二十五 エピローグ
やぁ、どうした? そんな顔をして。
あぁ、そうか。読んだんだね、彼の物語を。
なら、少しだけ……。少しだけ、君に伝えよう。
あれから彼は、舞台を飛び出して母のもとに向かった。階段を走って、走って、走りあがって。上がった息に、白く湧き上がる息に、母親が彼を抱きしめて……エイラのように笑ったんだ。
たくさんの観衆も、彼の大切な仲間たちも、皆で涙を流して、柔らかく温かく、その生命の輝きに拍手した。
その日は家族みんなで、病室に泊まったそうだ。
そしてーーーー。
当たり前の朝が来たことに感謝したんだ。
母親はね、とても頑張った。頑張って頑張って生き抜いてね。そう、真っ白な雪がすっかり溶けてしまうまで、美しく煌めいたそうだ。
幸せか? と聞かれれば、彼は幸せだと答えるだろう。
特別か? と聞かれれば、特別でないと答える。
成功したか? と聞かれれば、悪くないと答えるけれど。
失敗か? と問われれば違うと答える。
まあ、どこにでもある、ごくありふれた、普通の人生だと思う。
キト。
彼は親になって、その意味に気づいた。
彼の名は、来てくれてありがとう、ずっと待っていた、とついた名だ。だが、君の名もそうだろう?
親ってやつはいつだって言い訳ばかり。正しいことなんて教えちゃくれない。
だが、その名は……、親だろうか? 肉親だろうか? もしかして、事情があって全くの第三者がつけた名かも知れないが……。
君の幸せを祈ってつけられたってことは紛れもない事実。そして君がその名を呼ばれるだけで、幸せの金の光の粒が君の魂に刻み込まれる。溢れんばかりの愛とともに……。
もう一つ、話そうか。
まぁ、説教じじいの戯言だと棄ておけばいい。
君、知ってしまっただろう? 妖精の存在を。
ははは、見えなくてもいい。信じなくてもいいさ。
見えた時に知ればいい。
妖精は興味の塊で、気まぐれで、羽根を震わせる音が好きだ。ただ輪廻に還るその時まで、目いっぱいに生きて楽しむ、何の力もない、ちっぽけな奴さ。
だけど、君は妖精がいることを知っている。
ただそれだけで世界が変わる。本当さ。君は彼の物語を読んだのだろう? なら、分かったと思う。
ヒトも妖精も同じだ。目一杯に生きて、ただ輪廻に還る。その軌跡は、何色もの色で満ち溢れていて、溢れんばかりの音で彩られている。特別なことなんかないが、全てが愛おしい。
君は確かに、妖精と愛を知ったはずだ。
うん。
輪廻に還るために生きる、その尊さと愛しさを知った。
あぁ、らしくない。
こんな説教くさい話は、今日に相応しくないな。
ああ、これ? 君はこれが気になるのかい? ふふふ、宇宙のカケラさ。ちっぽけで、儚い夢のカケラ。
あの日、彼のポケットにこぼれ落ちたアクアブルーの石だけれど……。忘れないように無くさないように……、ほら。宇宙の中央で優しく瞬く星にでもしておこう。
さぁ、時間だ。
ありがとう、君に逢えてよかった。
幸せをーーーー
ただ幸せを祈らせてくれないか?
いや……、ずっとずっと……祈っている。
僕? 僕は誰かって?
ふふふ、知っているだろう?
僕はクルトさ。
ーーーーーーーー三田 来人
今夜、白くて硬い小さな雪粒は、銀の光を帯びて優しく降り積もる。 君の胸に・・・
メリークリスマス
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