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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第49話 学園長室

 ――コンコン。


 と、木製の重厚な扉を叩き、


「……マリア、ラーヌ、ジョゼ、そしてリュー、コンラートが参りました。学園長はいらっしゃいますでしょうか?」


 と僕が代表して中に向かって尋ねると、


「おぉ、来たか。待ちわびたぞ。早く入りなさい」


 と返ってきたので、


「……では、失礼します」


 と言って扉を開き、とりあえずマリア達、レディに先に入るように促した。


 マリアとラーヌはすんなりと入っていったが、 


「私は最後で……」


 とジョゼが言い出しす。


 身分を気にするな、と言っても人はそんなに素早くは変われない。


 まだ遠慮があるのだろう。


 しかし、


「いやいや、最後はコンラートだから」


 と僕は言う。


 これにコンラートが間髪入れずに、


「リューじゃねぇのかよっ!」


 と突っ込みをいれ、それから続けて、


「……まぁ、どっちにしろジョゼの方が先だぜ。こういうのは淑女が先だってマナーでも教えてるだろ。ほら、入った入った」


 と少しばかり強引に先を薦めた。


 腰に手を当てて促すその姿は堂に入っていて、彼もまた生まれながらの貴族であり、こういうことにも慣れているのだなと感じさせる。


 コンラートがそうやってジョゼの後ろから入って行ってしまったので、結果的に僕が最後に入る形になったが、特に気にはならない。


 僕かコンラートのどちらが先かなんて正直どうでもいい話だからだ。


「皆、良く来たのう。遠慮せずそこに腰をかけなさい……飲み物も用意しよう。好き嫌いはなかったかの?」


 学園長が部屋の一番奥に設えられた執務机備え付けの椅子から立ち上がり、好意的な表情でそう尋ね、応接ソファに腰掛けた全員がそれに頷いた。


 それを確認した学園長が手をぱちりと鳴らすと、皆の前に紅茶とポットが出現する。


 魔術だが……複合系だな。


 一つではない、複数の魔術を組み合わせ、新たな効果を発生させるもの。


 難易度は様々であり、その数は発想によって無数に存在する。


 ここに魔術師としての実力が出る、という者もいるくらいで、魔術をどれだけ柔軟に使えるのかが見れば分かる。


 その点、学園長は文句のつけようがないレベルなのは間違いない。


 ぱっと見ただけでも……短距離転移にヴァーモ、保存の三つくらいは確実に使っているだろう。


 全体として見たときの魔術名はさながら食料無劣化移動、といったところか。


 旅に便利そうな魔術である。


 もちろん、高位の魔術師でなければ使えないものであるから、旅人全員がぜひ覚えるべき、なんてとてもではないが言えないが。


 一家に一人、学園長がいればいいのに……。


 僕は使えるかな?


 何度か練習すれば無理ではないだろうが……まぁ、そのうち練習してみようか。


「……とんでもないことをさらりとされますわね。今まで学園長がこのように魔術を行使される姿を見たことがありませんでしたので、驚いていますわ」


 マリアも僕と同様に学園長が使った魔術の難しさを即座に理解してそう言った。


 これに学園長は笑って、


「わしがこんなに凄い魔術師だと知れれば生徒達がここに殺到してしまうじゃろう? じゃから内緒なんじゃよ」


「でしたら今はなぜ使われたのですか?」


「君たちはもう知っておる。君たちの前で使わないのは、手元に包丁があるのに料理に使わないようなものじゃろうて」


「確かに……。でも、私たちが皆に学園長先生の力について喧伝するとは思われないのですか?」


 マリアが言うように、その可能性は十分にあり得る。


 特にラーヌ辺りは学園長に心酔しているから、凄い人だと色々な人に言って歩きそうなところがある。


 しかし学園長は首を横に振った。


「君たちは隠したいことが色々あるじゃろう。わしの力について言及するとやぶ蛇になることも考えられる。幸い、君たちは賢い。そういう可能性を考えると……殊更に喧伝すると言うことはしないじゃろうな。ラーヌ君については、すでにそうしないように頼んでおいてあるから安心じゃ」


 僕については彼の言うとおり、この学園で必要以上に目立ちたくはない、というのがある。


 そのためには多くの人の興味を引くような話題は避けるだろう。


 学園長の力について、というのはまさに避けるべき話題だ。


 マリアは今回ノルブに狙われた張本人であり、学園長の話をするとどこでそれを知ったの、ということになって、さらにほじくられると今回の事件に辿り着かれる可能性もある。


 それは問題になることも考えられるので、やはり言わないだろう。


 ジョゼはマリアに不利なことはしない。 


 コンラートは……どうなんだろうな。一番行動が読めない気がするが、この国のあまり大きくない貴族家の息子だ。


 マリアという高位貴族に睨まれる可能性のあることを殊更にすることもないだろうということだろうか。


 そしてラーヌ。


 彼女はこの中で一番、しがらみがなさそうだが、それでもやはり高位貴族であるし、マリアに心酔してもいる。


 言うべきこと、言ってはならないことの区別くらいは出来るはずだ。


 そして尊崇すべき学園長に直接頼まれれば、その口は貝のように固く閉じられることだろう。


 かくして、ここにいる全員が、学園長の実力については口を噤む、というわけだ。


 なるほど。


「……まぁ、あの黒い森陸竜を倒した、という事実すらも伏せられている以上、学園長が強力な魔術師だ、と言ったところで誰も信じはしない気もしますが」


 そう、学園長はあれを倒したのが自分だ、とは言っていない。


 あくまでも森の魔物の争いか何かで死んでいたものを発見し、持ってきただけだ、ということになっているのだ。


 あれだけの大物を倒した、というのは魔術師として箔のつく話であるはずだが、それを功績として残すつもりはないらしい。


 思えば竜召花の効力についての研究についても、彼は公表していない。


 はっきりと公表すれば自分の地位や格を上昇させられる事実を、そうして秘密にしているのだ。


 その理由がなんなのか、僕には分からないが、しかし決意は固いのだろうということは分かる。


 それを考えると、たとえ僕らが学園長の力について喧伝したとしても、完封できるだけの自信はあるのだろう。


 つまり、言う気があっても言うだけ無駄だ。


 そもそも言わないけれど。


「その通りじゃな。まぁ、わしの実力なんぞ、どうでもいいのじゃ。それより本題じゃよ。ノルブのことなんじゃが……」


 そして、今回の事件についての話が始まる。

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