表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第六章
37/63

斜陽の鵜飼家

藍子の父親、幸司が経営する鵜飼アルミ建具製造の業績は悪く、彼はいつも機嫌が悪い。楓の不登校は続き、週一回の登校日でさえ登校出来ていない。登校日前夜、彼は男性アイドル歌手の料理番組を観ている楓の背中に向かって

「明日は学校だからな」

と念を押した。楓は単位が足りず三年生の今年中に卒業出来ない恐れがあったのだ。楓は父親の方を向かず、テレビを観たまま、「うん」と答えた。


翌朝楓は朝食の席に着かなかった。いつまでも自室から出てこない娘に幸司は痺れを切らした。

「楓、学校だぞ起きなさい」

彼は部屋のドアを開けた。部屋の電気も冷房も付いているのに楓はベッドの中だ。枕元には携帯電話が添い寝するように転がっている。つまり楓は携帯電話で深夜まで動画を観て、電気も冷房も消さずに寝てしまった。そのせいで寝坊したという事だ。

「学校に行きなさい」

幸司は布団を引っぺがして楓を無理矢理立たせた。楓はふてくされた顔をして出掛けようとはしなかった。

「いい加減にしろ」

幸司は楓の頭をはたいた。心配で見に来た母親は部屋に飛び込んで来て、

「そんな、叩かなくたって」

と夫をたしなめたが、娘には夫と同じく

「学校に行きなさい」

と命じた。幸司の剣幕に驚いた百々子と藍子も楓の部屋に駆け込んだ。幸司は女達の環視に耐えかねて、

「いいか、絶対に学校に行くんだぞ」

と怒鳴って、乱暴に階段を降りて行った。


 既に通勤着に着替えている百々子はむくれている楓に向かい、

「ねぇいい加減に学校に行きなよ。もううちにはお金がないんだよ」

と訴える。それでも楓が出かけるそぶりを見せないと、厳しい口調になり

「この家にだっていつまで住めるか分からないんだからね!この家は銀行の担保に入っていて、借金を返せなかったら家を銀行に取られちゃうんだよ。お父さんの借金は一億円に膨れ上がっているんだから」

と涙ながらに家の内情をぶちまけた。

「おじいちゃんは家も会社も残してくれたよ。でも借金だってお父さんに継がせたんだからね。お父さんが借金を返せなかったらどうなると思う?私達、住む所がなくなるんだよ。それだけじゃない。借金の取り立てがお母さんに行かないように、お父さんとお母さんは離婚するしか無いんだから!」

「そんな事は言わなくていいから」

母親が百々子を止める。

「私、今度の週末から生徒さんを取る。この家が競売に掛けられたらグランドピアノは処分するしかなくなるもん。今のうちに有効活用させて貰うわよ。楓だって働かなきゃいけなくなるんだよ。でも高校中退じゃどこも雇ってくれないんだからね」

百々子は涙を拭い、壁時計を見上げ、

「あ、会社行かなきゃ。遅刻しちゃう。楓、絶対に学校に行くのよ。今年中に高校を卒業しないとうちのお金がもたないよ」

そう言い捨てて、大急ぎで階段を駆け下りた。

 母親は楓のそばで寄ると優しい口調で、

「お姉ちゃん達が大学に行ったんだから楓も大学や専門学校に行けるよ。そのお金はちゃんと計算して取っといてある。でもね、楓が三年で高校を卒業しないとその先のお金がなくなっちゃうの。遅刻でもいいから今日は学校に行って」

楓は一億円という金額が頭から離れない。不承不承ながらも部屋を出て、洗面所で顔を洗った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ