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理想と本心

「もう笑っちゃうでしょ?」

ナーヴァはコロコロと笑う。

藤の道を過ぎたあと、目の前に現れたのは一見すると真っ白で大きな箱。

夢芽の第一印象はデカい豆腐。

実際は兵器をおさめた巨大な倉庫だった。


ナーヴァが触れると、何もなかった表面から入り口が開く。ドアではなく、まるで口のようにポッカリと開いた入り口をくぐれば、そこには見たこともないような形、丸やら四角やら三角の、さながらオブジェのようなものが並んでいた。


ナーヴァはそれらに囲まれた中心部にレジャーシートのようなものを敷いて座り、お菓子とお茶を並べ、座るように促した夢芽とおしゃべりを始めた。


おしゃべり、といっても、ナーヴァが一方的に話しているだけではあった。

内容はこの前食べたおかしが不味かったとか、態度の悪い店員にひと言言ってやった話とか、どう聞いても重要性の低いものであり、どのように使うのか分からないとは言え、兵器に囲まれながら聞くにはかなり違和感を感じてしまう状況だった。


「あのー、私にお願いがあるとか、そんなこと言ってませんでしたっけ」


ナーヴァは夢芽の言葉に、子供のように頬を膨らませて答える。

「だぁーーって、あなたあんまり元気じゃなさそうだし、そんな中、私のお願い言ってしまったら迷惑かもって。

私、気を使ってるのよ」


「そ、そうなんですか?それはどうも気を使わせてしまって……」


「別にいいけどぉ」


『気を使ってるなら何故今、私はあなたに気を使ってるのか……』

頭に浮かんだ考えは、とりあえず言葉にはしないでおいた。


「でも、わかるよ?死んで武器になれなんて、ヒドイと思う。私だったら許せない」



「…………………………………」


「ああ、あなたは違うならいいのよ?私は腹が立っちゃうってだけだから」


黙り込んだ夢芽に、彼女なりに歩み寄ろうとしているのだとは思った。


「あ、いや、正直言うと、自分でも分からないんです」


「え?」


「私、クリフに会って、守られて、その時思ったんです。何があってもこの人を守りたいって。

恋とかじゃないんです。

見返りとかいらなくて、ひたすら守りたいって思って、その気持ちがすごく嬉しかった。

今も、それは変わらない。変わらないはずなのに、なんでこんなに胸がざわつくのか。分からないんです」


初対面の人間に、なぜ自分の気持ちを言えるのか疑問だった。

もしかしたら、初対面だからだろうか。

先入観のない、そしておそらく、彼女は私の本質に興味がない。だからこそ、隠すことに抵抗が無かったのかもしれない。

想像通り、ナーヴァは「んーー、」と悩んで見せたが、その姿はどことなく演技じみていて、形だけのように思えた。


「リュートと人間の考え方がどれほど違うかは分からないけど」


「リュート?」


「あ、ごめんなさい。私たちリベドゥーディネの人は『人間』っていう種族じゃなくて、龍神と人間のハーフ、『リュート』って言うのよ。

ほら、証拠に耳の後ろにヒレがあるでしょ?人間にはないものね。

あ、それでね」


かなり重要な話題をサラッと告げられ、そのまま話の流れを戻された。

彼女にとっては、種族の違いなどその程度のことらしい。ある意味すごい。


「あなたきっと、クリフ様の下僕でいることが理想の自分だったのよ。

そして、理想通りの『綺麗な自分』じゃなかったことにショックをうけているのね。

あなた、恋愛が嫌いなんじゃない?」


夢芽は目を見開いた。

『私が恋愛嫌い?考えたこともない。理想の自分……クリフにつくすことが……』

驚いている自分がいる。だけど、どこかストンと付き物が落ちたような感覚もよぎる。


『え?本当に……私は』



「はい、解決!それでね」


どこまでもマイペースなナーヴァは、夢芽の悩みもどうでもよく、ついに話したかったのだろう自分の話題を持ってきた。



「あなたが恋愛嫌いでも、私は恋愛の為に生きてるの。

だから、お兄様の婚約者を奪うことに協力してくれない?

もし協力してくれたら」


ナーヴァはニコリと微笑み話を続けた。


「戦争を止める手段を教えてあげる」



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