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笑う竜  作者: mashironotsuki
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一話01 護衛狩り狩り

「テメェが割り込んできたんだろうが!このクソサイコウ!!」

「違うだろ!ジオ、俺の方が先に走ってたんだろうが!」

「じゃあ何で俺の肩にぶつかってきてんだよ!ああ!?」

「避けなかったからだろ!」

「避けるかボケ!てめぇが避けろや!」

ゴッ!

「いってぇ!いきなり殴るかよ!」

「てめぇもぶつかってきたろうが!」


魔の森を突っ切る街道の真ん中。

ジオス=ステンカーは、肩口まで届く白髪を夜叉の如く荒々しく振り乱し、声を張り上げて怒鳴り散らしている。

そのジオと額を突き合わせ、互いの胸ぐらを掴んで一歩も引かないのは、精悍とした顔つきの黒髪の剣士、サイコウ=カイシャスだ。


事の発端はほんの数分前。

三メートルを超える巨大な猪、ワイルドボアに襲われた馬車と護衛の冒険者たちを救出するため、クラン「スレインドレイク」の四人が駆けつけた。


魔獣や野盗に襲われる商人や馬車を救い、逆に襲撃者を狩る、通称「護衛狩り狩り」。

ところが、救出に走り出したジオとサイコウの肩が激突。どちらが先だったかで揉め始め、既に猪どころではなくなっていた。


「おらっ!」


ジオが右拳を振り抜く。サイコウは頭を傾けて躱し、すかさず左の拳を返す。ジオはその拳を前腕で弾き、サイコウの襟首を引っ張った。


「うおっ!」

「隙だらけなんだよクソが!」

「どこが!」


ゴッ!ガッ!ドゴッ!

互いの拳が頬を掠め、肘がぶつかり、足を払えば蹴り返す。随分とやり慣れた喧嘩なのか、二人とも相手の動きばかり見ている。


「ったくよ!お前らいい加減にしろって!」


サーラが二人の間に割って入った。


「そもそもどっちが先でも……」


バキッ!ドゴッ!


「ぶげっ!!」


ジオの右拳とサイコウの左拳が、同時にサーラの顔面と脇腹に直撃。サーラは後方へ吹っ飛び、街道脇の草むらに頭から突っ込んだ。


「……ぐおお……。」


二人はサーラが割って入ったことにも気づかず、再び互いの胸ぐらを掴んでいた。


「てめぇ今足踏んだろ!」

「そりゃ豚のヒヅメだ!」

「誰が豚だぁ!!」

「あ、猪か」

「んな訳あるかクソッタレ!」

「ハシバ!お前も何とかしろ!」


草むらから這い出したサーラが叫ぶ。

ハシバは無言で首を横に振った。


「おい!お前まで見捨てんのかよ!」


その時、ワイルドボアが猛烈な勢いで二人へ突進した。

ブモォォォ!!


「どけやコラァ!!」


またもやジオとサイコウが同時に振り抜いた拳が、割り込んできた猪の鼻面を捉えた。

ドッゴォン!!

三メートルを超える巨体が宙を舞い、街道脇の大木に激突。


「だからてめぇが先に……!」

「まだ言うか!」


猪は木の根元で痙攣していたが、ハシバが歩み寄り、巨大な槍を一突き。

ズドン!


「……完了。」


「そっちは終わったけどこっちは終わんねぇよ!」


サーラは額を押さえた。

その時、馬車から派手な衣装の小太りの男が覗き込んできた。

馬車は絢爛豪華な割に、見合わないほど少数の護衛。しかも皆満身創痍。


「おお、何とも粗暴な連中ですな。」


男は懐から白いハンカチを取り出し、鼻と口を覆った。

「近寄らないでいただきたい。汗臭い、泥臭い、獣臭い。まったく、下賤な者は存在そのものが不衛生でいかん。」

「……あ?」


サーラが眉を顰める。


「私はナイパチーノ。由緒正しき貴族の子息ですぞ。貴様らのような汚らわしい者が、私の馬車に触れるなど言語道断。さっさと離れなさい。」

「……助けてもらって随分なご挨拶だな。」

「ふん。冒険者風情が恩着せがましい。汚物が喋るとは実に不愉快ですな。」


サーラは男の顔を眺めた。

妙に落ち着いている。護衛の冒険者たちはまだ青い顔をしているというのに、この男は馬車の汚れを気にしてばかりいた。

背後ではジオとサイコウが相変わらず殴り合っている。


「てめぇ何回言わせんだ!」

「何回でも言うぞ!俺が先だ!」

「ぶっ殺すぞこのクソガキ!」

「お前もガキだがなっ!!」

「……やれやれ、あいつらも大概だが。」


サーラがため息を漏らした。

血の匂い。

猪のものとは違う、微かな獣の血臭が馬車の貨物から漂っていた。


「……ん?」


荷台の奥、積み上げられた木箱の隙間に、汚れた布を被せた小さな檻がある。

サーラはナイパチーノに背を向け、荷台へ足を掛けた。


「おい、貴様!勝手に何をしている!」

「ちょっと失礼。」


布を捲る。


「……おいおい。」


銀白色の小さな獣が、血に汚れた身体を丸めていた。細い前脚には縄が食い込み、まだ開ききらない瞳が弱々しくサーラを見上げる。


「……フェンリル?」


サーラの顔から笑みが消えた。

◻️登場人物

ジオス=ステンカー(ジオ)/20歳。炎魔法を操る酒浸りの喧嘩っ早い魔法使い。豪快で人情に厚く、一途で涙脆い。幽霊が苦手。


サーラ=アルバート/20歳。魔と炎を操る魔法剣士。計算高く頼れるリーダーだが、女好きの厨二病で軽口が多く、肝心な場面では挙動不審。


サイコウ=カイシャス/20歳。黒髪短髪の屈強な魔法戦士。水魔法と剣を操る魔法戦士。平和主義の負けず嫌いで、女性に弱く、不器用を言い訳にする硬派。


ジャック=ハシバ/21歳。黄色い短髪と巨躯を持つ寡黙な重戦士。武具の扱いは超一流。義に厚く頑固で、言葉より行動を重んじる。仲間とはアイコンタクトで意思疎通する。

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