パレス
少し申し訳ない気持ちで、荒廃した市内を連れ立って歩く。
意外にもシュレムの方から、僕に喋りかけてきた。
「あなた、この前……この前と言っても二日前からだけど、無礼な事をしてごめんなさい。私達の故郷、あこがれの地球から来た人とは思わなかったのよ」
「いや、こちらこそ手荒なマネをしてすまなかったと思っている」
この娘、強気な一面しか見てこなかったが、落ち着いて話すと明朗快活で印象もいいな。
僕の横を歩くスケさんがシュレムに向かって言った。
「……オカダ君一人だけだったから、分からないのも無理ないわ」
シュレムはまだ、口をきくジャガーであるスケさんの存在が怖いらしい……ネコ科の大型肉食獣は図鑑や記録映像でしか見た事がないだろうが、アニマロイドの本物を見るのも初めてだろう。
一方カクさんは歩きながら、さりげなく静かにシュレムの背後に回った。
まさか……ね。
だがカクさんは、やってしまった。
シュレムが前を向いて歩いている隙を狙って、ひらひらしている白衣のスカートの後ろから中に頭を突っ込んだ。
本当に、すごい早業だった。
そして薄手のショーツをはいている彼女のお尻の匂いをクンクンと嗅いだ。
「ギャ――――――ッ!!」
街ゆく人、全てが振り返るような悲鳴が上がる。
シュレムは、バレーボール選手がスパイクを打つようなフォームとスピードで、カクさんの頭蓋骨をアタックした。
「ぐげっ!」
これにはカクさんもたまらず、ふらつきながらノックダウンしたのだ。
「いきなり何するのよ! このスケベ犬!」
シュレムは、スカートの後ろを両手で押さえながら、鬼のような表情でカクさんに詰め寄った。
「い、いえ……犬の世界では相手のお尻の匂いを嗅ぐ事が挨拶なのですが……」
カクさんは鼻血を抑えながら涙目で小動物のように震えた。
「何だ、そうだったの……早く言ってよ。いきなり殴ったりしてごめんね……」
シュレムはてきぱきと看護師らしく鼻血の処置を始めた。
オイ、お前……犬じゃなくてオオカミだろうがよ……。




