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母親

「そして七つの海を支配する女王。名はアイーシャ。アイーシャ・セレナーデというのよ。よろしくね」

「⋯⋯⋯」

SUNNY'Sが言っていた私が女王の娘だという話は本当だったんだ⋯⋯。

といってもこの人が私の母であるという証拠なんてないんだけど。

だけど、なんとなくわかってしまう。

夢の中で時たまでてくる光に包まれた二人の人の姿。その片方はこの人、私の母だったのだ、と。

「私、ずーっと彼に会いたかったのよ。」

「え?彼⋯⋯ですか」

「そう、彼」

そういうとことさらに冷たい笑みを浮かべて

「あなたはいいわよね。好きな人と好きなだけ会えて沢山の友人に囲まれて家族はあたたかくて」

アイーシャさんの瞳にはひどく強い憎悪の炎が燃えていた。

「あの、一体どういう」

「もしも」

アイーシャさんは私の言葉なんて一切聞いていなかった。

たとえ聞いてくれたとしてもそれは益々彼女の私へ対する憎悪を増させる気がした。

「私が"海を荒らす者"のリーダーだっていったら?」

"海を荒らす者"。確か海の中の悪者で、ナギやモモちゃんが地上へ来ることへの手助けをした人達。そのリーダーが母であるというアイーシャさん?そんなの⋯⋯。

「もしも」

私の気なんて知らずに話を続けるアイーシャさん。

「私がナギのことを好きだと言ったら」

それを聞いていよいよ頭の中が真っ白になる。

この人がいってることは本当に例えなの?もしかして

「あなたはどうするのでしょうね。」

そこまで言うとまた人を嘲るような笑みを浮べたアイーシャさんは立て続けに衝撃的な事実を私に突きつける。

「ぜぇ~んぶ、本当のことなのだけれど」




「こんにちは、私は転校生の水崎アイーシャ。ハーフで帰国子女なの。よろしくね」

そういって可愛らしくお辞儀をする母さん。男子の視線が熱を帯びていくのが目に見えてわかる。

後ろで大きな舌打ちが聞こえたが聞こえないふりだ。

ナギとソラはいない。

良かった、母さんに会っていたらどうなっていたか。


それにしても

「なんで学校に来るかなあ」

そうつぶやくと途端後ろからガシリと肩を掴まれる。

「あんた、知り合いなのっ?!」

「いやぁ……うん、まあ、そう……かな」

「あんたってほんと趣味悪いわね。あんな悪魔みたいな女と」

悪魔みたいな女って……と半分呆れながら

「まあ……性格はよくないけどね、色々とあれなんだよね」

なんて自分でも訳のわからないことを口走る私。

「あっそ」

と一気に興味をなくし引き下がったともちゃんを見て安心する。

でも、それも束の間。

「うわあ〜〜、なんとか間に合ったあ〜〜っ」

その声にバッと振り返れば、後ろの戸口のところにハアハアと息を切らした寝癖だらけのソラくんの姿がある。

私は思わずパシッと頭を叩く。

うわあ〜〜、よりにもよって今来ちゃったよ。ってことはあれだよね。一番来て欲しくなかったあの人も?……。

「ちょ……待ってよ、ソラ……」

うわああ、来ちゃったよ。

チラリとお母さんことアイーシャさんを見やる。

口元にはともちゃんがいったような、悪魔のような笑みが浮かべられている。

と、そんなアイーシャさんに気がついたナギが開口一番大声をだす。

「女王様っ?!」

顔色がみるみるうちに悪くなっていく。

「え?……女王様?」

と頭にハテナマークを沢山並べているソラは恐らく女王様と面識がないのだろう

教室内もざわつきを増す。

「あいつ、とうとういかれたんだ。」

と後ろから興味なさげなひとりごとが聞こえてくる。

「あの……すみません、先生。僕、用事があったのを思い出したので帰ります」

そういうナギの顔は真っ青で目が泳いでいる。

「では」

先生の返事もまたずにナギは立ち去ってしまう。

それを見てアイーシャさんが一瞬ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

なんていうか……

「ほんとに悪魔みたい」





〜昼休み〜

「ナギ、どうしたんだろ」

そういいながらもモグモグと口いっぱいに食べ物を詰め込むソラ。


ここは屋上で私、ともちゃん、ソラは昼食をとりながらこの中途半端な時期にやってきた転校生、水崎アイーシャやアイーシャの姿をみた途端逃げ帰ってしまったナギについて話している。


それも屋上にある倉庫の裏、陽の当たらないコケがそこら中に生えてるようなジメジメした場所で。

大人気アイドル様がいるからね……。少しでも目立つところでは食べられない。



「あのねえ、あんた、真剣に考えてるの?」

そういう私にソラはうんうんと頷きながらモグモグと口を動かしている。


「まあ、あいつは根っからの性悪ね。これは間違いないわ」

そういうともちゃんはザクッと効果音がつきそうなほど思い切りタコさんウインナーにフォークを突き刺す。

怖い……正直ともちゃんのほうがアイーシャさんの何倍も……

「いっただき〜〜」

「あっ、ちょっと!!」

楽しみにとっておいたグラタンがカップごと消え去る。

気づいた時にはもうソラの口の中だ。

「この……っ」

そういってソラに掴みかかろうとする私だけど途中でバランスを崩し倒れこむ。

「キャーッチ」

そういって私をそっと抱きとめるソラ。

「ごめん、わざとじゃないんだけど。って、ソラ?もう離していいんだけど?」

「僕は離したくないよ?あったかいなあ、莉音は」

そんなセリフとともに背中をひと撫でされ思わず鳥肌がたつ。

なんとかソラの手を引き剥がすと

「よくそんなこといえるよね」

とため息まじりにつぶやく。

「え〜〜、もう少しハグしてたかったなあ」

そんな言葉に呆れているとふとともちゃんがやけに静かなことに気がつく。

「あんた、これ自分で作ったの?めちゃウマ」

珍しく瞳をキラキラさせてそういうともちゃんは、これまた無断で私がとっておいたおかず達をモグモグと頬張っている。

私は呆れながらもあまりそれを表にだすと殴られそうなので穏便に

「私じゃないよ、風雅。あいつああみえて主夫だから。ってともちゃん?あの」

一層輝きを増す……というか、目の奥にハートマークが見えそうなともちゃんの瞳になんだかゾッとしてしまう私。

「え〜〜、なんだ。莉音が作ったんじゃないの?残念」

と落胆した様子でいうソラ。

人のおかずとっといて何いってんだ。それにそもそもグラタンは冷凍食品だからね。





そしてその後、五時間目の予鈴がなるまでそんな感じでワチャワチャしていた私たちの間で転校生水崎アイーシャについて話題になることはなかった。

そして当のアイーシャさんも特に変わった行動はとっていなかった。

ソラとも接触したいなかったようだし

本当にナギが好きでナギが目的だというのだろうか。

当の本人からそう聞いたもののやはり疑ってしまう気持ちの方が大きい。


そして放課後。

私はいつものように陸上の放課後練を終え生徒会の仕事終わりのれん兄と帰宅する。

「れん兄、なんかあった?なんか顔色が」

「うっ、ううん。なんにも」

そういうれん兄にはやっぱりなにかあったとしか思えない。

私にそういう変化がわからないとでも思っているのだろうか。何年も離れてはいたものの幼馴染なのに。

れん兄は手のひらで下がってもいないメガネをクイッと押し上げる。

これは小さい頃からのれん兄が何かをごまかす時の癖だ。

「れん兄」

「あのさ」

ちょうどれん兄の方から強い夕日が差してきて、れん兄が今どんな表情をしているのか全くみえない。

「動画サイトにあがっていたある人の歌。それをこの間聞いたんだ」

「え……と……」

それは遠回しに、あの黒歴史と化した私作の歌のことをいっているのかな……。

思わず言葉に詰まる私だけれどれん兄はそんなこと気にした様子もなく

「とても綺麗で純粋な素敵な歌だった」

「う、うん……」

まあ、私のとも限らないし。

焦りながらそう思い込もうとしていると、不意にれん兄がこちらを向いて、眼鏡越しのあたたかな瞳とばっちり目が合う。

「その想いを、失くさないようにね」


なんでだかそれは別れの言葉のようにも聞こえた。

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