第33話 力無き正義は無力。正義なき力は暴力③
「力を持ってしまえば、こうして他人の迷惑を顧みず行動してしまっている。僕に直接危害を加えてきたのはあの大沼という男だけなのに、その周りまで巻き込んでだ。今の僕がやっていることは、両親に横柄な態度をとっていたEランク探索者と一緒なんじゃないか。そんなふうに思ってしまってね」
「……」
「もし、僕が魔導装備技師になる前、戦闘ができない鍛冶師だったら大切な工房を荒らされてもきっとこんな行動は起こしていなかった。哲学者曰く、正義なき力はただの暴力だそうだ。僕は力を得たことで暴力を振るうだけのクズになってしまったのかな?」
どうやら、冷静になって考えてみると、やりすぎなんじゃないかと思い始めたみたいだ。
いや、まあ、俺も若干やりすぎじゃないかとは思っていたけど。
明らかに部屋を荒らされたことに比して報復が大きかったよねと。
……だが。
「まあ、これくらいならいいんじゃないか?」
「え?」
「世の中そう綺麗に白と黒に塗り分けられるわけじゃないよ。グレーな部分はたくさんある」
全てのグレーを排除して清廉潔白に生きるなんてことははっきり言って難しい。
生まれてから死ぬまで信号無視すらしたことがない人間なんていないだろうし、誰にも迷惑をかけたことがない人間なんて存在しない。
力が強くなれば影響力が大きくなって、それだけ周りに大きな迷惑をかけてしまう場合もあるから、力がなかった時以上に気をつけないといけないとは思うが、そんなことばかり気にしていたら何もできなくなってしまう。
「グレーな部分を全部排除しようと思ったら相当大変だぞ? 別に聖人君子になりたいわけじゃないんだろ?」
「……それはそうだけど」
グレーすら排除して潔白に生きるというのはとても大変だ。
不可能と言ってもいいかもしれない。
聖人が歴史の教科書に載るくらいにその生き方をできる人間は少ない。
その生き方をしたいというわけでないのなら、無理に潔白に生きようとする必要はないと思う。
「やりすぎなんじゃないかって心配なのかもしれないけど、今回は大丈夫だよ。むしろ、相手が大きいから、これくらいやらないと意味がない」
「そうだろうか?」
会社や企業っていうのは個人とはまさに格が違う。
個人なら千円落とせば大金を失ったと感じるが、組織であれば数千円の損失は痛くも痒くもない。
今回の事件だって、金銭的にはそこまで大きなダメージはないんじゃないだろうか?
というか、むしろ、大沼がやったことで金竜会のイメージが下がったことの方がダメージは大きいと思う。
もし俺が社長だったら、攻撃してきた相手より、イメージを下げた大沼の方を厄介だと思うはずだ。
どっちかというと、今俺たちがやっていることは直接攻撃しているというより、金竜会の上層部が無視できなくなるくらいに金竜会の非道を喧伝している感じだ。
テロというより、デモやストに近い気がする。
だから、雅が気にするほどのことでもないだろう。
「でも……」
「もしやりすぎだと思ったら俺が止めてやるよ。全部終わった後に失敗したってなっても一緒に謝りに行ってやる。世の中たいていのことは謝ればなんとかなるもんだ」
「……」
俺はそう言って雅の頭を撫でる。
あ、またやっちゃったと思ったが、雅は嫌がる様子を見せていないし、別に大丈夫だったのだろう。
セーフだ。
実際、人が死んだりとか取り返しのつかないことでなければ、たいていのことは謝ればなんとかなるものだ。
大人になればその謝るということが結構大変になってきたりするのだが。
謝るまでは自分の間違いを認めなくて済むからな。
誰でも自分の失敗を認めるのは怖いし、しがらみとかも色々と増える。
それに、謝っても許してもらえるとは限らないというのも謝るのが難しい理由の一つだ。
心情的なものは如何ともし難い。
心理的には損失を埋め合わせるには損失の三倍の利益が必要らしいからな。
相手に三倍儲けさせようとすると、今度はこっちが利益以上の損失を受けてしまう。
結果、報復合戦になってしまいがちだ。
そうして報復合戦にならないように警察のような組織が必要なのだろう。
探索者にも警察のような組織があるらしい。
旧家の中で一番大きい御剣家が中心の組織で、国との繋がりもあるそうだ。
最悪そこから何かしらの罰則は受けるかもしれないが、まあ、この程度であれば強制労働くらいのものだろう。
向こうがやってることもかなり黒寄りのグレーなんだし。
「それに、今やめたらそれこそ大変だぞ? 結構たくさんの人が関わってるからな」
「そうだね。みんなのためにも途中で止めるわけにもいかないか」
今回の作戦には結構多くの探索者の協力を得た。
直接やりとりをした人だけでなく、そのパーティメンバーも合わせれば百人は超える。
今止めてしまえばこちらが悪かったということになり、協力してくれた人たちにも多大な迷惑がかかるだろう。
こんな中途半端なところで止めるわけにはいかないのだ。
「どれだけかかるかわからないけど、最後までやり切ろうぜ」
「そうだね。関東以外でも影響は出ているらしいし、夏休みが終わるまでには決着をつけたいね」
どうやら、掲示板で日本中に金竜会の行動は広がっており、関東以外でも金竜会の人たちは肩身が狭い思いをしているらしい。
こういう状況になってくれば、解決するのは時間の問題だろう。
なんとかして、京子たちの夏休みが終わるまでには決着をつけたい。
今は夏休みだから色々と無茶ができているが、学校が始まればもう少し作戦を考え直す必要が出てくるし。
だが、この一週間後、金竜会の偉い人が訪ねてきたことによって、今回の事件は収束へと向かっていった。




