猫と結果
——ニャンパンチは命中した…………石治部さんに。
「ふ、ふぎゃあああああ(何故だあああああ)‼」
「い、石田殿……何故?」
石治部さんは、何となく嬉しそうに、
「ね、猫が飛んで来たから……つい、向かってしまった」
そんな石治部さんの頬には、くっきりとエリンギの肉球の痕が付いていた。
「何で向かう必要があるんや?」
「いや……何となくだ。それより……」
「それより?」
「ふにゃ! ふにゃ!」
エリンギが弥九郎さんの足にニャンパンチやニャンキックをしているが、弥九郎さんは何とも感じていない様だ。
「えりんぎ、やめないか」
八郎が屈んで、エリンギを捕まえ、弥九郎さんから引きはがした。
「ふにゃああ!」
が、それでも、八郎の腕の中でエリンギは暴れている。
「えりんぎ、どうしたのだ? こんなに暴れて」
「いや……その……」
オレがどうやって、はぐらかそうと考えていると、
「坊ちゃま。ご無礼を……」
弥九郎さんがエリンギを抱きかかえた。
「ふぎゃ! ふぎゃ!」
「ヒソヒソ……」
何か小声で話しかけると、エリンギを地面に放した。
「坊ちゃま、出仕やろ。早よ、いかんと」
「ああ、そうだな。猫丸も行かないのか?」
「じゃあ、行くよ」
「……ふにゃ」
エリンギは走り去り、町の方に向かった。
「ああっ‼ えりんぎちゃ——いや、何でもない!」
石治部さんは、顔を赤らめて極楽橋の方に向かった。
その夜、
「くそぉ! 女男め‼ 邪魔しやがって‼」
「エリンギ、諦めろよ。体格とかかんがえたら、勝てないって」
「そうだ。小西殿の方がえりんぎより大きい。猫が叩いたぐらいでは、何とも思わないだろう」
エリンギはシャドーボクシングをしながら、オレ達を睨み、
「バカ猫! ボンボン! 俺のパンチは痛いんだぞ! その辺の雄猫なら瞬殺だぞ!」
「雄猫では、時以外、戦働きの役に立たないな」
八郎も呆れ果て、少し笑ったような顔になっている。
「雄猫と弥九郎さんを一緒にしたら、如月がキレるぞ。……それより、エリンギ」
「何だ」
「弥九郎さん、小声で何言いよった? 分かるか?」
オレの言葉を聞いたエリンギは、視線をそらし、
「……エンリケ様、色男や。だ」
エリンギは何処かに行ってしまった。
「いや、それは無いだろ」
「えんりけ? えりんぎの間違いではないか?」
ああ、本名エンリケか。……エリンギでいいや。
「それでは、私は寝るぞ。猫丸も寝るべきだろう」
「ああ。そうだな」
八郎は部屋を出て行った。
こうして、一人になったオレは、
「寝るか」
エリンギを気にせずに寝た。