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【二章】恐怖を払って、明日また笑っていたい




シリアスの突然の告白に、ティアラも、私も、目をぱちぱちと瞬かせた。この家に来るまでの経緯を思い出すと、彼が争いごとを好まない性格なのは把握していた。

シリアスは困ったように照れ笑いを浮かべながら、言葉を選んで話し続ける。

「今回のことだって、狡猾な魔物が人間を殺したと聞いて、心底震えました。人化ができるなら、私の家族に、友人に、同僚に、街の人々に成りすますかもしれない。私の家族が殺されるかもしれないと考えただけで・・・、見て下さい。ほら、手の震えが止まらない」

そう言って、私達に掌を見せる。

ソレは確かに、微かに震えていた。

「でも、私は街長(町長)ですから、皆を私のやり方で守らないといけないんです。最終的には、領主様の指示でギルドや憲兵隊達と協力していかないといけないでしょう。・・・・・・でも、領主様は失礼ながらご高齢の貴方達へ、助力を要請するという判断を下さないかもしれない。その可能性が高い。・・・・・・それでも私達は、『聖女』と未だ衰えをみせないベルナードさん、お二人の力をお借りしたい。私は少しでも、被害を抑えられる勝ち筋を選びたい」

「命令なんて糞みたいなものじゃない。ギルドマスターと街長(町長)からのお願い・・・って、奴です」

ユーリスはテーブルにガン!と衝撃音をたてて頭を下げた。見間違いでなければ、テーブルに亀裂が入っている。

チェカの抑えられた悲鳴と、シリアスが横で「怒られる・・・」と顔を白くさせ、一室は軽いパニック状態となった。

ユーリスはそれらの騒ぎをまるっと無視して、私達に懇願した。

「とっくに引退して老後を穏やかに迎えてるアンタらに頼むのは申し訳ねぇ!自分達の不甲斐なさに腹が立つ!!だけど、さっき一戦交えた時に、やはり『紅蓮』は未だ健在だと実感した!!!子供達の面倒を見るのに忙しいとは思うが、『聖女』として前線で駆使した治癒魔法は、きっと必要になる!!!どうか力を貸してくれ、この通りだ!!」

ユーリスの奇行に呆れて、ティアラと私は苦笑した。

しかし、こうも歳だ歳だと言われると言葉にしようがない気持ちになるのは何故だろうか。

70過ぎてまだ若い、全盛期のように動けるとは豪語できないが、若者に頼られるのも悪くない、と思える。

「・・・・・・協力といっても、流石に私達にもそれぞれ仕事があるわ。それを放って魔物退治に加わるのは、難しいと思うのよ」

ティアラとしては、己のことよりも子供の方が優先されるだろう。孤児院を疎かにするくらいならば、彼女はそもそも協力をすると言わない。

その証拠に、彼女は笑いながらも器用に難しい顔をして、シリアスの返答を待っている。

「協力と言っても、なにも街を離れて魔物退治に加わって欲しい、という訳では無いのです。この街に魔物が侵入した時、一緒に市民を守って欲しいんです。勿論、その時には、孤児院や、牧場の方へ必要な人員を回しますので」

「なんなら、明日からでも手練の冒険者を3名、孤児院へ配置するぜ」

シリアスの弁にのる形でユーリスが提案する。

「5名」

「は?」

「もしもの時に、3名だけでは子供を守りきれないから、せめて5名つけてくれるのなら、喜んで協力させてもらうわ」

ニコニコと微笑んで提案しているが、押しても引かない強い意志をみせる相手に、ユーリスは焦っていた。

「いやいや、院長!!勘弁してくれよ、有事に5人もの冒険者はやれねぇよ。戦力は多いに越したことはないんだ」

ユーリスの言っていることは尤もだが、ティアラのことをよく理解していない。

ここで言い合っていても、折れる気の無い彼女相手では、妥協しないと終わりがみえないというのに、必死に抵抗している。

ティアラにとって守るべきものは、子供達であり、それを蔑ろになどできる筈がない。

彼女の城のーー家族だ。市民より子供達が優先されるのは当然と言えた。

それに、手札を隠す相手の協力を素直に受け入れる程、私達はもう若くないのだ。

「ならば、私が孤児院を守ろう。そうすれば、5人の冒険者を魔物の方へ回せるだろう」

シリアス達の思惑から外れた本末転倒な提案をしてみる。

夜中にこれ以上騒いでは近隣の迷惑になるだろうという、私なりの配慮だ。

「あらあらそれが1番いいわねぇ。5人の冒険者より、ウィルの方が断然強いものねぇ。・・・・・・あら?だったらもう協力する必要はないみたい。うふふ、なら話し合いはもう終わりでいいかしら?」

カタリと席を立ち「お茶、ご馳走様でした」と言って、さっさと帰ろうとする彼女をチェカとユーリスが慌てて引き留める。

ティアラとしては、さっさと孤児院に帰って防御を固めたいのだろう。

『聖女』の過去もなんのその、「もう眠いの、年寄りはもう寝る時間なの」と嘘を吐き捨て、この場を抜け出そうとする始末だ。

「無礼な上司ですみません聖女様!!お許しください!せめて帰る前に握手して下さい!!!昔からの憧れだったんです!!!!」

「だあぁぁ!!チェカ、テメーはどっちの味方なんだ!院長さん、頼む、そう言わんで話しを聞いてくれ」

ギャアギャアと喚く二人に、シリアスが降参だと両手を上げて終止符を打った。

「分かりました、院長先生。貴女の大切な子供達は、手厚く保護させてください。ギルドから3名、そして私の所からも3名出します。出ておいで、みんな」

シリアスの呼びかけに、出入口から老若男女入り交じった十数名が足を踏み入れた。

取り囲む気かと眼光鋭く睨み上げると、瞬時に顔色を変えて彼等はさっさと壁1列に整列する。

敵意が無いと判断して視線をシリアスへ戻す。

この建物へ入ってから、至る所で視線を感じていた。敵意を感じなかったのでほうっておいたが、やはりシリアスの子飼いであったようだ。

「やはりお前の仲間だったか」

「あれ?お気付きでしたか」

悪びれもなくそう言ってとぼける男は、己を弱者と(うそぶ)いている。

「・・・・・・あまり、年寄りを甘く見るな」

「ははは、甘く見ていないからこそ、私にとって安全な場所で話したかったんですけどね。私、元々商人として働いていて、結構、顔も広いんですよ。商売も中々上手くいって、こうして個人的に用心棒を雇うくらいには、(ふところ)も温かいんです。彼等にはこの建物に住んで、警護にあたってもらっています。とても腕が良いし、信頼もできる。子供を守るのにも差し支えないかと。これならどうでしょうか、院長先生」

街長(町長)にしては質素な住まいだと感じていたが、この建物を買い上げた上で、守りを固めていたのか。

怖がりが過ぎると呆れを覚えたが、商人としても成り上がっていたとなれば、金に目が眩んだ強盗の類いへの対策でもあったのだろう。

「と、いうことだ。ティアラ、あまり若者を虐めてやるな」

完全に手札を晒した相手にこれ以上、不義理を通すわけにもいかないと溜息をつく。

「・・・・・・それもそうねぇ。街長(町長)さんとギルドマスターさんがここまでしてくれるというなら、私も頑張ろうかしら?」

一転して言動を翻すティアラに、彼女の腰にしがみつくチェカとユーリスは、まじまじと彼女を見つめて真偽をはかっている。

この二人、仲が悪いように思えるが、行動が基本的に似ている。

チェカは、ティアラに握手と「これから宜しくしてちょうだいね」という言葉をもらい、無言で喜びを噛み締めていた。

憧れの対象とはいえ、チェカの常にない残念な姿にユーリスは若干引いた目で腹心の部下と距離を置いている。

「いや・・・うんまぁ、協力してもらえるなら、俺は良かった。うん・・・・・・」

熊面を歪めて言葉少なく語る姿は、どこか哀愁が漂っている。

シリアスといえば、もう一連のやり取りを見て笑うしかない。

落ち込む熊に笑う眼鏡、無言で歓喜にうち震えるファン、それらを眺めて遊ぶ聖女とくれば、カオス過ぎてもう場の収拾の付けようがない。

「はは・・・、もうなんなんでしょうねぇ。こっちは真面目に交渉していただけなんですが。・・・・・・ーーそういえば、ベルナードさんの所にも、人をやった方がいいですか?」

笑い疲れたシリアスが目尻の涙を指で払い、思い出したように確認する。

彼の中で、私が協力をすることは既に確定事項のようだ。

それ自体は間違いではなかったので、こちらとしても異論は無い。

元々、物欲は低い性だったが歳をとるにつれて更に拍車がかかっている気がする。牧場の方にわざわざ護衛を付けるほど、執着を抱いているわけでも、優先順位の上位にあるわけでもない。

少しばかり思案して、頭を悩ませていた問題を彼等に任せることに決めた。

「彼女の孤児院に、街の古着でもいいから子供服を回してやって欲しい。これを叶えてくれるのなら、私は協力を惜しまない」

予想外の答えだったらしく、シリアスは口を半開きにした間抜けな表情で「孤児院に・・・服?」と呟いている。

ティアラの視線が背中に刺さり、居心地が悪いばかりで明後日の方向を向いて言い訳を吐き捨てた。

「1人、個人的に訓練をつけている子供がいてな。訓練時に服がボロボロになる。今日も服について文句をたれてきた。鬱陶しいことこの上ない。街長(町長)のお前なら、こんなこと朝飯前だろう」

「えぇ・・・、服がボロボロになるほどの過酷な訓練って・・・。子供相手に厳しすぎませんか!?何ですか、戦闘狂でも造ってるんですか!?・・・・・・あ、やだ怖いごめんなさい。私は街長(町長)なので服の一つや二つ手配するのなんて朝飯前ですよ、勿論!!・・・・・・だからお願いします、殺気を飛ばさないでください、足の震えが凄い」

産まれたての子鹿よりも震えて儚い彼らを置いて、ティアラの背を押してこの場からたち去った。夜も更ける時間に、浮かれた奴らの相手をするのも面倒だ。


「貴方って本当に素直じゃないわよねぇ」


おかしそうに笑う彼女を尻目に、私は歩みを速めた。それが余計に彼女の笑いを誘引するとは、思いもよらず。

久しぶりの再会は、どうにも居心地の悪いものとなった。






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