第36話 金竜会会長、辰宮誠一郎②
「初めまして。私は辰宮誠一郎という。大槌雅くん。それと、そのパーティメンバーの大穴探くんと矢内京子くん、それに、有村朱莉さんだったね」
「……初めまして」
面談場所には化け物がいた。
目の前にいる相手はそう表現するほかない存在だった。
そこにいるだけで存在感が半端ないのだ。
まるで、大きな竜が目の前にいるみたいだ。
せっかく友好的に右手を差し出してくれているのに、雅は誠一郎を恐れてその手を掴めていない。
俺だってめちゃくちゃ怖いから雅の気持ちはわかる。
だが、相手が友好的に出てきているのにこちらがそれに返さないというのはあまり良くない。
俺は雅を庇うように一歩前に出て、無理やりその手を取った。
「初めまして。パーティリーダーの大穴探と申します」
「ほう?」
雅は俺の後ろに隠れるような位置に移動した。
やっぱりめちゃくちゃ怖かったみたいだ。
誠一郎は一度ぴくりと眉を動かしただけで、すぐに笑顔に戻る。
どうやら結構不快にさせてしまったようだ。
思い通りにいかなかったからかな?
だが、怖がっている雅をいつまでも前に立たせているわけにもいかない。
俺だって男の子なんだ。
女性である雅を前に立たせて後ろで震えてるわけにはいかない。
そんなところ見つかったら母さんにゲンコツをもらってしまう。
「君がこのパーティのリーダーでしたか。これは失礼」
俺が握手を返すと、誠一郎は俺の方ににこりと笑顔を向けてくる。
それと同時に少しだけ威圧感が和らいだ。
やっぱりこの威圧感はわざとだったか。
態度は友好的なのに全然友好的ではないみたいだ。
まあ、俺たちは金竜会と敵対しているのだから、当然のことか。
大槌家に文句を言われないギリギリのラインで圧力をかけてきやがる。
「では、席についてから話をしようじゃないか。中華料理のフルコースを準備しているのだが、君たちは何か食べられないものはあるかな?」
誠一郎が背後を指し示すと、そこには円卓が準備されていた。
さっきまでなかった気がするのに一体いつ準備されたんだ?
「……申し訳ありませんが、昼食は家で準備を済ませているので」
「そうか。それは残念だ。まあ、立ち話もなんだ。とりあえず座ろうか」
誠一郎は特に残念そうでもなくそう言うと、テーブルの方へと向かう。
俺たちもその後ろについていき、誠一郎の正面に座った。
正直、ここで食事とかごめんこうむりたい。
何が入ってるかもわからないし。
それに、コース料理ということはコースが終わるまでの間は拘束されるということだ。
料理を準備するのが誠一郎ということはいつまで拘束するか決めるのは誠一郎ということ。
これ以上この人にペースを握られるのはごめんだ。
昼食はすでに京子が準備を済ませてくれているので、いい感じの返しができてよかった。
「さて、今回はうちのものが君たちに多大な迷惑をかけてしまったみたいだね。大変申し訳ない。実行犯たちはしっかり警察に引き渡したよ。それと、大沼君の方はこちらで処分したのでもう君たちの前に現れることはないだろう」
「処分って」
処分と聞いて雅の顔が青ざめる。
雅はやり過ぎたんじゃないかと結構気にしていたからな。
「あぁ、処分と言っても少し遠いところに人事異動をしてもらっただけだ。うちはれっきとした企業だからね。野蛮なことはしないよ」
「そう、ですか」
そう誠一郎は笑顔で告げてくるが、あまり信用できない。
だが、この内容をこれ以上掘り下げても意味がないだろう。
もう、あの男が俺たちの目の前に現れないならそれでいい。
いや、正直、俺は一回雅と話している声を聞いただけで面識すらないんだが。
「それで、君たちへの賠償だが、一人一億円の慰謝料を考えている」
「お金は必要ないです」
「……そうかい? それは他のメンバーも同じ意見かな?」
「はい。すでに話し合っています」
今回、雅の受けた被害は少ない。
ずっと付き纏われて迷惑をしていたが、金銭的被害はほぼゼロだと言っていい。
部屋を荒らされたが、あの部屋は雅の趣味の部屋なので、はっきり言ってそこまで高いものは置いていなかった。
そこで問題になってくるのが、掲示板民の動きだ。
民意と言ってもいい。
ここでお金をもらってしまえば、今度は雅の方にヘイトが向かってしまうかもしれない。
あまり起こり得ないと思うが、ゼロではない。
雅は掲示板が好きみたいだから、雅が掲示板を利用しにくくなるような事態はできるだけ避けたほうがいいだろう。
どうも、掲示板では相当はっちゃけているみたいで、結局掲示板のURLを教えてもらえなかったし。
俺の見るところ日々黒歴史を積み上げているように見える雅がはっちゃけている姿というのは結構気になるのだが、本人が見られたくないというのだ。
諦めよう。
掲示板での情報収集は雅に任せればいいだろう。
結構頻繁に見てるみたいだし。
「その代わり、お願いしたいことがあるんです」
「……何かな? なんでも言ってみてくれたまえ」
セリフは友好的だが、圧が一段と上がった。
聞くだけ聞くが実行するかはわからないということだろう。
つまり、ここからが交渉の本番ということだ。




