役に立たないじゃないですかああああ!」


 私とクワイエットさんは全力疾走して逃げているのだが、自然災害のような理不尽さで木々をなぎ倒しながら猛追してくる牛さんのスピードが尋常でないので、距離をとるどころか詰められていく。


「まあ、見る限り逃走することが最善であろうなあ。あんな巨体の体当たりから『しぶとく』生き残ることは我でも厳しいだろうし」


 平然とそんな感想を漏らすエピーモナス様。彼がこれほど余裕を保っていられるのは、『猛牛』から逃げ出すとき、私が咄嗟の判断ミスで、荷物を持つような自然な動作で主を持ち上げて逃走を開始してしまったことが原因だ。


「エピーモナス様も今回は使い物にならないなんて……。もうどうしようもないのかもしれない」


 生存の芽が潰れてしまった。

 そう思い、私が絶望し、またトリップしかけたところで、エピーモナス様が口を挟んできた。


「まだ諦めるのは早いぞ、フィデリタス。……不幸中の幸いとでも言えばいいのか、この先にちょうど『猛牛』並みに危険な、ヤバイ奴がいるではないか」


 ヤバイ奴……あいつか!

 確かにあのヤバさ……じゃなかった強さならば、いい感じに『猛牛』を止めてくれるかもしれない。


「『業火』に押し付けるのですね?」


 役に立たないと思っていたばかりなので、カウンター気味に言われたエピーモナス様の提案がファンファーレのように聞こえる。

 エピーモナス様。やっぱりあなたが私の主です。頼りになる!

 恋する乙女のごとく熱い視線でエピーモナス様を見つめる私を、慌てた様子のクワイエットさんの言葉が現実に引き戻す。


「命の危険に細かいことは一々に気にしたくないけど、『業火』ってどこにいるのっ? あまり遠いと先に隊長に轢かれて死ぬじゃうって!」


 あ……。そう言えばあのヤバイ奴も移動とかしてるかも……。くそう、私のときめきを返せ!


 ――――ドゴォ!

 突如、逃げる私の横を何かが高速で通り過ぎ。

 地面に小さな窪みを生み出した。

 え?

 走りながらなので、何をされたのかはわからないが、おそらく『猛牛』が何かしたに違いない。


「あの大男、木を引っこ抜いて投げつけてきておるぞ!」


 珍しくエピーモナス様の焦った声がする。自分に直接効果がありそうな攻撃にようやく危機感を持ち始めたらしい。

 というか、木を引っこ抜くってなんだ! そんな簡単に抜けるようなものじゃないだろうっ! 環境破壊はダメ! 絶対!


 木の投擲に味をしめたのか、逃げる私の前方に数回に一回、爆散する木が映る。

 クワイエットさんで英雄をわかった気になっていたが、間違いだった。英雄も勇者と同じくらいおかしい!


 無慈悲に続く投擲から逃げ切れるわけもなく、爆散した木の破片が私の片足に刺さってしまい、逃走は呆気なく失敗した。

 無様な私を見て、クワイエットさんは自分だけで逃走することはせず、立ち止まった。

 ――優しい。


 エピーモナス様は私の手から離れると、華麗に着地を決め、天に人差し指を突きつけるポーズを決めた。

 ――腹立つ。


 人が怪我しているのに……こいつ。

 本当に裏切った方が良いかもしれない。クワイエットさんに主を鞍替えしようかな。

 立ち止まる二人の男に『猛牛』による容赦のない突進。

 しかし、『猛牛』は直前でわずかに軌道を変え、クワイエットさんだけを標的に絞る。エピーモナス様の特性『しぶとさ』の影響だろう。ズルい。

 直撃すれば人体が破裂しそうな勢いの突進をクワイエットさんは寸前で、紙一重のギリギリで回避した。牛は森林破壊を続けながら徐々に失速し、停止した。


「一応、彼の部下ですからねえ。これくらい避けられないと戦闘で轢かれてしまいますよ」


 当然とばかりに言うクワイエットさんだがさっき慌てぶりを見た後では疑わしい。


「おい、クワイエット。一応、聞いておくが『猛牛』を倒しても良いのだな?」


「隊長が相手とはいえ、僕に襲い掛かって来たんだ。覚悟はできているだろう。どの道この仕事が一段落したら闇討ちしようと思っていたんだ。だから、ちょうどいい……殺そう」


 反転してもう一度突進してきた『猛牛』の攻撃を回避するクワイエットさん。

 何か恨みでもあったのだろうか。やけに呆気なく承諾した。


「というかそのつもりで戦わないとこっちが殺される」


「なるほど。なら我は足を怪我したフィデリタスを背負いながら逃走する。貴様は我とフィデリタスが歌でも歌いながらのんびりと逃げられるように『猛牛』の足止めを頼む」

「「……………」」


 およそ人に頼む態度とは思えない物言いに私もクワイエットさんも一瞬黙り、クワイエットさんはそのせいでペースを乱してしまい、繰り返される『猛牛』の突進に当たりかけた。


「ああ、言っておくが我の足はフィデリタスをウサギとするなら、亀のような速度しか出ない」

「「……………」」


 エピーモナス様の言葉に、恥ずかしくなる私。じっとこちらを見るクワイエットさんの心の声が聞こえるようだ。

 ――――もうこいつ置いていけばいいじゃない。

 そう思っている気がする。私の心情的には大いに同意するけれど、特性『しぶとさ』は便利なのでまだ捨てるべきじゃないと思う。

 そんなやり取りをアイコンタクトで交わした。


 通じたかは知らないけれど、クワイエットさんもエピーモナス様を置いていくのは最善ではないと考えたようで、


「わかったよ、エピーモナス。『猛牛』は僕に任せて早く『業火』のいる方角に向かえ」


 格好良い台詞を言ってくれるクワイエットさんはだったが、エピーモナス様への殺意が漲るような声色だったから、あまり仲間のような連帯感はまったく生まれない。

 そして、エピーモナス様がいそいそと私をおんぶして、ふっふっと言いながら走り……歩き出した。

 おっそ! 本当に亀みたいなスピードじゃないか!


「フィデリタスよ。足は痛むだろうが耐えてくれ。すぐに『業火』を見つけて『猛牛』に擦り付ける」


 真剣な口調の主は確かに危機感を持ち、かつ私を心配してくれているのだろう。しかし、ふざけているようにしか見えないスピードの歩……走りと最低な発言によって、台無しだった。

 ちなみに、足の怪我については小さな破片だったので、背負ってもらう前に抜いておいた。だから、痛みもそれほどではない。

 その後は全力の逃走が続いた。原因は遅々として進まなかったエピーモナス様であることは明白なので、実際の移動距離は大したことはないだろうが、時間は大いにかかる。

 しかも『猛牛』がときどき木を投擲してくるので、エピーモナス様も直撃はなかったものの、何回か吹っ飛び、私も巻き込まれた。そっちの方が足の怪我よりも痛かった。


 ともあれ。私達は無事『業火』を見つけることに成功した。

 まあ、実際は『業火』本人を見つけるよりも先に、木々が焼失し、地面が焼け、焦げだらけになった大地と、いまだに怒りのままに暴れる危ない『ヤツ』の叫び声が聞こえたので、『業火』の居場所は移動途中で判別がついていたのだが。

次回は11月15日を予定しています。

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