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転生

 人生を無駄遣いした。そんな気分だ。


 俺は青空大志。ニートでオタクで引きこもり、最近二十歳になった世の中で最底辺にいるであろう屑だ。自分でも理解している。

 何かがあってこうなった訳ではない。ただ流されるように身を任せ、辿り着いてしまった先が此処だった。


 昔から人と関わることが苦手でずっと避けてきた。そんな生活を続けていればコミュ障にもなる、友達も全然出来ない、彼女なんてもってのほか。

 しかし一人だけ無理に友達を作った、一人になって寂しい奴だと思われたくなかったから。ただ一緒にいるだけの上辺だけの付き合いだった。会話もたどたどしく長続きしない、逆に傍にいることで気まずくなってしまうような関係だ。それでもちっぽけな自尊心を捨てることができずに友達はいるんだという演出は続けた。


 勉強よりも学校での生活のほうが難関だった。イベント事も大嫌いだった。賑わっている中に入れずに余計に自分が惨めな存在であることを再確認させられたから。


 一度の青春時代を思いっきりドブに投げ捨てながらも高校までは何とか卒業し、客観的に見れば最低な学校生活だったはずなのに卒業できたということだけで何だか満足してしまっていた。


 そこからはさらに落ちていく一方だった。


 目標なんて何一つ持っていなくて高校卒業後は適当に遊べそうな専門学校に通い、一人暮らしも始めた。歳を積み重ねただけで大人になった気になっていた。

 しかし、それが最悪な選択だったことはすぐに分かる。

 特に興味のないことばかり学ぶことが楽しいわけもなく、一人暮らしで怒られることもないので次第にサボり癖がついていき、サボったことが後ろめたくて行くのが嫌になり余計にサボりを加速させていった。

 かと言って遊ぶ友達なんていない、バイトをしているわけでもなく、親からの仕送りで生活していたので時間が余りまくった末、ハマってしまったのがネットとアニメ、それにネトゲだ。

 それまではオタク文化にはあまり触れていなかった。萌え系も気持ち悪いものとして認識していた。ネットも調べ事に使う程度。それが一度暇つぶしに覘いてみると一気にのめり込んでいった。


 ネットには自分のような人がたくさんいるという安心感と仲間意識みたいなものがあって、ここが自分の居場所だとビビッときた。きてしまった。

 そしてネットを見ていればアニメ関連の情報にも触れ、エッチなのが見てみたいというゲスな考えから好奇心で深夜のアニメを鑑賞し、これまたハマってしまう。

 いろんな種類のアニメがあり、見るだけなら電気代以外はタダなので金のかからない趣味として重宝した。それでも徐々に放送している分だけでは満足できなくなり近くのレンタルビデオ店に通い様々な作品を借りた。一番ハマったのは一人の男の子、主人公に対して好意を寄せるヒロインがたくさんいるハーレムと呼ばれる作風のものだ。

 可愛い女の子がいっぱい見れることは勿論、何よりもドブに捨ててきた華やかな青春時代を疑似体験しているような感覚がたまらなかった。現実では絶対にありえない状況に浸れる、理想の詰まった雰囲気が心地良かった。まさしく現実逃避だったと思う。


 ネトゲは基本無料なのでソロ無課金プレイで楽しんだ。周りとの差を気にするタイプではないのでマイペースに無料で可能な範囲で十分だった。その中で一番時間を掛けたのは『新・世界創造』というゲームだ。ホームページの紹介文に興味を持ったので適当に始めてみると自分でも驚くほどに熱中してしまった。無料なのに全てのサービスが提供され把握不可能なほどに自由度の高いゲームで、どうやって採算が取れているのか不思議だったがクオリティもかなり高く面白さも相当なものだったので時間を忘れて取り組んだ。本当に何をしても良いってぐらい自由だったが、俺は魔物を調教して配下を増やし、自分の軍団を作るのが好きだった。魔物の種類も把握できない多さでコレクション的な楽しさもあり、中には魔物娘という魔物と人間の女性の混じったような存在もいてイチャイチャしたりウハウハしたりもできた。


 その後、導かれるように引きこもりキモオタニートの道へ何の戸惑いもなく誘い込まれ、周りとの繋がりを断ってしまったために危機感を抱くこともなく二十歳まで過ごしてきた。


 そして、人生で一度きりだからと親が成人式に出なさいコールをしつこく送ってきたので久しぶりに実家へ帰り、スーツも購入してくれたので逃げられずに成人式へ赴くと周りから結婚しただの、子供が生まれただの、どこどこの企業に就職しただの、年収自慢だのと様々な現実生活の充実ぶりが聞こえてきて自分の現状と向き合わさせられた。

 上辺だけの友達だったアイツも彼女ができて幸せオーラに満ち溢れていた。

 密かに思いを寄せていたあの子もイケメンな彼氏とエッチしまくっていると風の噂が運んできた。


 その場にいるのが辛くなり、懐かしの友達や知り合いと昔話や現状報告などの話に花を咲かせることも二次会に参加することもなく、そそくさと帰宅している途中に成人式で浮かれて信号無視したDQNの車に轢かれ――死んだ。


 なんて最期だ。結局いろんなものから逃げて何のイベントも起こさず、無駄に命を消費するだけの人生だった。自分で選んできた道がゆえに後悔が募る。もし来世があるのなら失敗なんぞ恐れずに一級フラグ建築士の如くイベントだらけの充実した人生を歩みたい。


 そんなことに思いを馳せながら今、意識を手放していく――。







 ――え? なんだこの場所。病院……なわけないか。


 目を覚ますとそこには只管に真っ白な不思議空間が広がっていた。俺は死んでなかったのだろうか。しかしこの状況は異常だ。死後の世界……とか言うやつか?


 『気が付いたようですね、青空大志さん』


 「なんだっ!?」


 頭に直接響いてくるように俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 すると目の前に何者とも認識することができない蜃気楼のようなひどく曖昧な存在が現れた。そこにいるはずなのだが脳が視覚的な情報を一切遮断しているような感じだ。


 『私はこの世界に一つの疑似世界を提供致しました。新たな世界を創る前のお試しのようなものです。人がどのような事に興味を持ち、どのような行動パターンを取るのか情報を収集し、不具合などの確認も終わり新たな世界は完成に至りました』


 正直何を言っているのかサッパリだが突然のことに頭が追い付かず、ただ話を聞くことしかできない。


 『青空大志さんは世界創造に関し多大な貢献をもたらして下さいましたので新たな世界へ転生されてはどうでしょうか。と、お誘いに来たのです。今回は残念なことに不慮の事故で命を落とされたようですし、今の世界に未練もなさそうでしたので勝手ながらそう判断させて頂きました。……どうでしょうか』


 いや、どうでしょうかって……何となく悪い話じゃないようだけど事情が全く理解できない。


 「その、俺が何かしましたか? そんな大それた事に協力した覚えはないのですが」

 『新・世界創造という言葉に聞き覚えはありませんか?』


 新・世界創造…………もしかして、あの俺が熱中していたネトゲのことか? でもネトゲだぞ。


 「ネットの無料オンラインゲームのタイトルでしか存じ上げておりませんが」

 『それが提供致しました疑似世界でございます。提供して間もなく青空大志さんはプレイし始めて下さいまして、時間も非常に多く割いて頂きました』


 真面目にネトゲのことだったらしい。確かに夢中になってプレイ時間は半端じゃなくなっていたが、ネトゲで世界創造のための情報収集とか明らかに選択ミスじゃないか?


 『あ、その、世界観も違いますし、ゲームなら自分を包み隠さずに本音が見えるのではないかと……私は新人ですのでアイディア性に富んだものに挑戦してみようかと……』

 「あ、あぁ、そうですね。良いと思いますよ」


 考えていたことが顔に出ていたらしい。いろいろ考えて頑張ったんだね。しかし新人に世界創造を任せるとは……スケールが大きいのか小さいのか。大きいな。

 この人も、もっと堅実にやったほうが良かったんじゃないか?


 それで……転生だっけ? 死んだ身としては嬉しい限りだよな。やり込んだゲームの世界ってのも悪くない。と言うかファンタジーな世界に行けるのは凄いワクワクする。

 ただ、仮にも魔物とか山賊とか存在するような世界だし……少し恐いな。


 『それと転生の際にポイントを消費して特典を選択できますので少々危険な世界ですけれど深く考えすぎないでも大丈夫かと……恐らく』


 う、うん。なんか微妙に信頼できない。でも特典ねぇ。


 「ポイントとか特典ってどういったものなんですか?」

 『ポイントはゲーム内で貢献ポイントと表示されていたものです』


 あーあったな貢献ポイント。表示されているんだけど何に関わるものなのか分からずじまいで、少しずつ蓄積されていたけど使い道が謎ですっかり意識しなくなっていたやつだ。

 何か行動するたびに増えていた気がする。


 『そして、そのポイントを消費してこの中から特典を選択していただきます』


 そう言うと目の前にズラーっと項目が表示された。

 ゲームのようにステータスに補正がかかったり特殊能力やレアアイテムの取得だったり地位や名誉を得られるものだったり多種多様だ。

 しかし、やはり凄そうなものは消費するポイントも段違いに高い。


 『どうでしょうか。中々良い条件だと思いますが転生いたしますか?』

 「そうですね。お願いします」


 まぁ断る理由はないな。


 『では、特典を選択して下さい。時間はお気になさらず、大切な事なのでじっくりと御考え下さいませ』

 「分かりました」


 うーん……どうしようか。そこそこポイントは溜まっていたみたいだけど贅沢できるほどではない。

 とりあえず死にたくはないから防御かHPのプラス補正系が良いのかな。あとは特典限定のアイテムとか仲間キャラとか魔術とか、限定って付いてると気になっちゃうよなー。多過ぎて目移りしまくる。







 よし。こんなもんか。

 やっぱ安全第一と言うことでHPと防御の中補正を取得。防御につぎ込んだら防御を上回る敵に遭遇したらヤバいし、HPにつぎ込んでも攻撃受け続けたら死ぬし、どっちつかずな感じだが中補正でもステータス的に十分チート級だったので両方選んだ。まぁ万が一心配になるようだったらレベル上げでも防具強化でもすれば良いし、そんな危険なことはしないと予想して。

 次に余ったポイントで限定ペットを取得した。『宇宙人』という種族らしい。ファンタジーな世界観には完全に場違いなのが一目瞭然だが、それが余計に限定感を醸し出している。話に聞くと今回の新たな世界創造を聞きつけて自分も混ぜてくれと懇願してきた、この世界に実在したリアル宇宙人だと言うことだ。


 これらでポイントは無くなった。HP、防御の中補正が性能と共に消費ポイントも高かった。あとはほんのちょっと残ったポイントで序盤に役立ちそうな装備品やアイテムなどを一式選択しておいた。


 「選び終わりました」

 『承りました。それでは最後の準備に取り掛からせていただきます。大志さんは御自分の種族や姿、性別などを御選び下さい』


 今度はキャラクタークリエイト画面のようなものが出現した。新たな世界での自分の外見や種族、性別まで自由に選べるみたいだ。

 これまた時間が掛かりそうな……。







 またまたカスタマイズ性が非常に高いキャラクリだったので相当時間はかかったが何とか納得のいくものになった。ただこれにもキャラクリ用のポイントが設定されていて色々な制限はあった。

 種族は『魔人』だ。悪魔と人間の混血種で普段の外見は人間だが魔力を使用することで悪魔化が可能……カッコイイ、一目惚れだった。その代り基礎ステータスが高めだったり種族として珍しかったりで消費ポイントは高かった。

 そして性別は悩んだが結局男にした。女にもなってみたいという気持ちはあった。だけど、もう一度人生をやり直すチャンスだというのなら再度男で挑戦してみようと考えて結論に至った。一生女ってのも何か慣れないものに対する不安があったしな。性別はポイント消費がなかった。

 最後に見た目はかなり拘った。せっかく自分で理想を作り上げられるのだからと細かい部分にも隅々まで調整を繰り返し俺の中で思い描く完璧超絶イケメンにした……かったが、デフォルトの姿から弄っていくと合わせてポイントも減っていくので中途半端に足りなくなって微妙な結果に終わった。まぁ今の自分と比較すれば十分イケメンだが。

 髪は黒で少し目が隠れちゃう程度の長さ、瞳は赤、目元は少しキリッとさせた。他は微調整したぐらい。ダークヒーローっぽさを狙ってみた。全体的に美青年な雰囲気は出せたと思う。


 兎にも角にも、これで全ての準備が整った。


 『それでは、準備はよろしいですか?』

 「大丈夫です。お願いします」


 いよいよ転生、新たな人生のスタートだ。


 『御気をつけて、行ってらっしゃいませ』


 言葉と同時に意識が引き離されていき奇妙な浮遊感の中を漂い始める。







 新たな世界、二度目の人生、期待に胸躍らせながら――眠りに落ちた。







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