第37話 金竜会会長、辰宮誠一郎③
「要求は二つあります。まず一つ目が、金竜会の被害にあった探索者に無償での武器供与をお願いします。少なくとも、彼らがDランクに上がるまで。ほとんど全員見つけられたと思うのですが、こちらで拾いきれていない人の分も合わせてお願いします」
「……ふむ。それはこちらがしでかしたことだ。仕方ないだろう」
誠一郎は少し考えた後にうなずいた。
探索者への武器供与は俺たちが約束したことだったが、これが予想以上の手間だった。
ダンジョン内の加速した時間の中で作業をしないといけないくらいには大変だ。
人数が多すぎて全員分の武器のメンテナンスをする余裕がないため、大量に作って大量に消費していくことになってしまったし。
正直、今後もこれを続けていくのは結構辛い。
何より、このままでは雅は東京から離れられなくなってしまう。
雅は大学生だから、卒業旅行とかにだって行きたいだろうし、俺たちだって雅と一緒に旅行とかにも行きたい。
その仕事を金竜会で引き取ってくれれば大変助かる。
被害者の探索者たちにも了承はとってある。
何人か嫌そうな顔をした探索者はいたが、パーティメンバーの説得を受けて、全員がOKをしてくれていた。
無茶苦茶してきた金竜会のお世話になるのが不安という気持ちもわかる。
だが、向こうもこのままでは雅が東京に拘束されてしまって辛いという気持ちがわかってくれたようだ。
それに、金竜会側としてもメリットはある。
低ランクの探索者を大量に抱え込めるということはその上澄みを金竜会に引き込めるということだ。
元々京平という探索者がやろうとしていたことだな。
それに、大量に抱え込んでしまった生産職の探索者に仕事を与えることにもなる。
今回のゴタゴタで契約破棄となった生産職も何人かはいたみたいだが、それでも今かなりの数の生産職を抱え込んでいることになる。
仕事のない生産職を大量に抱え込んでいるのははっきり言って結構辛いだろうから、金竜会としても渡りに船の提案だろう。
誠一郎は苦々しい顔をしているが、内心はしめしめと思っているはずだ。
ほんとに食えないやつだ。
まあ、大組織の長ともなればこれくらいの胆力はないといけないのかもしれないが。
「二つ目が俺たちが関東にいる間、金竜会は俺たちに敵対しないという契約を結んでもらいたい」
二つ目の要求は不戦協定だ。
契約術士というジョブの人間がいるみたいなので、ジョブの契約魔法を使ってしっかりと契約を結んでおきたい。
上級探索者なら無理やり契約を破ることもできるらしいが、大槌家も関わっている今回の話し合いで決まったことを破ることはないだろう。
契約で縛るのは下っ端が暴走しないようにするための保険みたいなものだ。
「……ふむ。それはすでに準備ができている。だが、関東にいるうちだけでいいのかい? もっと範囲を広くすることもできるが」
「今後俺たちはCランクのダンジョンにも潜っていきたいと思っています。エリアを広くし過ぎると、ダンジョン内で利害が相反した時に対応が難しくなるでしょう。でも、俺たちのホームである関東圏で襲われるのはゴメンなので、どんな理由があろうと敵対しないという契約を結んでほしい」
「……なるほど。わかった。それで契約を組み直そう」
誠一郎がチラリと入り口のところにいる女性に目をやると、女性は部屋から出ていった。
おそらく、契約書を修正しに行ったのだろう。
多分、元々は結構広い範囲での契約で、その代わり、いろいろな特例事項を設けるつもりだったんだろう。
特例事項を使えば抜け道をいろいろ作れる。
はっきり言って頭のいい相手との契約で抜け穴潰しはやりたくない。
本当は関東圏から東京にまでエリアを縮小するように交渉してくるかと思っていた。
大槌家のホームとなる離島も東京都に所属しているらしいし。
それでもいいとは思っていたが、今後引っ越しとかもするかもしれないし、関東一円をエリアに含められたのは結構嬉しい。
だが、そんなこともなかったみたいだ。
正直かなりホッとした。
こんな化け物と交渉するのははっきり言ってごめん被りたいからな。
会話らしい会話はしていないが、物理的に強いというだけでここまで交渉が大変になるとは。
「その二つでいいのかい? 君たちの立場ならもっといろいろと要求できたと思うが」
「『仇花に実はならぬ』と言いますからね。欲張り過ぎるのは良くないかと」
「ふむ。なるほどなるほど」
誠一郎は総司令ポーズで何かを考え出す。
金竜会としても悪くない提案をしたつもりだったが、まだ何かあるのか?
正直この人相手に交渉するのとかあまりやりたくないんだが。
でも、最低限今の提案の半分は飲んでもらわないと困る。
交渉になるかと思って少しこっち有利に設定しているが、あまり譲歩し過ぎると今後の生活に響きそうだからな。
俺はいいが、京子と朱莉、雅はまだ学生だ。
面倒なことはできるだけ抱え込まないようにしないと。
「大穴探くん。君、僕のものにならないか?」
「え゛?」
予想外の言葉が来て、俺は変な声をあげてしまった。




