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魔性の人

「よくやった!よくやったぞ!」

幸太と真穂は、グウルの私室に通された。

ゴートンに報告すると思っていた二人は、待機していた騎士にこちらに案内され驚いた。


「ゴートン騎士団長は、現在極秘任務中でありますので、グウル様に報告をするようにと承っています。

もちろんこちらも極秘任務ですので、中での会話は口外法度でお願いします」


グウルとゴートンは、利害が完全に一致しているわけではないだろうが、それでもこの状態で報告しないという方法は取れない。

戸惑いながらも、これまでのことを伝えると、先ほどのグウルの歓喜に満ちたお褒めの言葉が繰り返された。


『こんなにデカい声で喜んでちゃあ、口外法度の意味ないんじゃ……』

思わず幸太は苦笑いをする。


真穂も思う所はあるだろうが、それを顔に出さず淡々と報告を続ける。


「国王の病気は教会の指示のもと、王妃が行ったと考えていいと思います」


「ふむ。そのようだ。そして、教会が一枚岩ではないことも分かった」


「え?なぜです?」


「お前らがここにいることがその証拠だ。

ファナならお前を逃がすなんてことはしない。お前がもたらした情報は教会、すなわちアーシャの存在を揺るがすことだからだ。

ファナとゼンは、別の行動理念が存在する」


「それはなんでしょう」


痛い所をつかれたのか、上機嫌だったグウルの顔が歪む。


「分かるわけないだろう。心当たりはないのか」


真穂は考え込んでいたが、答えは見えないようだ。

幸太の脳裏に『ゼンは真穂に好意をもっているから』と、考えたが口にはしなかった。

大変面白くない話であるのと同時に、いくらなんでも教会のトップに立つ存在が恋心でそんな大失態を犯すとも考えられなかった。


「探ってみます」


「なに?」


「彼は、その、たぶん、いやおそらく、おそらくですが、僕に好意を持っています。

ですが、さすがにそれだけではないと思うんです。僕らが漏らした情報が彼にとってどう利益を生むのか、もしくはなんの不利益ももたらさないのか。そしてそれはなぜなのか。

僕がゼンに接触して探ります」


「な、なに言ってんだ!危険だろ」


「分かってる!でも彼の僕に対する好意が本物なら、多少無理しても命までは取られないと思う。少なくとも幸太よりは安全だよ!たぶん」


たぶんはだいぶ小声だった。


「それって………」


幸太は引きつる顔を隠せずにいると、グウルは再び満面の笑みで叫んだ。


「ゼンを誘惑するのか!よし!やってこい!!!」



『誰かこのおっさんに、口外法度を辞書でひいてこいと言ってくれ……』


目眩がする中、幸太は心の中でツッコんだ。



そんな幸太の心中をよそに話は進む。


「グウル様、僕は元の世界に戻りたいんです。本音を言ってしまえば、この世界の未来に、そこまで真剣に考えることは出来ない。

でも、いえ、だからこそ、僕はここでの権力に固執しない。僕が得たものを議会の方々に譲ることに、なんの躊躇もありません。

だから……」


ひといきついて続ける。


「僕が帰る為に助力してほしいんです。いえ、僕だけではなく、幸太や姉が故郷に帰る為にも。

悪女である姉がいなくなることは、あなたにとって悪いことでは無いはずです」


グウルの真穂を見る目が変わる。


「なるほど、いいだろう。だが、ゼンから情報を聞き出すのが先だ。目的を達成した暁には、議会は全力をもって貴公に助力する」


「ありがとうございます」


幸太は目を見張る。

目の前の想い人は、目まぐるしい速度で成長しているのだ。

彼は、彼の戦いをしている。


『もし、真穂の試練内容が俺と同じなら、課題はクリアしていたかもしれない』

悔しさが胸の中に広がっていく。



部屋を退出すると、真穂は大きく息を吐いた。


「はーーーー!!緊張した」


「お前、すごかったな」

少し情けなくて目をそらす。

しかし、真穂の返事が無い。不思議に思い顔をあげると、真穂が気まずそうに戸惑いながらも小さな声で呟いた。


「あ、呆れてない?」


「へ?なんで」


「その…、ゆ、誘惑とか言われてたから……。あの、そんなつもりは無いから。あくまで、探るってだけだか………」



ゴン



幸太が自ら壁に頭を打ちつけた。


「こ、幸太??」


「なんでもないし!呆れてない!!!」


叫びながらも、再び幸太は自分の未熟さを嘆いた。

だが

『かわいいから、仕方ない!!!』


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