第75話 聖女とは…? ~前編~
ソフィアとセリナは、毎日修練場に出掛けて魔法の修練に励んでいた。
ソフィアは主に、新たな魔法を小さな威力で放って効果を確認。
最大魔力容量の少ないセリナは、攻撃力の高い魔法を如何に少ない魔力で放てるかを目的としている。
もっとも、セリナの最大魔力容量が少ないと言っても、それはソフィアに比べての事であり、歴代の聖女の中では突出して高いのだが…
要は、ソフィアの最大魔力容量が高過ぎるだけなのだ。
そして、当のセリナはソフィアとの実力の差を実感しながらも、少しずつではあるものの自身が魔法の使い方を洗練させている事を実感してもいた。
「火球!」
ズガァアアアアアアンッ!!!!
普段の半分の魔力で大岩を粉々…
とまでは行かないが、人の頭ぐらいの大きさに砕く事に成功したセリナは、大きく溜め息を吐く。
「はぁ~~~~… 何とか半分の魔力で大岩を砕けましたわね… でも、こんな程度で満足していられませんわ… もっと少ない魔力で粉々に出来る様に、精度と威力を高めないと…」
そんなセリナの様子を見ていたソフィアは、彼女に向かって平身低頭する。
「ごめんなさい、セリナさん。私がコツを説明出来れば良いんですけど、私は学が無いので上手く言葉で伝えられないんです。本当に申し訳ありません…」
いきなり予想外の行動に出るソフィアに、セリナは逆に慌ててしまう。
「ちょっ… ちょっと! いきなり何を謝ってますの!? そもそも私、ソフィアさんが謝らなければいけない事など、何もしていませんわよ!?」
セリナが言うと、ソフィアはキョトンとして首を傾げる。
「…そうでしたっけ? 何となくですけど、セリナさんが大岩を粉々に出来なかったのは、私が魔法の使い方を上手く説明出来なかったのが原因かな~って思ったんですけど…」
そんなソフィアに、セリナは呆れた様に言う。
「そんなワケありませんわよ… 私が大岩を粉々に出来なかったのは、単に私の魔力操作が未熟だっただけの筈ですわ。少なくとも、もう少し上手く… 例えば、大岩の中心から一気に外へ弾き飛ばす様なイメージで魔力を開放すれば…」
ソフィアに話す事で考えが纏まったのか、セリナは残った大岩に向き直り…
「火球!」
ズドガァアアアアアアンッ!!!!
セリナの放った火球は、普段の3分の1しか魔力を使わなかったにも拘わらず、大岩を粉々に砕く事に成功したのだった。
「出来ましたわ! 全力でも粉々に出来なかったのに、今回は3分の1の魔力量で… と言う事は、対象物に少ない魔力量で大きなダメージを与えるには、破壊するイメージをより明確にしなければいけないって事なのかしら…?」
「そうなんですか? 私も勉強してみましょうかねぇ…」
セリナが言うと、ソフィアも少ない魔力量で魔法を行使する事に興味を持った。
「ソフィアさん… 貴女、膨大な最大魔力容量を持ってるんだから、気にしなくても宜しいのではなくて? それこそ、私が一発で魔力枯渇する様な大技を何十発も放てるんですから…」
セリナが呆れた様に言うと、ソフィアは苦笑しながら答える。
「私、自分のきゃぱしてぃがどの程度かハッキリとは知らないんですよねぇ… マッカーシー大司教様とオーリャさんの話で、セリナさんの256倍って事は判りましたけど、そもそもの基準を知らないですから…」
言われてセリナも考える。
「それは確かに… 私の最大魔力容量も、今までで最高だと言われていた聖女の4倍との事ですけど… それですら、どの程度凄い事なのか判りませんものねぇ…?」
そうして2人は互いに考え、一つの結論に達した。
マッカーシー大司教に聞こうと…
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「…と言うワケですわ。今までで最高の聖女と言われていた人物と、私達の差を教えて下さいますかしら?」
「考えてみると、私もセリナさんも、私達以外の聖女の事を何も知らないんですよねぇ… ですので、マッカーシー大司教様が知ってる事だけでも構いませんので、教えて貰えますか? 出来れば魔王の事も…」
セリナとソフィアが大聖堂を訪れ、マッカーシー大司教に懇願してきた。
セリナの場合、懇願と言うには若干上から目線だが、少なくとも自ら大聖堂に赴くだけマシになったと言える。
以前の彼女なら、大司教を呼び出していただろう。
それだけでも、かなりの変わり様と言えた。
マッカーシー大司教はニッコリ笑って頷き、説明を始める。
「ではまず、聖女について説明致しましょう。そもそも『聖女』と言う言葉は一般的に、それぞれの社会において宗教的に敬虔であり、神の恩寵を受けて奇跡を成し遂げたとされたり、社会… 特に弱者に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼ぶ言葉なのですが… 現状、私達が呼んでいる『聖女』は別の意味を持っています。それは…」
と、そこでソフィアが手を挙げる。
「ソフィアさん、どうかなさいましたの?」
セリナが聞くと…
「あの… けいけん、おんちょう、こうけん、こうけつって何ですか?」
真顔で質問するのだった。
「そんな事も知りませんの!? …って、ソフィアさんは平民出身だし、まだ8歳でしたわね… 敬虔とは、敬い慎む気持ちの深い様子の事ですわ。恩寵とは、神や主君から受ける恵み、慈しみ… 慈しみとは深い愛情の事、と言えば解りますわね? 貢献とは、ある物事や社会のために役立つように尽力する事ですわ。ちなみに尽力とは、ある目的の実現のために、力を尽くす事ですわよ? 高潔とは、利欲… 利益を得ようとする欲望の事ですけど、その為に心を動かさない立派な人柄… と言えば解りますかしら?」
言葉の意味を説明し始めたセリナは、説明しつつもソフィアが知らないであろう言葉を使ったのではないかと思い、追加で言葉の意味を教えつつ説明した。
そんなセリナを見て、マッカーシー大司教は満足そうに頷く。
(セリナ様… 出会った頃と比べると、随分と穏やかで優しくなられましたな… これもソフィア様の影響なのかも知れませんな…)
セリナの魔法的な成長は勿論だが、精神的な成長にこそマッカーシー大司教は感心していた。
セリナの説明にソフィアが納得した様に頷くと、大司教は話を再開する。
「さて、私達が呼んでいる『聖女』が別の意味を持っていると言いましたが、それは『魔王に対抗する聖なる力を持つ女性』と言う意味の『聖女』なんです。ちなみにですが、女性が『聖女』と呼ばれるに対し、男性は『聖者』と呼ばれます」
今度はセリナが手を挙げ質問する。
「では、今まで魔王を倒した聖者が居ないのは何故ですの? 私、グレッディ王国に居た頃から聖女に興味を持っていましたので、国に在る文献は全部読んだと言っても過言ではありませんの。まぁ、まだ読んでいない文献が在るかも知れませんけど… とにかく、それを差し引いても魔王を倒すのは常に女性である『聖女』ばかり。男性である『聖者』が魔王を倒した記録が無いのは何故なんですの?」
セリナの質問を、マッカーシー大司教は頷きながら聞き、苦笑して答える。
「実に不思議な事なんですが… 何故か男性である『聖者』には、魔王に対抗する術が無いのです… 『聖者』に関する文献も存在し、私もそれらは読み漁りました。ですが、どの文献に書かれている『聖者』も、魔王と戦う能力は持たないのです。どんなに優れた『聖者』であっても、何故か『癒しの能力』しか発現しないのです。『聖女』には『魔王と戦う能力』と『癒しの能力』の両方が発現するのに… その理由は、どの文献にも書かれておらず、今でも謎とされています…」
マッカーシー大司教が腕を組んで首を傾げると、ソフィアとセリナも同じ様に首を傾げる。
「確かに不思議な事ですわね…? 男性の方が女性より体力も筋力もありますし、魔王と戦う能力は高いと思いますけど… 何故、『魔王と戦う能力』が女性である『聖女』にしか発現しないんでしょう?」
「むしろ、体力も筋力も男性より無いから、戦う為の魔力は女性の方が高くなるんでしょうか? 女性の方がしんたいてきのーりょくが低い分、まりょくてきのーりょくが高くなるとか?」
セリナの言葉を受け、ソフィアが適当に思い付いた考えを述べる。
「なるほど… って、ソフィアさん!? 身体的な力が弱いから魔力的な力が強くなるなんて考え、適当過ぎますわよ!?」
思わずセリナは突っ込むが…
「いや… 案外そうかも知れませんな… 神は男女を公平に創造された筈です。ならば、身体的に男性より劣る女性を魔力的に優る様に創造されたとしても、何ら不思議な事ではありますまい。むしろ、その様に創造される事で男女の不平等を無くされたと考える事も…」
納得する様に何度も頷くマッカーシー大司教。
そして、何となく彼の言いたい事を感じ取ったソフィアも、同じ様に頷く。
が、セリナは呆れた様に2人をジト目で見詰めるのだった。




