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【二章】大人の言うことは基本的に聞きたくない




うーむ、今のは俺が敏感になり過ぎてたかな・・・。

でも、悪意の云々置いといて「可哀想」を連発されたんじゃ、こっちも気分良くないし。

そもそも、本当に可哀想か?俺達って。

頭を抱えてうーん、うーんと考え込む俺に、ミールとニケも頭を捻って可笑しそうに鳴いた。

「・・・まぁいっか、どうでも。どうせ短期間だけの人だし・・・、皆もそんなに気にしないかもなぁ」

「カァー」

「ホッホ」

俺を慰めているのか、ミールもニケも頭を俺の手に擦り付けて甘えてくる。


可愛っ!!


ひとしきり癒されてから、再度魔法の訓練を行うことにした。

鞭の次は剣を創造してみる。

鞭よりも剣の方がかっこいいし、男の浪漫だから、さ。

しかし、自分の体型を考慮するとロングソードどころか、ショートソードも扱えない。腰に引き下げるとしたら、刃先が地面を引っ掻いてしまうのは想像に難くない。ラヴィーナ程に身長があれば問題無いのかもしれないが、如何せんまだ6歳だ。

身長に関しては、今後の成長に期待、と言ったところです!!

だとすると、ナイフのように小型な物をイメージすると良いかもしれない。

片刃で先端に向かって細く、取り落としにくいように持ち手から輪を造る。


「・・・・・・出来ちゃったよ」


魔法がこんなに簡単で良いのだろうか。

水で出来ているがしっかりと持てるし、そこかしこに生えている草を試しに刈ることも出来た。

威力を確認することに集中し過ぎたせいか、裏庭の雑草は殆ど無くなってしまった。

決して、草刈りが楽しかった訳じゃないったら無い。

魔法を解くと、俺特製の剣は瞬時に消滅した。


「思うに、鞭ならまだしも、剣は殺傷能力もあるからまだ勝手に使わない方が良いかもしれないなぁ・・・。訓練するならウル爺との方が安全かな。怒られそうだし」


そうだ、暇つぶしに剣にも名前を付けよう。

そうしたら俺の武器!っていう感じがもてる。


・・・・・・・・・・・・・・・。


草薙(くさなぎ)かな・・・いや、草刈機も捨て難いけど・・・っっ、安直過ぎるか!?どう思う二人とも!?人じゃないけどっっ」

俺の投げかけに、ニケが阿呆らしいとばかりに「カァ」と力なく鳴くと、地面から飛び立って木の枝に止まった。

俺からは完全に離れていないその距離感、心にくるものがあるぜ、ニケさん・・・。

ミールは刈られた雑草をハミハミして聞いてすらいなかった。

ミールは別にいいよ、聞いてない気がしてたもん。

君はそんな奴さ!!


草でも食ってろ。


その後なんやかんやと1人で騒いで、剣は草薙(仮)(くさなぎかっこかり)、鞭はドM製造機に命名した。


良い仕事をした。明日にはこの名前も忘れてるかもしれない。

どうでも良すぎて。


「なにしてるの?」


「は?」


俺が満足気にドM製造機を振るっていると、子供の舌足らずな声に驚いた。

降って湧いた聞き慣れぬ声に、きょろきょろと辺りを見渡すも、それらしい人物がいない。

バサバサと羽音を立ててミールとニケが飛び立った。

「あ、おい・・・!」

突然帰るとは無情な奴らだと、ぷりぷり怒ったフリをしつつ、人を探すがやはり見つからない。

聞き間違いか?と地面に座り直す。

しかし、「こっちこっち」と更に言葉をかけられる。声に導かれるままに進めば、木塀の向こう側、建物の外に男の子が立っていた。

板と板の隙間から見える姿は、幼げで蜂蜜を思わせる濃い髪色だ。反して、肌は白く透き通っている。黒い服に身を包んでいることもあり、肌色がより際立っている。身なりは質素で同じく平民だと判断できたが、この辺りで見掛けた覚えがない。


「俺、アルレルト。ここに住んでるんだけど、君の名前は?」


「んー、みんな、ぼうってよぶよ」


ふるふると首を横に振る子供特有のあどけない姿に、口元が綻ぶ。

「ーーぼう・・・ボウ・・・坊?かな・・・。坊は名前じゃないけど」

「みんなぼうってよんでる」

「うーん?・・・じゃあ、俺も坊って呼ぶな?」

そんなに名前を教えたくないのかな?

でも、単にまだ名前を覚えきれていないのかも。

俺よりも2つ3つ幼い子供だと考えると、後者の可能性が高い。


「で、坊はどしたの?何かここに用があったのか?」


坊は、「んっとね、あのね」とまごまごと口の中で意味の無い言葉を繰り返す。その様子がもう本当にめっちゃくちゃ可愛くて俺の庇護欲を掻き立てた。

俺の鼻の下は、確実に5cmは伸びたね。

言葉が出るまで待っていると、坊は大きな瞳を向けて「あそんで?」と可愛いお願いをしてきた。


「はぁー、何それ可愛っ!そんなん遊ぶ一択じゃん!!策士かよぉ」


首をこてんと横に傾げて、坊は見悶える俺を不思議そうに見ていた。

はっ、いかんいかん。

年上としてしっかりせねば。

「ごほん。・・・・・・あー・・・、いいよ遊ぼう。でも、今は俺外に出られないからさ、ここで簡単なことしか出来ないけど、いいか?」

下手な咳をしてきまり悪く条件を付け足す。

坊は嬉しそうに何度も首肯して、アルメリアの澄んだ海に似通った目を期待でキラキラと輝かせた。

「ならジャンケンかー」

外出禁止令が出ているのだから、無闇に坊を孤児院へ迎える訳にもいかない。

それならば、塀を挟んだ状況で遊べることをするしかないのだ。

坊の小さな顔が塀の隙間から半分くらい見えるし、手遊びくらいならば支障なく行えるだろう。

「じゃんけん・・・?したこと、ない・・・・・・」

ところが、やっとことがないと眉を下げて坊は俯く。

あからさまにしょんぼりする坊がまた可愛い。

「いいんだよ、いいんだよ〜!お兄たん教えるから!!簡単だよぉ〜〜」


あぁ〜〜、鼻の下がもっと伸びちゃう〜〜。


グーを出す俺に対して、チョキで「勝った」とはしゃいでいた坊だが、その都度訂正を重ねると直ぐに覚えてしまった。


勘違いしてきまり悪そうにする顔も可愛いねぇ。


でも、はしゃぐ坊も可愛いぞぉ、えへへ。


子供というのは単純なもので、簡単なジャンケンですら勝利すると興奮状態に陥り物事が見えなくなる。

要するに、気持ちが昂った坊を相手に「まあまあ、落ち着けよ」と抑える役をするはずが、相手につられて俺も熱中してしまった。

ていうか、坊がマジで可愛いからなんか変にテンションが上がったせいでもある。こんな弟欲しいよぉ!!

勝負の後には、顔を真っ赤にして肩で息をする俺達がいた。


「はぁっはぁ・・・っっ、一旦、休憩・・・しよう!」


「・・・うん」


額から吹き出る汗を袖で乱暴に拭い、塀に寄りかかる。反対側で坊も、俺に合わせるように塀に背中を預けた。

塀越しではあるが、坊の高い体温が感じられた。

お互いが無言で息を整える。

酸素を口一杯に取り込みながら、視線を空へと移す。ぼぅっと千々に浮く雲をなんとはなしに眺めていたが、ある事に気づき、俺は背後を振り返った。

板を貼り合わせた塀の隙間から、坊の火照った頬が垣間見えた。俺が突然振り返ったことで、坊は体を強ばらせて俺に目を向けた。


「なあなあ、院長から病気が流行ってるって聞いたんだけど、坊は家に居なくていいの?親に怒られない?」


坊はきょとんとしている。

「なあに?それ?」

何を言われているのか分からないようだ。

この反応は流石に予想していなくて、俺はしばしどういうことかと頭を捻った。

初めから違和感はあった。

最後に見た街は、人々の笑い声と明るい雰囲気に包まれていた。

そこには、病気の流行で沈んだ気配は流れておらず、人々は陽気に街を闊歩していた。


院長に聞いてみたいところだが、あいにく彼女はこの施設にいない。

外出禁止令を出すと同時に「皆を治してくるわね」と言って、ここの管理をデルナと子供達の相手をラヴィーナ達に任せて出掛けてしまった。

普段の院長を見ていると忘れがちだが、最上級属性の「光」属性を持つ人間である。

以前に、マリーナの怪我を治癒魔法で治していたことがあったが、基本的に院長は「怪我や病気は自然に治せ」派だ。

言い換える必要は無いが、敢えてするなら「唾つけときゃ治る」派である。

時たま、住民からの依頼で治療に出掛けることもあったが、普段から院長はあまり治癒魔法を使わない。

思い返すと、マリーナの時は特別であったと言える。

それだけ院長が心配していたということでもあるが・・・。

俺がマリーナのように怪我をしていても、消毒程度できっと治癒魔法の一つもかけてはくれなかっただろう。

その院長が治す為に街へ出ると言ったので、てっきり国か、領主かから命令が下されたのかと思っていた。

しかし、坊は病気のことを知らないみたいだ。

院長が嘘をついているのか、若しくは、本当に病気が流行しているけど、それを気にせず坊が家から抜け出してきたのか、判断がつかない。

どちらの可能性も否定しきれず、俺は頭をかいた。


なんにせよ、坊にはもう帰ってもらった方が良いだろう。


「坊、もう帰ったほうがいいと思う。多分、お父さんやお母さん、心配してるんじゃないか?」

「えぇ〜、やだあ。アルといっしょにいる」


あ〜ん、可愛いよぉ!!


でも、俺は心を鬼にするしかないのだ。

「可愛く駄々こねたってダメなもんはダメ。もし、大丈夫なら、また明日も遊んでやるから。ほら、今日はもう帰んな」

しっしっと犬を追い払う仕草をすると、坊はとてもしょんぼりして走り去った。


ごめんよぉ、ごめんよぉ、坊。不器用でかっこいい俺を許してくれ・・・。


心で血涙を流していると、坊が途中で足を止める。そして、「またあした、やくそくね!」と叫んで駆けて行った。

俺の心は完全に坊に持ってかれた。


好きぴ!ばいばい!!


俺は手を振りながら、その小さな背中が建物の影に隠れ見えなくなるまで見送った。






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