第76話 聖女とは…? ~後編~
「男女の不平等を無くすのは良いとしても、どうして女性である『聖女』だけが魔王と戦わなくてはなりませんの? 男性である『聖者』には治癒能力しか発現しないとの事ですけど、魔王と戦う聖女を支援する事は出来ますわよね? それに、兵士は一緒に戦うのではありませんの? 過去の文献を読んでも、兵士は魔物や魔獣と戦いますけど魔王とは戦いませんわよね? 何故ですの?」
捲し立てる様に質問するセリナ。
すると、ソフィアも疑問に思ったのか大きく頷く。
マッカーシーは目を瞑り、大きく首を振る。
「魔物や魔獣は物理的な攻撃… つまり剣や槍での攻撃ですな。それが効きます。ですが、魔王には物理的な攻撃が全く効かないのですよ。これは、その眷属である下位悪魔にも物理的な攻撃が効かない事からも、ご理解して頂けると思います」
武闘大会でオリビアから説明を受けていた為、ソフィアは大司教の話に納得する。
だが、セリナは納得出来ないのか、質問を続ける。
「物理攻撃が効かないのは知ってますわよ? でも、剣や槍に魔力を纏わせれば、下位悪魔は当然ですけど上位悪魔でも屠る事は可能ですわよね? 勿論、誰にでも出来る事ではないのも理解してますわ? それでもオリビアさんぐらいの魔力量を持っていれば、充分に対処出来ますわよね? なのに何故、誰も戦った記録がありませんの?」
「そうですよねぇ… マッカーシー大司教様、どうしてなんですか?」
セリナの質問に、ソフィアも疑問に思った。
確かに不思議な事ではある。
オリビアの様に高い魔力を持っていれば、剣や槍に魔力を纏わせて悪魔を屠る事は可能である。
勿論、誰にでも出来る事ではないのも確かではあるのだが…
「それは単純です。魔王が最後に現れたのは、およそ200年前… そして、剣や槍に魔力を纏わせる事で悪魔を倒せると判明したのは、僅か50年程前の事なのです。それまで、魔王を含めて魔王の眷属である悪魔属には物理攻撃が全く効かないと思われていたからなんです」
呆れるセリナ。
「かなり最近になるまで、魔法に依る直接攻撃しか魔王や悪魔には効かないと思われてたって事ですのね…? だから、どの文献にも魔王には聖女しか対応していない記述しか書かれていませんのね?」
マッカーシーは頷き、同時に呆れた表情になる。
「まぁ、仕方が無いと言えば仕方が無いんですがね… 武器に魔力を纏わせる事が可能だと判ったのが50年程前… 偶然、魔力の高い剣士がヤケクソで剣に魔力を纏わせて悪魔を斬った事が切っ掛けになったとの事です…」
「何ですの、その偶然に偶然を重ねた様な話は…」
話を聞いたセリナも呆れた表情になる。
が、ソフィアは宙を仰ぎ…
「そんな事ってあるんですねぇ♪ あ、でも、世の中に在る便利な物や美味しい物の中には、偶然出来た物も多いって聞いた事がありますねぇ…」
と、普通に感心していた。
「はぁ… まぁ、ソフィアさんならそんな反応なんでしょうけど… で、マッカーシー大司教様? それなら魔力の高い剣士であれば、魔王を倒す事が可能だと考えても良いんですのね?」
聞かれたマッカーシーは考えながら答える。
「前回、魔王が現れたのは約200年前です。対して、魔力を纏わせれば悪魔を斬れる事が判ったのは約50年前。つまり、まだ魔王に対して魔力を纏わせた剣や槍での攻撃が効くのか実践していないので、何とも言えませんな…」
「それは… 確かに仰る通りですわね… では現状、魔王を倒せるのは聖女だけ… と言う事ですのね?」
マッカーシーは頷き、次いで首を振る。
「どっちなんですの…?」
肯定とも否定とも取れるマッカーシーの反応に、セリナは訝しげな表情になる。
「何とも言えない… と言うのが正直な意見ですな。それと、ここが重要な部分なのですが、歴代の聖女の誰1人として魔王を倒してはおりません」
「へっ…? それって、ど~ゆ~事なんですか?」
「そ… そうですわ! 詳しい説明を求めますっ!」
思いも寄らないマッカーシーの言葉に、ソフィアはポカンと、セリナは驚きの表情で聞く。
マッカーシーは両手を突き出し2人を制する。
詰め寄ってるのはセリナだけだが…
「簡単な事、と言って良いかは判りませんが… 文献に書かれている『聖女が魔王を倒した』との一文は、民衆を安心させる為らしいのです。ですが、実際には『魔王の魔力を地上に居られなくなるまで削っただけ』なのが実状の様ですな。ですので、巷で言われている『魔王の顕現』や『魔王が現れる』と言うのは間違いで、正確には『魔王が復活する』と言った方が正しいでしょう」
マッカーシーの説明を聞いたセリナは釈然とせず、更にマッカーシーに詰め寄る。
「その説明で納得しろと!? そもそも、魔王を倒せないのは何故ですの!? それに、文献に書かれている魔王の能力も、差が大き過ぎますわ! どの魔王も、およそ200年周期で現れるのに、人類を滅亡させかねない様な魔王の時もあれば、土地を荒らすだけの魔王の時もあるし、統一性に欠けますわ! どう言う事ですの!? 私の国… グレッディ王国は小国ですし、小国の大司教では詳しくは知っていなくても納得出来ますが、大国である聖クレア王国の大司教であるマッカーシー大司教様が知らない筈はありませんわよね!?」
セリナに詰め寄られ、マッカーシーは諦めたかの様に話し始める。
「単純に、魔王を倒せるだけの魔力が無かったとしか言えませんな… 今までで最高の聖女と言われたスザンヌ聖女様ですら、セリナ様の4分の1程度の最大魔力容量しか持っておられなかった… まぁ、飽くまでも計算上ですが… そのスザンヌ様でも魔王を倒すには至らず、地上に居られなくするのがやっとだったとの事… ちなみに魔王の能力が統一性に欠けるのは、魔王が地下で『復活するまでに溜め込める魔力量が多いか少ないか』に依るモノだと考えられます。飽くまで推測ではありますが… しかし、現在のセリナ様、ソフィア様の最大魔力容量… そして、お二方の実力を鑑みれば、魔王を『地上に居られなくする』のではなく、本当に倒せるのではないか、滅ぼせるのではないかと思えるのです… 私個人の意見ではありますが…」
マッカーシーが言うと、セリナは彼の言う通りかも知れないと考え始める。
が、そこにソフィアが疑問を呈する。
「それはまぁ、良いんですけど… 結局、聖女って何なんですか? 話を聞いてると、単に魔王を地上に居られなくする為だけに存在してる… その事で、だいたい200年ぐらいの平和を作るだけの存在って思いますよねぇ…? だけど、セリナさんは最高の聖女って言われてたスザンヌ様より4倍もきゃぱしてぃが高いみたいですし… そのセリナさんより、私は256倍もきゃぱしてぃが高いんですよね? なら、魔王を本当に倒す事も可能だと思うんですけど…?」
ソフィアの意見に、マッカーシーは大きく溜め息を吐く。
「それを難しくしているのが魔王の能力ですな… 文献ではハッキリと書かれていませんが、魔王は倒されそうになると地下に潜るのですよ。そして、そのまま200年前後力を蓄え、復活するのです。地下深くに潜られると、魔法攻撃も届かなくなりますからな… そうなる前に倒さなければならないのですが、その頃には聖女の魔力もギリギリらしく…」
「なるほど… 止めを刺す前に逃げられてしまう… と言う事ですのね…?」
マッカーシーの説明に、セリナは疲れた様に言う。
そして…
「で、結局『聖女』って何なんですか? 魔王を倒す事が出来る存在ってのは理解しましたけど… 民達への癒しなら司祭様や司教様でも出来ますし、聖者って存在も… なら、仮に魔王を倒しちゃったら、聖女って存在は…?」
何気無く言ったソフィアだったが、マッカーシーもセリナも聖女と言う存在を真剣に考える事になったのだった。
魔王を倒せる唯一無二の存在である『聖女』だが、その役割が完全に無くなった場合の事に思いを馳せると、楽観視していられないのではないかと考えたのである。
もっとも平民からすれば『聖女』自体が『明日への希望』をもたらす存在なのであり、そこまで深く考えてはいなかったのだが…
翌日になってオリビアやアンナに聞くと、2人共にも同様の感想を抱いており…
シンディを初めとする平民出身のメイド達の意見を聞き、何も気にする必要は無いとの結論に落ち着いたのだった。




