第97話 魔王復活の予兆と……
一旦は落ち着いたかに見えたディノテプラ王国での魔物・魔獣の騒動だったが、ソフィアは近くに在る森の奥から魔物とも魔獣とも違う気配を感じ、オリビア達に伝えた。
その緊張感はオリビアやセリナには勿論、ガブリエル将軍とアンドレッティ副将軍にも伝わり、更には配下の兵士達にも瞬く間に伝わっていった。
オリビアは森を凝視し、やがて指示を下す。
「魔導師達、前に出ろ! 森の奥から下位悪魔と上位悪魔の群れが来るぞ! もしかしたら、上位魔将も居るかも知れないから気を抜くな!」
オリビアの額からは汗が止まる事なく流れており、誰もが事の重大さを認識せざるを得ないでいた。
たった1人を除いて……
それは勿論、ソフィアである。
「えぇと…… ああくでえもんって何ですか…?」
オリビアの言葉に緊張感を高めていた魔導師達や兵士達は、思わずガックリと地面──城壁の上ではあるが──に崩れ落ちたのだった。
しかし、ソフィアの傍に居たオリビアやセリナは勿論、近くに控えていたアンナ、シンディを含めたソフィアの侍女、侍従、メイド達は平然としていた。
〝慣れ〟とは恐ろしいモノである。
「ホラ、立て立て! ソフィア様に知らない言葉が多いのは解っている事だろう! こんな事で気が抜けていては、上位魔将はともかく、下位悪魔や上位悪魔すら食い止められないぞ! そんな事になったら、聖クレア王国から派遣された魔導師としたら大恥だぞ!」
オリビアの檄に、ハッとする聖クレア王国出身の魔導師達。
スクッと立ち上がり、即座に迎撃体勢を整える。
そして待つ事十数分。
森から下位悪魔や上位悪魔の群れが現れ、その後ろから数体の上位魔将がノソリと現れる。
「あれがああくでえもん…… 見た目は人間と変わりませんね……」
「えぇ…… 悪魔は上位の者程、見た目は人間に近くなる傾向にあるようです。勿論、例外はありますが……」
言って指を差す上位魔将は、明らかに人型とは違っていた。
人型の上位魔将の後ろから現れた上位魔将は、下位悪魔や上位悪魔よりもおどろおどろしい姿をしており、まるで様々な動植物をグチャグチャに混ぜ合わせた様な姿だった。
「な…… 何なんですか、あの凄い姿の化け物はぁああああああっ!? 今まで、見た事ないんですけどぉおおおおおっ!?」
ソフィアは半ばパニックになり、思わずセリナに抱き付いてしまう。
それを見たオリビアは思わず2人を引き剥がそうとするが、冷静なアンナに止められる。
「オリビア様、今は自身の性的欲望より、下位悪魔、上位悪魔、上位魔将を、如何にして退治するかが最重要案件です」
アンナに言われて(一応は)冷静になったオリビアは、的確に指示を出しただけでなく、自らも魔力を纏わせた剣を振るい、上位魔将は勿論、下位悪魔や上位悪魔を悉く屠っていったのだった。
「今回の下位悪魔、上位悪魔、上位魔将の襲撃ですが、マッカーシー大司教様の見解に依れば…… 魔王復活の可能性が高いとの事です。 まぁ、飽くまでも推測に過ぎないとの事ですが……」
アンナの報告に、オリビアは眉を顰める。
「ちょっと待ってくれ、アンナ殿。いくら何でも下位悪魔、上位悪魔、上位魔将が揃って襲撃してくるのはともかく、それを魔王復活と関連付けるのは早計に過ぎないか? マッカーシー大司教様の言う事ももっともだとは思うが、もう少し慎重に考えるべきだと私は思うのだが…?」
オリビアが言うと、後方に控えていたマッカーシーが歩み出る。
「オリビア殿。過去の文献からも、魔王復活が近い可能性は高いと考えられます。魔物や魔獣と共に下位悪魔や上位悪魔が襲撃してきても、魔王が復活した例は確かに少ない。ですが、上位魔将までもが出てきた場合、魔王が復活…… 出てきた事例は非常に多いのです。確率で言えば8割を超え、9割に迫る確率なのです」
マッカーシーの説明に、さすがのオリビアも青褪める。
「で…… では、魔王復活が現実に…? ならば、我々の戦闘体系も見直さねば…!」
言うが早いか、オリビアは司令部へと走り去って行ったのだった。
「まぁ、魔王復活の可能性が一気に高まったとは言え、オリビアさん…… 少し慌て過ぎじゃありませんこと?」
ちゃっかりソフィアの隣に陣取り、更に腕を組ながら言うセリナ。
そんなセリナを、単に〝自分を好いてくれている、ナンシーやシンディ〟と同じ様に感じているソフィアは、何も気にする事なく言う。
「じゃ、もしも魔王が復活したら…… 前に話した様に、まずは私が〝地面鉄化〟を広範囲に展開して、魔王が地下に逃げられない様にします。で、セリナさんが〝空間封鎖〟を2~3回使って20~30秒程度魔王を行動不能にして貰います。その魔法で魔王を逃げられなくしてる間に、私が聖光矢雨と空間圧縮で魔王を弱体化させ、止めに聖核爆滅を使って魔王を倒す…… てな流れになるでしょうね」
ソフィアが説明を終えると、ガブリエル将軍とアンドレッティ副将軍が手を上げ質問する。
「あの~…… ちなみにですが、それらの魔法を行使するのに必要な最大魔力量は…?」
「それと、それらの魔法を行使するまでに、どの程度の時間が…?」
まぁ、気にするのも当然だろうが、ソフィアは平然と答える。
「セリナさんの使う空間封鎖ですが、現在のセリナさんの最大魔力量から考えると、最低でも2回。上手く魔力量を調整すれば3回は使えます。で、私の使う地面鉄化、聖光矢雨、空間圧縮、聖核爆滅に関しては、最低でも連続で2回から3回は使えると考えて貰って良いと思います」
私が説明すると、ガブリエル将軍とアンドレッティ副将軍は安堵した様子で言う。
「な…… なるほど…… では、特に心配する事は無いと言う事ですな?」
「そ…… そうですな。なら、後の事はソフィア様とセリナ様にお任せしても……」
2人がそこまで言った時、帰ってきたオリビアがブチ切れた。
「馬鹿野郎っ! 貴様等には、その前に『襲い掛かってくる魔物や魔獣を退治する』って重大任務があるだろうがぁああああああっ!!!!」
オリビアの鉄拳制裁がガブリエル将軍とアンドレッティ副将軍に食らわされる。
2人は派手にブッ飛び……
その後、やはり派手に土下座をオリビア・ソフィア・セリナにしていたのだった。
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マッカーシー大司教を含めた各国の大司教が集まり協議した結果、現段階で魔王復活の可能性が一番高いのがディノテプラ王国か、その周辺国であると判断され、各国から続々と兵士や魔導師が集まってきた。
その数、約150万人。
やはり兵士の方が数は多く、魔導師は1割にも満たない10万人ちょっと。
ちなみにだが、武器に魔力を附与して下位悪魔や上位悪魔を相手に出来るのは、兵士全体の2割程度だった。
結局、兵士の7割程度は、魔物や魔獣を相手にするしかない……
肝心な時には全く役に立たない烏合の衆(さすがに言い過ぎかも)だったのだ。
それでも、魔王復活までに出来るだけの事はしておかねばならない。
翌日から、オリビアに依る地獄の特訓が、魔力を武器に纏わせられない一般兵士に課される事になったのだった。




