表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備前宰相の猫・二巻  作者: 山田忍
22/30

猫と太刀

 ある日、

「猫丸、大変な事になったぞ」

「どしたん? 八郎?」

「実は大坂城で皆が集められたのだ。

 全ての大名達が集まると父上が来て、

『皆を集めたのは、他でもない。余は忍びから、ある噂を聞いたのだ』

『ある噂?』

『久遠寺で数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)が盗まれたのじゃ』

『何いいいいいぃぃぃぃぃ⁉』

 周りは冷静だったが、加藤殿だけ動揺していた。

『虎之助、落ち着け。そこで、余が考えたのは……数珠丸恒次を手に入れてしまおうかと』

『数珠丸恒次を手に入れるのですか?』

 石田殿が冷静に聞くと、父上は笑って、

『そうじゃ。数珠丸恒次を余の元に持ってくる事が出来るのならば、この義元左文字(よしもとさもんじ)……と薬研藤四郎(やげんとうしろう)をやろう』

『おおおおお‼ 上様の刀‼』

 蒲生殿が大喜びしていたが、父上は加藤殿に向かって、

『ちなみに虎之助、お主が数珠丸恒次を手に入れたのならば、そのまま、お主の物にしてもいいぞ』

『えっ⁉』

 加藤殿の声には、嬉しさと動揺が含まれていたな。

『さあ、八郎以外は皆、外に出るのじゃ!』

 こうして皆が出て、私だけが残されたのだ。

 私と父上だけになると、父上は真剣な口調で、

『八郎よ。実は盗んだ賊と言うのは、イルカの中に入ったと言うのだ』

『イルカですか⁉』

『そうじゃ、イルカなのじゃ』

 父上は嬉しそうに笑っていた。

『もしかしたら、以前、三日月宗近を盗んだ二人かもしれぬ。それならば、また見事な名刀が手に入るかもしれん』

『……と、言う事はもし、奴等が刀を手に入れているのなら、それを奪ってこいと?』

『名刀かどうかは孫七郎に見せる。八郎達は気にせず、全て奪ってくるのじゃ!』

『はっ!』

『…………』

 顔を見上げ、父上の目を見ると鋭くなっていた。

『ち、父上?』

『八郎。猫達にも言うのじゃ。絶対に折ってはならぬぞ』

『しょ、承知しました』

 数ある大名の中で我々に期待されたのだ」

「また、ヤツらから刀を奪ってこい、って事だろ」

「そうだ。またイルカを見つける事だ」

「分かったけど、何で、虎之助さんは動揺しているんだ?」

「それは、久遠寺は日蓮宗の総本山なのだ」

「日蓮宗⁉ 日蓮宗って言えば、虎之助さんが熱心に信仰している宗教やないか‼」

「そうだ。数珠丸恒次と言うのは、日蓮宗の開祖である日蓮上人の破邪顕正(はじゃけんしょう)(けん)と言われる太刀なのだ」

「そんなすごい太刀なら、確かに悩むな」

「くくく……これを売ったら……」

 エリンギの顔が悪人面風の表情になっている。

「……エリンギ。まず、猫のお前じゃ持ち逃げされるのがオチだぞ」

「バカ猫‼ 持ち逃げされるか‼」

 エリンギが見た目通り(よこしま)な事を考えていると、八郎が、

「猫丸はどうする? 数珠丸恒次はどうするべきだ?」

「オレだけなら、返すべきやけど……八郎、八郎がやりたい様にしたらいいさ」

「そうか。では、その様にしよう」

 八郎は嬉しそうに笑って、オレを見つめた。

「ああ。じゃあ、オレ達で探しに行くか?」

「そうだな。聞いてみる事にしよう」

「俺は雌猫に聞いてくる」

 と言ったエリンギの表情はスケベオヤジになっている。

「エリンギ、ナンパするなよ」

「何ぃ⁉ 可愛い雌猫に声かけようと思っていたのに!」

「ナンパじゃなく、ちゃんと聞けよ!」

「ふん」

 エリンギが不機嫌そうに出て行くと、オレも、

「じゃ、八郎。オレも聞いてくる」

「頼んだぞ。猫丸」

 出て行き大坂の町に飛び出した。

「う~ん。聞き込みより……」

 まず、あの人の屋敷に行ってみよう。

「虎之助さん。います?」

「おお! 猫か。どうした?」

 虎之助さんが上機嫌でオレを迎えてくれたので、あの事を聞いてみる事にした。

「虎之助さん。数珠丸恒次の事ですが——」

「ああ、数珠丸恒次か? 宇喜多殿から聞いたのかぁ?」

「はい。大まかな事は」

「で、俺に聞きたい事は何だ?」

「虎之助さんは、数珠丸恒次をどうするのですか?」

 虎之助さんは困った表情になり、

「……そうだな。確かに悩む所だ」

「悩みますか?」

 虎之助さんは顎に手を当て、少し考えてから、

「返すべきか。手元に置くか。手に入れてから考えるさ」

「手に入れてからですか。……もし、オレ達が手に入れたら?」

「それなら、猫達で考えろ。俺は、あの馬鹿が手に入れなければいい」

「あー。そうですかー」

 オレ達が手に入れてもいいんだ。

「まあ、上様の命令だ。皆、探しているのは同じだ。誰が最初に一番に見つけるか、と言う話だ」

「そうですね。オレ達も探している身ですからね。ありがとうございました!」

「俺の事は気にするな。先に見つけたら見つけただけの事だ!」

「はい!」

 虎之助さんの屋敷を出て、町中を散策した。

「んーと、誰に聞こうかなー?」

 誰に聞こうか考えていると、

「饅頭いらんかなー! 美味い饅頭やでー!」

「あー」

 いつの間にか、顔を隠して威勢のいい声で饅頭を売る饅頭屋のお姉さん(ちなみに素顔は美人)の店の目の前に来たようだ。饅頭の味は絶品やけど、あのお姉さん、タダで饅頭を食わせて代金の代わりに、オレやエリンギをタダ働きさせるからな。

 時々、報酬に饅頭をくれる事もあるけど……。

「でも……」

 いつも賑わっているが、今日の饅頭屋には更に沢山の人の山になっている。

「何があったんや?」

 不思議に思って、人込みをかき分け、饅頭屋を覗いて見ると、

「あっ⁉」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ