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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第50話 出生率

「何か分かったのですか?」


 マリアがそう尋ねると、学園長は頷いて答える。


「うむ。目的と、概ねの所属がのう」


「……本当ですの?」


 マリアが疑わしげにそう尋ねたのは、この後に及んで学園長の実力を疑っている、というわけではなく、ノルブのような工作員がそういったことを容易に吐くわけがない、と分かっているからだろう。


 たとえ無理矢理聞き出したとしても、いざという場合には自ら命を絶つ。


 それくらいの覚悟がなければ他国へのスパイや工作員には不向きだ。


 しかしそんなマリアの言葉に学園長は言う。


「本当じゃ。まぁ、方法は少しばかり反則じゃったかもしれんが……ともかく、分かったことを話そう。まず、ノルブの目的じゃが、これはマリア君を狙っていたことからも、聞かずとも明白じゃな。魔術師としての才能を持つ者……特に貴族の令嬢を狙って連れて行き、戦力や配偶者とするためじゃ」


 もちろん、そんなことは非合法であり、許されることではない。


 いかなる国においても、そのような方法で連れてこられた令嬢などとの結婚など無効とされているし、そもそも魔術師の卵の誘拐自体が重罪である。


 けれどもそれは表向きの話で……。


 実際には馬鹿に出来ない数の魔術師の卵が毎年誘拐され、どこかの国に連れ去られている。


 糾弾すれば良いだろう、という気もするが、現実的に考えると難しい。


 そもそも、お互いにそれをやってきた長い歴史があるために、蒸し返し合戦になってしまうというのがある。


 それに加えて、一度浚われてしまえば、洗脳されてしまうことも少なくないというのがある。 


 たとえ素直に返されたとしても、実のところ洗脳済みで、いずれ国に牙を剥く可能性もある、という場合もある。


 そういった洗脳は高位の魔術師によって解呪することは出来るが、元々それは簡単な魔術では決してなく、本来の性格を破壊してしまう可能性もあるし、治せたとしても多くの時間や費用を要した。


 そうであるならば余程の高位貴族でなければ現実的には頼れない、ということだ。


 他にも種々の問題があって……そういった諸々のことを考えると、一度浚われてしまうと戻ってくる可能性は低い、ということだ。


 だからこそ、おそろしい話なのである。


 それでも、近年はかなり少なくなってきていて、年に一件あるかないか、という程度だ。


 別にどの国も反省した、というわけではなく、いずれの国も容易にそのようなことが出来ないように、魔術師の卵などがいる場所の警備は厳重にしているから、というのが一番大きな理由だろう。


 また、洗脳魔術の解呪についても年々技術が上昇しており、現在であれば一応の貴族であれば金をかき集めればなんとか頼ることが出来る手段になりつつある。


 せっかく苦労して浚い、洗脳したとしても取り返される可能性が高い、となればそういった行動に後込みする者が多くなるのは当然だろう。


 ただ、決してゼロにはならない。


 高位貴族の血に含まれた魔術師誕生の可能性はそれ自体が宝であり、奪いたいと思うのは至極当然の話だからだ。


 特に、今回標的となったマリアほどの貴族となれば……。

 

「最近は少なくなったと聞いておりましたのに……まだそのような輩がいるのですね」


 マリアがそう言うと、学園長は言う。


「いつまでもなくなることはないじゃろうな。それこそ、全人類が魔術師の血筋にでもならん限りは……そしてそんなことはありえん。加えて、知っているかどうかは分からんが、このヘリオスにおける魔術師の出生率は極めて高くてのう。余計に狙われやすいという事情もある」


 これに驚いたのは、ジョゼとラーヌだった。


「初めて聞きました……」


「私もですわ……。でも、一体どうして?」


 二人が驚いているのは、あまりこの事実については一般的に公表されていないからだろう


 ノルブは明らかにそのことを知っていたし、僕も知っているが……一般的な方法で手に入れた知識というわけではない。


 そして、それはこの国においても同じであるというわけだ。


 マリアが驚いていないのは、彼女の家が高位貴族だから、かな。


 そこまでの地位となると、やはりそれくらいのことは教え込まれるのだろう。


 コンラートは……その情報収集能力ゆえだろうか。


 学園内の噂話のみならず、そういった知識にも及んでいるのなら相当なものだなと我が友人ながら改めて見直す僕だった。


 学園長先生は言う。


「……理由は分からん。じゃが、事実として、そうじゃ。といっても、何倍も差があるというわけでもないんじゃがな。せいぜい、五割増し、といったところかのう。しかし、そのお陰もあってか、この学園に在籍する平民の生徒の数は多い。他の国にも魔術を教える学校は沢山あるが、この学園ほど平民が多く在籍するところは少ないじゃろうて」


 それは事実だ。 


 僕の母国においても、魔術を教える学校の生徒は大半が貴族であり、平民はいても数人だった。


 つまり、ヘリオスでは魔術師が平民に生まれる可能性も高いわけだ。


 理由は一体なんなのだろうか。


 学園長先生は、分からない、と言ったが……本当なのだろうか。


 なんだかこの人なら何か知っていそうな気もするが、それは買いかぶりすぎかも知れない。


 学園長は続ける。


「ともかく、そういうわけでマリア君は今回狙われることになった、というわけじゃな。ジョゼ君とラーヌ君はそのついで、ということじゃったじゃろうが、さっきも言ったようにこの国の人間から魔術師が生まれる確率はかなり高い。ジョゼ君とラーヌ君も十分に役に立つ、と判断されたのじゃろうて」


「それはノルブから聞き出したのですか?」


 僕が尋ねると、学園長は頷いて答えた。


「そうじゃよ。ただ、やはり一番欲しいのはマリア君だと言っておった。マリア君は《大きな器》を持っているから、ともな。これについては正直、わしにもよく意味が分からんが……かなりこだわっておったことは確かじゃ。誰でも良かったわけではなさそうじゃな」


「マリアがかなり大きな魔力を持っているから、という意味では?」


 僕が尋ねると、学園長は首を傾げる。


「確かにマリア君の魔力は大きい。しかし、単純にそういう理由であるのなら、二、三年生にはさらに大きな魔力の持ち主がいるぞ。それはある程度の実力を持った魔術師には分かる。もちろん、あくまで今の段階で、将来的にはマリア君の魔力の方が強くなる、ということもあるじゃろうが……それこそ未知数じゃしな。その辺りも問い詰めてみたんじゃが、要領を得ない話ばかりじゃった。ここは保留じゃな」

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