第95話 相変わらずのレズ疑惑に落ち込むオリビア……
オリビアが静かになってから数日は、大聖堂の聖女邸では穏やかな日々が過ぎていた。
オリビア自身、自分のソフィアに対する態度(?)が行き過ぎていた事を周囲(特に国王や王妃)からの指摘に依って自覚したからである。
「私は…… 良かれと思って行動していたのだが…… 結果的にソフィア様は勿論、周りにも迷惑しか掛けていなかったと言うのか…?」
聖女邸に引き籠り、悩み続けるオリビアに、ソフィアの側近として先輩であるシンディが声を掛ける。
「オリビア様。ソフィア様は何も気にしていませんから、悩む必要はありませんよ? むしろ、元気の無いオリビア様を心配なさっておいでです。ですのでソフィア様に顔を見せ、いつもの様に無駄に元気な姿を見せて──」
「無駄には余計だっ! ……て言うか、シンディ…… 最近の貴殿は私に対し、随分と気安くなってないか…? いや、悪い意味ではないんだ。そもそも私はソフィア様に仕えると決めた際、公爵家の3女と言う立場は捨てたつもりだからな…… 父上は認めて下さっていないが、私自身は自分を貴殿やアンナ殿と同じくソフィア様の側近…… 単なる護衛剣士だと思っているからな……」
自嘲気味に語るオリビアに、シンディはクスクス笑いながら答える。
「フフッ♪ こんな事を言うと、公爵令嬢だったオリビア様には失礼なんでしょうけど…… 最近ではマクレール公爵様もオリビア様の頑なさに折れ、オリビア様を〝ソフィア様の護衛剣士〟と認めておられます。更には『現在のオリビアは、マクレール公爵家とは何の関係も無い単なるソフィア様の護衛剣士に過ぎない』と仰ったそうですよ? それに『王宮で様々な問題を起こしたオリビア様に、〝マクレール公爵〟の名を名乗らせるのは、マクレール公爵家に問題が起きかねない』とかで、マクレール公爵自身がオリビア様を勘当──」
オリビアは慌て、焦り、シンディに食って掛かる。
「ちょ…… ちょっと待てっ! そんな話、私は今の今まで聞いてないぞっ!? 何故そんな事になっているんだ!? 私はソフィア様の為に、誠心誠意務めてきたんだぞ! 公爵家から外されるのは構わん! だが、何故勘当!? それこそ意味不明──」
「いえ、最後まで聞いて下さい。勘当まではされてはいませんよ? いろいろありますが、意味不明と仰る問題はソフィア様に対するレズ疑惑…… ソフィア様への異常とも言える執着…… 他にも例を挙げればキリがありませんが…… とにかく、全てオリビア様の行動・言動に問題があったのかと……」
シンディの指摘(?)に加え、アンナも冷たい眼でシンディの発した台詞に追加で説明する。
「勘当ではなく、公爵様が持つ第二爵位である〝子爵位〟を与えるとの事です。まぁ、この事は『オリビア・フォン・マクレール女子爵として独立せよ』とのお達しなのでは? 後はまぁ、シンディも言っている様に、ソフィア様への異常とも言える執着心に端を発する〝レズ疑惑〟が大きいかと……」
「だからレズじゃないってぇえええええ……」
涙をダバダバ流しながら抗議するオリビアだが、今までの行動・言動を考えると説得力に欠けるのだった。
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「以上を以て、マクレール公爵令嬢であるオリビア・フォン・マクレールに子爵位を与えると共に、聖女ソフィア様の護衛剣士としての職務を全うする事を命ずる!」
王宮の謁見の間で、新たなオリビアの爵位と任務が命じられた。
オリビアは恭しく片膝を付いて頭を垂れ、口上を述べる。
「はっ! 不肖オリビア・フォン・マクレール。身命を賭して、子爵に相応しい行動と、ソフィア様の護衛剣士としての働きを示してご覧に入れましょう!」
普通なら誰が見ても感心する以外にないオリビアの宣言だったが、今までのソフィアに対するオリビアの行動・言動わ見ていた貴族や大臣達、更にはソフィアに仕える侍従やメイド達に加え、セリナまでもがオリビアの台詞にジト目を向けていたのだった。
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「なんで連中は私を冷めた眼で見てやがったんだぁああああああっ!!!!」
大聖堂の聖女邸に帰るなり、王宮での貴族・大臣達の態度に不満をブチ撒けるオリビア。
「そんなの、今までのご自分のソフィア様に対する行動・言動を考えれば解らない方が……」
と、アンナが呆れた様に言えば、シンディやナンシーもウンウンど頷きアンナに続く。
「仕方無いと言えば仕方無いですよねぇ…? 私達みたいなソフィア様の側近や、聖女邸に勤めるメイド達から見ても、オリビア様はソフィア様を愛するレズとしか思えませんし……」
「だよねぇ…… でもさ、案外ソフィアにも〝その気〟があると思わない 私自身、何回も裸でソフィアに抱き付かれてるし。まぁ、お風呂でだけど……」
即座にオリビアは反論する。
「何度でも言うが、私はソフィア様を敬愛してるだけでレズじゃないっ! まぁ、ナンシーがソフィア様に裸で抱き付かれたのは羨ましいとは思うが……」
すると、話を聞いていたアンナ、シンディ、ナンシーは勿論、メイド達も一斉に言う。
「「「「「そう言った発言が、レズ疑惑を助長してるんですけどねぇ……」」」」」
言われたオリビアは、更に落ち込むのだった。
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「それ、ある意味では仕方無い事ではありませんか?」
メイドの1人が言うと、オリビアは落ち込みながらも顔を上げ、そのメイドに尋ねる。
「ある意味とは…? やっぱり私はソフィア様を愛するレズだと思われてるって事なのか…?」
聞かれたメイドは迷う事なく首を縦に振って言う。
「はい。私達メイドだけでなく、大聖堂の聖女邸に勤めている侍女や侍従の皆さんも、オリビア様はソフィア様を愛するレズだと噂していますよ?」
「誰でも良いから、そこは否定してくれよぉ……」
涙をダバダバ流しながら言うオリビアだったが、話を聞いていたメイドは『だったら普段からの行動と言動に気を付ければ良いのに……』とは思ったが、貴族に対して許可無く発言するのは不敬だと思い、敢えて黙っていた。
勿論、最初の発言はオリビアからの質問らしき愚痴に応えただけなので、不敬には該当らない。
そんな2人の元へ、シンディが大慌てで駆け込んでくる。
「オリビア様、大変です! 我が国、聖クレア王国の南東に位置するディノプテラ王国にて、魔物と魔獣が大量発生したとの知らせが! マッカーシー大司教様が仰るには、魔王復活の前兆である魔物・魔獣の活性化である可能性も否定出来ないとの事です!」
オリビアは椅子から勢いよく立ち上がるが、あまりの勢いに椅子が吹っ飛び、壁にブチ当たって砕ける程だった。
ちなみにだが、砕けた椅子の破片でオリビアの部屋に居たメイドが軽い怪我を負い、後々オリビアが陳謝したのは別の話である。
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オリビアが聖女邸のリビングに着いた時、既にソフィアは馬車で街に向かっていた。
オリビアは馬を駈り、大急ぎでソフィアの後を追う。
結局オリビアがソフィアに追い付いたのは、ソフィアが街のギルド(冒険者ギルド&ハンターギルドの在る広場)に着いた直後だったが……
「皆さん既に聞き及んでいると思いますが、この聖クレア王国の南東に位置するディノプテラ王国で魔物や魔獣が大量発生しているとの事です!」
既にソフィアが広場に冒険者やハンター達を集めて話し始めていた。
オリビアは無理矢理その中に入ろうとしたが……
「私からも、その件に関して話がある! マッカーシー大司教様の話にばぶぇっ!」
すぐさまアンナのスリーパー・ホールドで絞め落とされ、広場の片隅にズルズルと引き摺られていったのだった。




