猫と地図
「いらっしゃ~い。饅頭はいかが?」
「……」
如月が饅頭を売っている。ただ、着ている服は、なぜかバニーガールだ。
「饅頭、買って」
「買います!」
男性客が鼻の下を伸ばして饅頭を買っているのを見て、呆れていると、
「今から、全員が買った饅頭の個数が千個超えたら、ここに居る全員にボクの胸、好きにしていいよ」
如月は恥じらうようなそぶりは無く、何事も無いように笑って言った。
「十個買った‼」
「こっちは百個だ‼」
「はいはい。まいど」
饅頭は飛ぶように売れているが……それよりも、
「如月、なんしょん?」
「猫ちゃん。見たら分かるだろ、饅頭売っているって事ぐらい」
「饅頭? いや、どう見ても、いかがわしい事の間違いだろ」
男性客の表情は饅頭を買うのではなく、違う店の顔だ。例えるなら、エリンギが好きな店の様な……。
「いいじゃない。人助けよ」
「人助けねえ」
「それより、猫ちゃん。饅頭買わない? 楽しいわよ」
「買わねえよ。饅頭より!」
「何かあるの?」
「実は、かくかくしかじかで——」
数珠丸恒次が盗まれた事を如月に説明した。
「あーら。そんな事があったの」
「それで、イルカ見かけなかったか? イルカ型のタイムマシン」
取りあえず、如月にも聞いてみる事にした。もしかしたら、何か知っているかもしれないと思ったが、
「そうねえ……カブトムシなら、見た事あるわよ」
「何だよ! カブトムシじゃなくてイルカだよ‼ イ・ル・カ‼」
「冗談だよ。イルカのタイムマシンなんて見ていないわ」
見ていないのか。
「そうか。じゃあ、何か分かったら教えてくれ」
「そう。分かったら、でいい」
「じゃあ、またなー! 如月」
饅頭屋で怪しげな事をしている如月と別れ、また情報を探しに出かけた。
そして夜、オレの部屋で八郎とエリンギが集まった。
「まず、オレからだ。町中、聞いてみたが、知らないみたいだ」
「猫丸は収穫無しか」
「それで、八郎。何か分かったか?」
八郎は落胆して、
「猫丸、何も分からなかった」
「そっか」
「今の所、他の大名も情報はつかめていない様だ。えりんぎは?」
エリンギはアクビをして、
「雌猫に聞いたが、分からん。野郎には聞いていない」
「何だよ‼ エリンギ‼ オスにも聞け‼ オスにも‼」
オレがエリンギを揺さぶっていると、八郎はため息をつき、
「猫丸、明日は二人と一匹で大坂の外に出るぞ。そうしないと、見つからないかもしれない」
「そうだな」
「楽しみだな。明日もガールハントだ‼」
エリンギの目が輝いている。
「エリンギ、違うぞ」
オレが呆れて、エリンギにツッコミを入れると、
「猫ちゃん! 元気?」
「「うわっ⁉」」「ふにゃ‼」
上から、如月が飛び降りてやって来た。ただし、服はバニーガールではなく、露出度の高い普段着だ。
「如月、何だよ。急に?」
「猫ちゃん。実はね……聞いたの」
人差し指を唇に当て、セクシーに如月が擦り寄って来た。
「聞いたって?」
「イルカ型のタイムマシンだよ。はい! 地図」
如月はオレに紙を手渡し、去ろうとする前に、
「如月! 何で分かったん?」
「ああ、客に聞いたんだ。そしたら、その事を知っているヤツが居てね。それで、更にサービスして、教えてもらったって訳さ」
「サービス……」
聞くのは、やめよう。
「あら、してほしい?」
「絶対に嫌です」
オレが露骨に嫌がっているが、八郎は真面目な顔で如月に、
「如月。何故、知ったのかは分かった。だが、如月なら、一番に小西殿に話すだろう。何故、猫丸に教えるのだ?」
——そうだ。
確かに、イルカ型のタイムマシンは聞いた。だが、如月なら弥九郎さんに、それを教えてもいいと思うのだが……。
「弥九郎様には、数珠丸恒次の場所が分かったわ……って、言ったの。その代わり、報酬として、ボクに濃厚な一夜を……欲しがると、『それやったら、いらんわ‼ ボケ‼』ってキレて追い出されたのよ。それで、ボクに見つけたら教えてくれと、言った猫ちゃんに教えただけさ」
「そうか。それで猫丸に」
八郎が感心していると、
「それじゃあね。猫ちゃん」
ウインクをした如月は飛び上がって、何処かに消えた。
こうして、オレ達だけになり地図を見ると、
「森の中に隠れているのか」
「これは見つかりにくいな」
「八郎。どうする?」
場所が分かったので、八郎に聞くと、
「そうだな。探しに行くか」
「今から⁉ もう夜だぞ⁉」
八郎は真剣な表情で、
「夜でも探しに行かなければ、連中がいなくなってしまうかもしれない」
「……その可能性はあるな」
今は恐らく、如月の地図通りかもしれないが、朝になったら、連中のイルカ型のタイムマシンが居なくなっている可能性がある。
「今からか……女か雌猫はいないか」
真剣な八郎に対して、エリンギは眠そうな目だが、顔にはスケベ感が出ている。
「エリンギ! それより、数珠丸恒次‼」
「ふにゃ~あぁ」
「猫丸、今から準備をするぞ」
八郎は部屋を出て行った。
「ああ、分かった! エリンギもだぞ」
「……はあ。分かった」




