藍子、志穂を護衛する
次の停車駅で警官が特急列車に乗りこんできた。警官の誘導で藍子と志穂は加害者と共に下車した。シャッター商店街が続く駅前にはすでに警察車両が停まっている。藍子と志穂は同じパトカーに乗った。
「被害者の方はお耳が不自由みたいです」
藍子は警察官に伝えると、警察官は困惑の表情を浮かべる。志穂は藍子と警官のやり取りが分かったのか、自分の携帯電話に
「口の動きで話が分かります」
と打って、その画面を警官に見せた。
「取り調べには手話の出来る者を同席させます」
警察官は志穂に顔を見せながら言い、パトカーを発進させた。
藍子と志穂が警察から解放されたのは午後八時過ぎだった。下車した駅まで警察が二人を送る。志穂は疲れた顔をしていた。
二人は並んで上りの特急に乗る。念のため一緒に帰りたいと藍子が警察を通じて志穂に申し出たのだ。藍子は携帯電話の画面に
「大丈夫ですか?明日はゆっくり出来るんですか?」
と打って志穂に見せた。
「はい、本当にありがとうございます」
と志穂も自分の携帯電話に打ち込み、深々と頭を下げた。
「とんでもない」
藍子は言って、大きなゼスチャーで首を横に振る。
「私は鵜飼藍子と言います」
「熊倉志穂です」
二人は携帯画面を通じて自己紹介をした。志穂は自分の携帯を見せる。
「どうして鵜飼さんはそんなに強いんですか?」
「強くないですよ〜」
藍子は言葉で答え、やはり否定のゼスチャーだ。そして携帯で、
「合気道をやっています」
と打った。
「え、どう読むんですか?」
「あいきどうです。柔道に似ています。私はあんまり強いほうじゃないですよ。でもあの男、無茶苦茶弱かった(爆笑)」
藍子と志穂は声を出して笑った。
「どうやって犯人からナイフを取り上げたんですか?早すぎて見えませんでした」
と志穂。藍子は一度携帯を自分の膝の上に置き、
「技をかけてみて良いですか?」
と言葉で断ってから、上から覆い被せるように志穂の手首を掴み、小指が上になるよう捻った。こうすると指が開いてしまい、物を握り続けることが出来なくなる。藍子は再び携帯電話に
「型さえ覚えたら誰でも出来ます」
と打ち込んだ。
「へー私にも出来るかしら?」
「出来ると思いますよ。女性だって老人だって有段者になっています」
「鵜飼さんは何段なんですか?」
「二段」
藍子の返答に志穂は目を見開く。
「だから誰でも出来るものなんですって」
藍子は声に出して言う。
「鵜飼さんは学生なんですか?」
志穂が携帯画面にそう打ち込んだ。
「はい、大学二年です」
「私は専門学校二年です」
「え、同い年かな」
藍子が言うと、志穂は微笑みながら頷いた。
二人が携帯画面を通じてやり取りしているうちに、特急は上野駅に近づいた。
「もし良かったら連絡先を交換しませんか?」
藍子は携帯電話を差し出しつつ言うと、志穂は頷いた。二人はその場でメールアドレスを交換する。
上野駅には志穂の両親が迎えに来ていた。二人は藍子の姿を認めると深く腰を折って頭を下げた。




