クリューという少年(1)
少年は周囲の海が一望できる、小高い丘の草原に寝そべっていた。夕暮れの風が心地よく、目を閉じればうたた寝をしてしまいそうだ。
もうすぐ出撃だ。寝るわけにはいかない。
まだ青さの残る空には、大きな輪を冠した月が見える。この惑星で生まれ育った彼にとって特別な景色ではないが、素直に「きれいだ」と思った。
ゴツン。
「痛ってぇ~~!!」
「いつまで寝てんだ、こら」
少年の顔の上で、黒髪の少女が仁王立ちしている。彼女に頭を蹴られたのだ。
「パンツ見えてるぞ」
短めのスカートなのだから、寝ている少年からは丸見えだ。
「ガキに見られたって、何とも思わねえよ」
黙っていれば美少女なのだが、かなり口が悪いし乱暴で、色気の「い」の字も感じられない。
「・・・ったく、紐パンなんて似合わねえもん履きやがって」
「マセガキが!!さっさと起きろ!!」
ゴツン。
再び頭を蹴られた。
「~~~!!・・・何度も蹴るな!!バカになったら、どうすんだよ!!」
少年は頭をさすりながら、上体を起こす。
「招集かかってんぞ」
「いや、知らねえし」
「イヤカム外してっから気づかねえんだろ? 着けとけよ、バカ」
イヤカムとはEar Communication Deviceの略で、片耳に装着する軍事用デバイスだ。
「ピアス付けてっから、邪魔なんだよ。右耳用のイヤカムを寄こせってんだ」
少年の左耳にはジャラジャラと大きめのピアスがいくつも着いている。
「ガキのくせに、ピアスとかタトゥーとか入れやがって・・・」
「どっちも『戦士の証』だ!!舐めんな!!」
少年たちのいる「ヴィヴァマー諸島」では、軍人が右腕のタトゥーと左耳のピアスを入れるのが流行りとなっていた。
お揃いの軍服など支給されない解放軍のゲリラ部隊での、いつの間にか流行りだした習わしだった。曰く「民間人と区別するためだ。死ぬ覚悟があるヤツだけ、身に着けろ」という意味だ。
「けっ、ガキのくせに生意気なんだよ。ほら行くぞ、ポチ」
「ポチじゃねえっ!!クリューって名前で呼べ!!」
「アタシに勝ったら、名前で呼んでやるよ」
少女は振り向きざま、不敵な笑みでクリューを見る。
「その言葉、忘れんなよ!!ゼナ!!」
「フッ・・・その前に、3Gダイバーになるこったな」
3Gとは「Gravity Ghost Gear(重霊機)」と呼ばれる巨大ロボットの略称であり、ダイバーとは3Gに乗るパイロットのことである。幽体離脱して3Gに憑依することが「ダイバー」の由来らしい。
ゼナは若干15歳にして、二人の所属する「ゲリラ46部隊」のエースダイバーである。
「舐めんなよ?」
クリューは自信にあふれた表情をゼナに向けた。




