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本編最終話:未来は明るい

「落ち着いたか?」


 師匠の声に、はっとする。今、わたしは師匠に抱きしめられたまま、涙を流していた。師匠が前回の人生のことを覚えていないと分かってからの絶望を、彼は一挙にすくいあげてくれた。ずっと心を神経をすり減らしながら、常に師匠と自分の身に気をつけてきた。師匠が覚えていない、もう前の自分のことを覚えている人はいないのだと分かっていても、やはり求めたくなった。


 そんなときは、夜ひとりで泣いていた。それでも、泣き声は殺していた。


 そんな生活をしてきたわたしの心は、今すくわれた。全ては師匠によって。


(本当に、わたしの全ては師匠によってできている)


 しみじみと感じながら、わたしは師匠の胸元から顔をあげた。彼は柔らかな微笑みを浮かべ、こちらを見下ろしている。


「はい。ありがとう、ございます」


 泣きすぎて、恥ずかしいほどに涙声だが、師匠は何も言わずに微笑んでくれた。


「水飲むか」


 気遣ってくれる師匠に甘えて、こくりと頷く。すぐに差し出されたコップに入った水を、ごくごくごくと飲み干す。ゆっくりと時間をかけて。

 涙で渇いた身体に潤いを与えるように水を飲み干した後、わたしは師匠に向き直った。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。そんじゃ、今度は俺が話す番だな。流石に当事者のアメリアには話しても誰にも文句言われねえだろ」


 その言葉に、引っ込んでいた涙がまた姿をあらわしそうになる。


「信じて、くれるんですか? わたしの話」


 思わず震えた声だったが、師匠はちゃんと聞き取ってくれたらしい。こともなげに続ける。


「あたりめえだろ。お前が嘘をついているとは考えにくいし、何より、アメリアは俺の大切な弟子だからな」

「っ」


 くぅぅ。せっかくとまった涙が溢れてくる気配を感じて、小さく声を出し、波を逃す。

 こんなにさらっと断言してくれちゃう師匠を、好きにならないはずがない。


(だから、好きなんです。師匠)


 心の中で呟き、大切な宝物をしまうように心の中にそのままとどめる。あの日の告白は無かったことにされたままだ。それでも、もう良かった。だってわたしは師匠の大切な弟子と言い切られるだけで幸せなんだから。


 自然に浮かべた笑みを、そのままにして、わたしは師匠へ気持ちを伝えるべく口を開いた。

「嬉しいです。ありがとうございます」


 素直に口に出すと、自分の中にある気持ちが形になって相手に届く気がした。わたしの様子を見て、師匠も頬をほころばせる。


「ああ。———さて、本題に入るか。黄色い水仙を使った魔術だよな。名前まで言うと、流石にまずいことになるから、言わないでおくが」

「はい。分かっています」

「ああ、ありがとな。そんでその魔術は黄色の水仙にある魔術をかけ、それを媒体として起動する魔術だ。これは膨大な魔力がいるため、大抵術者の身はなんらかの代償を差し出すことになる」


 その言葉に、はっと息をのむ。あの場でその魔術を使うとしたら、術者はただ一人———もちろん、師匠のルイス・フェックラーのみだ。


 わたしの表情を見て、師匠は重々しく頷いた。


「恐らく、アメリアの話からすると術者は俺だろうな。そして、その魔術を起動すると術者と術者が望んだ人一人を過去に戻せる。ただし、記憶を保持したまま死に戻れるのは術者が望んだ人に選ばれた奴だけ……つまり、今回の場合はアメリアのみだ」

「っ!」


 そういうことだったのか。師匠はもとから、記憶をもって死に戻ることなんて出来なかったのだ。

 新たに分かることがあり、嬉しさとともにぞくっとしたよく分からない恐怖に似たものが背筋を這い上がっていくのを感じた。


「こっからは予想だが、俺の代償は俺の魔力全てだろーなぁ。前回の人生で、アメリアがいなくなった後、俺は術式をくみ上げ、黄色い水仙を媒体に魔術をかけた。その結果、魔力を全て失う代わりにアメリアは過去に送り届けることが出来た……とまあこんな感じだろうな。そしてここが恐ろしいんだけどさ、———たぶん魔獣をアメリアに仕掛けたのはきっと国王だ」


 ぞくっ、と今度は明確に恐怖を感じる。身をすくませ、真剣な師匠の顔を見つめているアメリアを安心させるように、師匠は柔らかく微笑む。


「だがまあ、今回の人生ではもう大丈夫だ。王太子が王位を継いだことで、国王は実質幽閉。国王に協力していた神殿側の腐った野郎どもも全て処刑されたと報告してきた。だからもう、大丈夫だ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ。もう大丈夫だ」


 繰り返し、大丈夫と伝えてくれる師匠に頷きを返し、ほっと息をつく。どうしてもまた誘拐されるのでは無いかという不安が拭いきれておらず、精神的に辛いものがあったのは事実だ。しかし、師匠を心配させたくなくて、その気持ちを押し殺していた。

 だが、もうその元凶の人たちがいなくなったのであれば、大丈夫だろう。


「良かった……」

「ああ。と言うわけで、アメリアの心配は全て拭えたか?」


 優しい声音でそう尋ねてくれる師匠に、わたしは全力で頷きを返した。


「あ」

「どうした?」

「あの、そういえば師匠の記憶ってもう戻らないんですか?」


 そう尋ねると、師匠はなぜか耳を赤くした。え、あ、ううん……と呟き固まっている。


「……え?」


 これは何事だ。


「いや、あのその……方法が、ないわけじゃ、ない……んだが」

「え!? それじゃあ戻しましょうよ! ねえ、どうすれば良いんですか!?」


 その方法があるならば、なぜ早く言わないんだ。

 その思いでせっつくわたしに、なぜか気まずそうな表情を浮かべる師匠。


「いや……その……」

「え、なんですか!?」

「いや……その、いや、そのぉ……」

「何ですか?!?」

「……すを、しないと」

「え?」


 ぼそぼそと呟く師匠の言葉が聞き取れず、耳を彼の形の良い唇に近づける。


「ごめんなさい、もういっ……」

「運命のキスを! しないと! いけねえんだ!」


 師匠に耳が痛くなるほど叫ばれ、ぽかんとわたしは口を開く。


 うんめいの、きす。うんめいの、きす。うんめいの、きす。うんめいの、きす。


 そのまま、たっぷり十数秒は固まって。


「……ええええええええ!?」


「うるせえ!」

「いや、うええええええ!? う、う、う、う、運命のキス!? いまどき、小説でもない展開ですよおおお!?」

「うるせー! 俺が決めたわけじゃねええよ!」

「そもそも運命のキスってなんですかああああ!? 誰が運命かなんて分かんないじゃないですか!」


 わたしが叫んだ言葉に、師匠はうっと言葉につまり、またぼそぼそと説明しだす。


「そんとき術者が好きな奴が相手だったら何でも良いんだと聞いた」

「っ!!??!?」


 驚きすぎて、もう叫ぶことすら諦めたわたしに、師匠が視線を向ける。


「っ、え、じゃあ、その、っ……誰と?」


 つい馬鹿正直に聞いてしまったわたしを見て、絶句する師匠。そのまま見つめ合い、何秒か固まった後。


 突如、師匠の手がわたしの頬に添えられた。え、え? と思考が追いつかないわたしに、師匠のもう片方の手がわたしの背中に回される。

 意外に師匠の手はごつごつしていて、男の人の手だった。

 師匠に触れられた箇所がじんじんと痺れる。


「は……」


 そのまましばらく至近距離で見つめ合う。そしてやがて、師匠の綺麗で美しく整った顔が近づいてきて、あ師匠の目きれいだな、なんてぼんやり考えていると———


 ふにゅ、と唇に柔らかなものを感じた、と同時に目を瞑る。


 そしてゆっくりと唇が離れた。名残惜しい、と感じた。


 目を開けると、師匠がこちらを覗き込んでいる。先ほどまでの赤い顔に、いつも通りの表情を、いや、どこかにやりとした笑みを浮かべている。


「え……?」


 もう、何も考えられなかった。


(嘘でしょ、今、わたし、———!)


 混乱に陥ったアメリアを宥めるように、師匠が口を開いた。その唇は、先ほどまでわたしのものと……!


「好きだ。アメリア。———今まで、待たせてすまん。だが、今も俺を好きだと思ってくれているのなら……っ、おわ!?」


 師匠の言葉は途中で遮られた。他でもないわたしによって。

 師匠に抱きついたわたしは、びえびえと泣いていた。


「っ、す、好きに決まってますぅぅ!」

「っておい、泣くなよ!」

「だっ、だってええ!」

「もう……ふ、ふはは」

「笑わないでくださいよお! わたし、これでも今まで我慢、っ、してきたんですからね!」

「はは、ありがとな。アメリア。好きだよ」


 師匠の身体からはなれ、にへらっと笑うと。


「好きです、師匠! 付き合ってください!」


 そう告げると、予想に反して彼の顔は歪んだ。


「俺は、弟子と付き合う気はねえ。だから———ルイスと呼べ」

 意味を理解した途端、わたしは満面の笑みを浮かべた。


「はいっ! ———ルイスさん!」

「アメリア。そういえば記憶も取り戻した」

「ほんとですか!? ってか何でそんなついで感あふれる言い方で言うんですか!」

「んあ? いやついでだもん」

「なっ!?」


 わたしの未来は明るい。


 素敵すぎる師匠に師事していて、魔術を使えて、そして、———

 これからは素敵すぎる恋人とともに、人生を歩めるのだから。

今までお読みいただきありがとうございました。

これで本編は最終話となります。

最後こんな感じでいいんか?と疑問を持ちながらも、まあ2人らしい終わり方かなと思い、このままとさせていただきます。

ミーニャのことや、王太子の活躍、ルイスの実家のことなどまだまだ書いていないお話がたくさんあって、そっちの方説明して!? という方もいらっしゃると思いますが、ひとまず...ということで。

また気分が向いたら書きます。はい。多分書くことになると思います。


こんな感じで締めくくりとなりますが、まだまだアメリアたちの生活は続いていっている...ので、想像とかしてもらったり?すると作者冥利に尽きます。


やっぱりまだまだ状況描写がへたへたで分かりにくい場面や何言ってんだこいつと思った方もいらっしゃるかもしれません。それでもお読みくださった方には感謝です。

これからも精進してまいりますっ!

それではお読みいただきありがとうございました。


葵生

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