第三話 3 〈旅の予定〉
【午前10時20分】
「師匠と呼んでもよろしいでしょうか!」
「好きにしろ」
「じゃあ呼びます! これからよろしくお願いしますヒイナ師匠!」
ヒイナお姉さん改めヒイナ師匠になった! 普段は師匠って呼ぶと思う。
食事を取った事で僕の体調は劇的に回復した。空腹はもちろん体のだるさも消え、まるで生まれ変わったみたいだよ(ちょっと盛ってみた)。
そして今は僕とアイラちゃん、師匠の三人でこれからの予定について話し合っている最中。
「出発は明日の早朝。以上!」
「はやっ!」
話し合い終了。尊敬するぐらいアバウトで適当な計画ですね。
「私たちは今から寝る。だから貴様は夕方ぐらいまで何処かで適当に時間を潰してろ」
「私たちってアイラちゃんも?」
「そうだ。分かったらさっさと出てけ」
「え!? ちょ、ちょっと待ってください! そんな急に――」
バタン、と扉が閉まってガチャって鍵が掛かる音がしました。
完全に締め出されちゃったよ。これからどうしよ?
僕の現在の所持品は、締め出される時に無理やり持たされた茶色い小袋だけ。
小袋の中にはお金が入っていた。小銅貨が十枚と大銅貨が五枚、それと小銀貨が二枚。小銅貨は1ルギーで大銅貨が10ルギー、小銀貨が50ルギーだと締め出される前に師匠から説明された。
と言うかこれって、締め出すから説明したんじゃね?
分からないけど今の僕の所持金は合計160ルギーだ。30ルギーで定食屋のランチ一人前を注文できるらしいから、160って結構大金なんじゃ?
「ん? 袋の中にまだ何か入ってる」
中から出てきたのは小さなメモ用紙だった。文字が掻いてあったけど何て書いてあるか全く分からない。この世界はどうやら言葉は通じても文字はダメらしい。
「ま、いいか。せっかくお金があるんだし温泉でも入ろうかな」
時刻は10時30分。中途半端な時間だけどまあいいか。昨日入りそびれたし随分と入ってなかったから、結構体が臭いんだよね。こんな状態じゃアイラちゃんに嫌われちゃうよ。
と言う事で露天風呂へレッツゴー!
【午前10時50分】
「あーいい湯だった」
久々のお風呂だったからめっちゃ気持ち良かった。露天風呂だったし。ちなみに宿代とは別料金で、40ルギーと予想以上に高かった。
さて、次は何をしようか……。
「昼まであと一時間ぐらいあるから、庭で能力の練習でもしようかなー」
発動の仕方や使い方は全部頭の中に入ってるし、後は体に馴染ませるだけ。
よーし、やるぞー!
おー!
【午前11時00分】
ここで僕の能力を詳しく説明をしよう。
僕の能力は重量操作。自分の体と触れている物の重量を自由自在に変える事ができる。例えば僕の体重は40キロなんだけど、これを半分の20キロにしたり、倍の80キロにしたり、と元の質量・体積に関係なく変化させられるのだ。質量保存の法則完全に無視だね。
ただし、これにも限度って言うのがあるらしい。例えば石ころの元の重量を100%とすると、軽くできる限度が5%まで、重くできる限度は250%まで。
調べ方は露天風呂の更衣室に置いてあった、木の板に透明な丸い玉をはめ込んだ魔法の体重計で量った。板の上に乗ると透明な玉から光が出て数字が映し出されるのだ。いやー、なんだか魔法って未来の科学みたいだね。
因みに数字は読めたよ。単位も僕がいた世界と同じだった。
その他に、重量を変えられる範囲・大きさは、僕の体より大き過ぎるのはダメで、一度僕の手から離れた物体の重量は直ぐには戻らずに、ニ三秒のロスで元に戻るみたいだ。
もちろん訓練すればするほど能力の性能は上がっていく。手から離れた物体でも、数秒あるいは数分は重量を操作できたりとか、物体の大きさに関係なく能力を使えたりとか。色々ある。
まあ頑張って訓練して、地道に磨いていくしかないだろうね。
あ、それと最後に、能力を使い過ぎると頭が痛くなるって事も分かった。副作用の時と比べれば全然マシだけど、地味に長く続くから能力が使い辛かった。
それらを全部調べるのに午前中の一時間だけじゃ全く足りなかったから、結局夕方まで能力の練習をやってしまった。お陰でお腹がすごく減ったよ。
「もう夕方だし、部屋に戻るか」
【午後5時40分】
僕は部屋に戻って師匠たちと合流し、一階の食堂で夕飯を食べた。
「今一だったな」
「確かに……」
「右に同じく」
全員一致の今一判定の食堂を出ると、僕たちは露天風呂へ向かった。
(くそー。師匠さえいなかったら『ドキ(以下略)』を行えたのにー!)
さすがの僕でもヒイナ師匠がいる風呂は覗けないよ。覗いた瞬間にぶっ殺されそうで怖いんだもん。
そして本日二度目の入浴後。
【午後7時00分】
「朝は眠かったからな、今後の予定の説明を少々省いてしまった」
少々じゃなくてかなりだと思いますけど。とは口には出さない。
「今から、今後の予定を話そう」
そう言うとヒイナ師匠は、自分のバッグの中から折り畳まれた紙を取り出した。
「地図ですか?」
「ああ。この世界の地形について貴様には以前説明はしたが、実際口では分かり難かっただろ」
「まあ、確かに」
「だから夫々の国・大陸の確認も含めて地図を使って説明する事にした」
師匠は三人で取り囲んでいた正方形のテーブルに地図を広げた。因みにアイラちゃんは僕の正面に座っていて、師匠は右側に座っている。
「貴様たちも知っているように、私は今、アイラをマテーラ王国に連れて帰ってこい、と女王直属の依頼を受けている。そして目的地のマテーラはここ、春陸の最南東にある」
師匠の人差し指が地図の一箇所を指した。
「そして現在位置は秋陸の北東。だからマテーラに行くには中央大陸を南東に向かってぶっちぎる必要がある。普通に馬車で行けば二ヶ月は掛かるが、ここから馬車で二日ほど行った所に転移所がある。それを使えば遅くても一週間ぐらいで王国に着けるだろう」
ここで、分からない人の為のナンバーワールド講座(ヒイナ師匠の受け売り)。
春陸とか秋陸とかって言うのは大陸の地域名、的なもの。
僕たちのいるこの大陸は『ユーレステス大陸』と言って、ひし形っぽい形をした大きな大陸だ。そして大陸は五つの区画に分ける事が出来て、一番上が冬陸、一番下が夏陸、右が春陸、左が秋陸、中央が中央大陸となっている。
そして四季があるのは中央大陸だけで、夏陸は年中夏の気候、秋陸は年中秋の気候って感じで、他の区画は季節が一つしか訪れないらしい。
次に転移所について。
転移所とは物体・物質を瞬間的に遠くへ移動させるための施設だと聞いた。と言っても何処にでも移動させられる訳ではなく、接続している別の移転所にしか移動させられないらしい。さらに移転所を管理しているのがその土地にある国のため、その国と敵対していたり同盟などを結んでいない国・地域などには移転できない。
因みに、今から行く移転所はフェアリル多民族王国と言う、マテーラ王国と同盟関係にある国が管理している為、一度フェアリルの首都アルリナで魔法陣の乗り換えを行わなければならないものの、馬車で移動するよりは遥かに早く行ける、とのこと。
説明終わりー。
「はぁ」
と、溜息を付いたのは師匠だ。
「ようやくこの血生臭い土地からお去らばできる」
「血生臭い?」
「ああ。秋陸は大陸の中で最も紛争・戦争が多い土地なんだ。ローズ王国、ディアル独立国、ハウサイド公国の三国が途轍もなく仲が悪くてな、ほぼ毎日のようにどっかで殺し合いをしている。最近はデカイ戦闘はないらしいが、物騒なところだという事には変わりない」
僕たちが今いるところはローズ王国と言う、三国の中では一番まともで穏健な国の領内なんだとか。それでも他国からのテロ攻撃や暗殺事件なんかが絶えないらしい。やっぱり何処の世界にもあるんだね、戦争ってのは。
「予定はこんなところか。シュウジ、貴様に修行をつけるのはこの依頼を果たしてからだ」
「あ、はい!」
うおー、なんだか『修行』って響きがたまらないよ。ファンタジーって感じで最高だ。
「アイラは何か聞いておきたい事とかあるか?」
「いえ、今は何も」
「そうか。なら今日はもう寝よう。明日は一日馬車の中だ。寝られるうちに寝ておけよ」
「はーい!」
「わかりました」
元気良く返事をして僕はベッドの中に入った。師匠とアイラちゃんは一緒に寝るらしい。ベッドが二つしかないからしょうがないよね。
あーあ。アイラちゃんと一緒に寝たかった……。
え? 一緒に寝たらどうするのかって?
う~ん……どうしよっか? と言うかどうすればいいんだ?
時刻は午後8時15分。
そんな思いを抱いたまま、僕は早い眠りについた。
――次章予告――
“遅くても一週間”アイラをマテーラ王国に連れ帰るにあたってヒイナが立てた予想は、宿を発ってから一日も経たない内に崩れ去ってしまう。彼らの道程に妨害が入ったからだ。それが引き金となるように、アイラを中心とした激闘は幕を上げた。
第二章がまだ全て書き終わっていないため、次回からは不定期更新になると思います。書き終わり次第、一日一話以上から更新させて頂く予定です。勝手ではありますが、ご了承ください。




