第69話 セリナの聖女デビュー戦 ~後編~
ソフィアが一瞬でダルマス辺境伯領に迫っていた魔獣達を殲滅した頃、セリナとオリビアを初めとした近衛兵や義勇兵は苦戦を強いられていた。
ソフィアが居れば広範囲の魔法攻撃で多くの魔獣を屠れるのだが、オリビアは広範囲攻撃魔法が使えなかったし、近衛兵や義勇兵にも広範囲攻撃魔法が使える者は居なかった。
広範囲攻撃魔法には膨大な魔力が必要であり、そこまでの魔力を有している者がセリナ以外に誰も居なかったからである。
では、セリナが広範囲攻撃魔法を使えば良いのであるが、肝心のセリナ自身が広範囲攻撃魔法を知らなかった。
その為、単体を相手にした攻撃で押し止めるしかなかったのである。
「やっぱり、こっちの方が森に近いからか…? 情報だと森で発生した魔獣の内、約7割がこちら側に向かってきてるらしいな」
後方で指揮をするオリビアが、傍らに控えるラファネル辺境伯に話し掛ける。
「それもありますが… 森の中を川が流れて森を南北に分断しているのですが、その川が森の中央より北を流れているのです。なので…」
「森で発生した魔獣の内、川より南側で発生したのは全部こちらに流れてきたって事か… 全体の3割程度が北のダルマス辺境伯領に向かったのなら、ソフィア様なら今頃は全部片付けてる頃だろう… とすると、もう少し粘ればソフィア様が駆け付けて下さるかも知れないな…」
ラファネル辺境伯が説明すると、オリビアが自身の考えを述べる。
ソフィアの名を聞いたラファネル辺境伯は、パアッと表情を明るくする。
「ソフィア様はダルマス辺境伯領へ向かったのですか。ならばオリビア様の仰る通り、あちら側は既に片付いている事でしょうな。では、拡声魔法で皆に知らせてやりましょう! 希望が見えれば、これまでの戦いの疲れも吹き飛ぶ事でしょう!」
ラファネル辺境伯の提案をオリビアは少し考え…
「いや… もう少し、このまま様子を見よう。セリナ様は魔獣との戦いは初めてらしいんだ。いずれ魔王と戦う事を考えれば、ここで厳しい戦いを経験しておくのは良い事だと思うからな…」
「初めての戦いがこれと言うのは、少々厳し過ぎると思うのですが…」
ラファネル辺境伯は、オリビアの意見に苦笑とも困惑とも言えない表情で答える。
するとオリビアは剣を抜き、ラファネル辺境伯に言う。
「まぁ、本当にヤバくなりそうなら私が出るさ。ソフィア様みたいに一瞬で多くの魔獣を屠る事は出来ないが、少なくともソフィア様が駆け付けるまでは持たせられるだろうからな。だからラファネル殿、今すぐダルマス辺境伯領へワイバーンで飛んでくれ。ダルマス辺境伯領が救われていれば、ソフィア様が歓待されていないとも限らない。そんな事になっていれば、こちらは私が参戦しても防ぎ切るのは難しいかも知れないからな…」
言われてラファネル辺境伯は、慌ててダルマス辺境伯領へワイバーンで向かったのだった。
ラファネル辺境伯がダルマス辺境伯領へ向かって1時間後、魔獣に圧されている場所にオリビアが参戦。
なんとか魔獣を押し返すが一時的なモノであり、すぐに状況は魔獣優勢に戻る。
「ちぃっ! 魔獣の数が多過ぎる! オーガに比べると弱いが、こうまで数が多いと体力的にも魔力的にもキツいぞ!」
「まだソフィアさんは来ませんの!? 今のペースですと、私の魔力は後1時間も持ちませんわよ!?」
「ソフィア様なら、ラファネル辺境伯がダルマス辺境伯領まで迎えに行ってます! それよりセリナ様、左側のタイラント・ボアの集団を任せても宜しいですか!?」
「任せないで下さいましっ! あんな大きな猪の集団、私の技量では半分も…」
ドォオオオオオオオンッ!!!!
セリナがオリビアの指示に文句を言っている最中、一発の攻撃魔法がタイラント・ボアの集団を吹き飛ばした。
「な… 何ですの、今のは…?」
吹き飛ぶタイラント・ボアを呆然と眺めつつ呟くセリナ。
そこへ、ワイバーンに乗ったラファネル辺境伯とソフィアが降り立つ。
「どうやら間に合った様ですな、ソフィア様」
「良かったですぅ~… 間に合わなかったら、どうしようかと思いましたぁ~…」
ホッと胸を撫で下ろすソフィア。
そんな彼女に、セリナが呆れた様に声を掛ける。
「もう向こうは片付いたんですの? 随分と早いんじゃありません?」
ソフィアはフワッと浮かび上がると、全体を見渡してから降りてくる。
「パッと見た感じ、ここの半分程度でしたね。なので、魔獣の集団に聖光矢雨一発で殆ど片付きました♪ 残ったのは10匹程度でしたので、ダルマス辺境伯様の兵だけで退治出来ましたよ♪」
「ほ… ほーりー・らいと・あろーず…?」
初めて聞く魔法の名前に首を傾げるセリナ。
「そんな魔法、知りませんわよ? 私が〝聖女への目覚めの輝き〟で眠ってる間に得た知識の中にも、そんな魔法は…」
「それが〝聖女への目覚めの輝き〟で眠ってる期間の差なんでしょうな。ソフィア様が眠っていた15日間と、セリナ様が眠っていた7日… その8日間の差に、得る魔法の知識にも差が生じたのでしょう」
セリナの疑問に、オリビアの補佐として参加していたマッカーシー大司教が答える。
「はぁ… やっぱりソフィアさんは規格外ですわね… でもまぁ、助かりましたわ。今の私じゃ、後1時間ぐらいしか戦えませんでしたもの。お礼は言わせて頂きますわ」
と言いつつ、肝心の『ありがとう』は言わないセリナだった。
もっとも、セリナらしいと言えばセリナらしいのだが…
そんな礼を言うと言いつつ言わないセリナに、オリビアはムッとしていたのだが…
当のソフィアは何も気にしていない様で、セリナには全てが片付いたら説明をすると言って、戦闘に向かうのだった。
────────────────
「聖なる光の矢を雨の様に降らせる…? そんな事、出来ますの…?」
ソフィアが聖光矢雨の説明をすると、セリナは目を丸くする。
「出来ますよ? まぁ、それなりにきゃぱしてぃが高くないと難しいとは思いますけど…」
「それって… どの程度なんですの…?」
「多分ですけど… 私のきゃぱしてぃの100分の1… 火球を100発程度打ち出せるぐらいではないかと…」
愕然とするセリナ。
ソフィアの最大魔力容量の100分の1で火球を100発も打ち出せるなら、単純に考えてソフィアは火球を10000発は打ち出せる事になる。
規格外にも程がある。
セリナは目眩がするのを何とか堪え、言葉を搾り出す。
「ソフィアさん… 自分を基準に考えないで下さいまし… 少なくとも、私は貴女の基準には及びませんわ…」
セリナの言葉に、オリビア達は全員が納得した様に頷くのだった。




